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2022.06.22

〈山﨑編集長のワイナリー巡り〉⑤宝水ワイナリー(岩見沢)テロワールが溶け込んだ手工芸ワイン

山﨑真理子
山﨑真理子

 北大水産学部時代に1年間、練習船に乗って遠洋航海に出ていた船乗り。北海道新聞社に入社後は、社会部の警察担当を振り出しに、網走、帯広、釧路など道内各地で勤務。東京勤務時代は政権交代時の民主党の番記者として、鳩山政権誕生を取材した。2022年4月にTripEat北海道を立ち上げ、初代編集長に就任、23年5月から千歳支局長。

山小屋風の宝水ワイナリーと、その前にたたずむ、映画のロケで使われた木製風車
山小屋風のワイナリーの前には、映画のロケで使われた木製風車が佇む

美しい景観が呼び込んだワイン造り

 「当時の市長を恨んでるの」
 そう言うと、宝水ワイナリーの倉内武美社長は、ちゃめっ気ある笑顔を見せた。
 ワイナリーなんて、全くやるつもりはなかった。それまでワインなんてほとんど飲んでいなかった。

なだらかな丘陵地にあり、美しい景観が広がる宝水ワイナリーのビンヤード
なだらかな丘陵地にある宝水ワイナリーのビンヤード。美しい景観が広がる

 岩見沢市宝水地区の稲作・畑作農家の3代目。連作障害を防ぐためにワイン用ブドウの栽培を始め、北海道ワイン(小樽)に全量出荷していた。2001年秋、畑で作業をしていると、農道に似合わない黒塗りの車が停車した。岩見沢市長(当時)が斜面を駆け上がってきて尋ねた。「これはなんだ?」。通りすがりに車窓から見た美しい景観に感動していた。

ブドウ畑の2メートルある木の杭が、ほとんど雪で埋まってしまう岩見沢の冬の光景
雪深い岩見沢市。ブドウ畑の2メートルある木の杭が、ほとんど雪で埋まってしまうことも

波瀾万丈の船出。借金と在庫が二重苦に

 これをきっかけに翌02年、市の声掛けで岩見沢市特産ぶどう振興組合が立ち上がり、宝水地区の農家有志がブドウ栽培を始めた。06年には宝水ワイナリーを設立。同年夏、購入した生食用ブドウで初めて仕込んだワイン3万5000本が完成したが、知名度も販売ノウハウもなく、借金と共に在庫として重くのしかかった。
 「まずは地元から」と、片っ端から営業にまわった。昔、酒問屋で配送のバイトをしていた経験が生き、「あんた見覚えあるよ」と少しずつ取り扱ってもらえるようになった。

宝水ワイナリーのワインボトル。すべてのラベルに「雪」のイメージがあしらわれている
全てのワインボトルに、凜とした美しさを備えた「雪」のイメージがあしらわれている

評価と共に広がる知名度

 この年、初めて自社畑のブドウを使った「RICCA(りっか)」シリーズを仕込み、ラベルを細い縦型にした。当初は「ワインらしくない」と批判も受けたが、今では、店頭のどこに並んでいても「すぐに宝水だと分かる」。

宝水ワイナリー1階の直売所に並ぶワインボトル
ワイナリー1階の直売所に並ぶワインボトル

 08年に国産ワインコンクールで銅賞を受賞したのを機に広く知られるようになっていった。13年には人気ワイン漫画「神の雫」で、「RICCA雪の系譜シャルドネ」が「芳醇(ほうじゅん)で自然を感じるワイン」と紹介された。

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映画の舞台に

映画の出演者のサインや写真なども見ることができる宝水ワイナリーの2階
ワイナリーの2階では、映画の出演者のサインや写真なども見ることができる

 景観の良さから、14公開の映画「ぶどうのなみだ」(主演・大泉洋)の舞台にもなった。ワイナリーの建物は、小樽の鉄工所を移設したもので、映画のセットに使われた風車や室内の様子を見学することもできる。

映画で使われたセットも飾られている宝水ワイナリーの2階
同じく映画で使われたセットも

 「宝水町の風土(テロワール)が溶け込んだ手工芸のワインを」をモットーに、9・5ヘクタールの畑で、レンベルガー、ケルナー、シャルドネなど7品種を栽培する。海底が隆起してできた畑はミネラル分が多く、「優しく、飲みやすいワイン」という。

ガラス越しに見える醸造タンクなどワイン醸造設備とその前に立つ倉内武美社長
宝水ワイナリーの倉内武美社長。窓越しに醸造タンクなどを見ることができる

宝水ワイナリーを守るために

 本当は、妻と2人、農業をやれるだけやって、それで終わりにしようと話していた。それが今、妻にブドウの世話をさせている。でも、投げるわけにはいかない。みんな本当によくやってくれている。何より、ここまで来て中途半端なことにはしたくない。
 今年2月で76歳になった。

 「今の従業員と一緒にワイナリーを継いでくれる人に、『RICCA』と『宝水』の両シリーズを守ってもらえればありがたい」

◇    ◇    ◇

 北海道にあるワイナリーは53を数え、今やワインの一大産地となっています。地形や気候、積雪量の違いなど、生産者たちは地域ごとのテロワール(風土)を生かし、時には自然と戦いながらブドウの樹を育て、ワイン造りをしています。

 人とブドウの生命力が勝ち取った「命の恵み」でもあるワイン-。

 そんなワインを生み出す北海道のワイナリーを編集長の山﨑が巡ります。


<宝水ワイナリー>

岩見沢市宝水町364の3

直売所のほか、ソフトクリーム販売施設もある(冬期間は休業)。ワインは自社栽培のブドウで仕込んだ「RICCAシリーズ」と、食用ブドウで醸造した「宝水ワインシリーズ」がある。

HPは、https://housui-winery.co.jp/

山﨑真理子
山﨑真理子

 北大水産学部時代に1年間、練習船に乗って遠洋航海に出ていた船乗り。北海道新聞社に入社後は、社会部の警察担当を振り出しに、網走、帯広、釧路など道内各地で勤務。東京勤務時代は政権交代時の民主党の番記者として、鳩山政権誕生を取材した。2022年4月にTripEat北海道を立ち上げ、初代編集長に就任、23年5月から千歳支局長。

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