札幌市農協(札幌)は明治期から生産されてきた「札幌伝統野菜」5種類の魅力を次世代に引き継ぐため、市内企業と新たな価値を創る「食の襷(たすき)プロジェクト」を始めた。縮小傾向にある生産規模の維持と、地元野菜への関心を高めてもらう狙いだ。枝豆を使ったケーキや、南蛮みそなど消費者に親しみやすい形にして、9月に入りPRを一層進めている。
同農協によると、2024年度末の正組合員戸数は3068戸。札幌伝統野菜に携わる25年の生産者戸数は札幌黄27戸、サッポロミドリ6戸、ナンバン3戸、札幌白ゴボウ2戸、札幌大球1戸と限られている。5種類それぞれ風味に優れる一方、病気に弱く栽培に手間がかかり、流通量の維持が課題となっている。
◆ショコラティエマサール×枝豆・サッポロミドリ

同農協は今年に入りブランド化を進めようと協力を呼び掛けた。札幌の洋菓子店「ショコラティエマサール」と札幌グランドホテル、スープカレーの奥芝商店、星沢クッキングスタジオが参加する。
ショコラティエマサールは12日から11月末まで、サッポロミドリを使ったケーキ「ミゼラブル」(702円)を市内全4店舗で販売。シロップで煮た枝豆とユズをバタークリームに混ぜ込み、抹茶生地と合わせた。豆本来の風味や食感を楽しめる一品だ。
◆グランドホテル×札幌大長ナンバン

札幌グランドホテルは10月末まで「北海道の秋フェア」と銘打ち、レストランやショップで、伝統野菜の料理やパンを提供している。札幌大長ナンバンを原材料に使う定番商品「南蛮味噌(みそ)」(756円)もある。
同ホテルの伊藤博之総料理長(60)は「名物のオニオングラタンスープに欠かせない札幌黄をはじめ、伝統野菜には生産者の思いが詰まっている。継承に貢献したい」と話す。2014年に札幌伝統野菜を組合長とともに農協として打ち出した、当時の副組合長の農業吉田照一さん(79)は「京野菜のように伝統に魅力を感じて食べてくれる方が増えたらうれしい」と力を込める。
同プロジェクトではスープカレーやニシン漬けの販売も予定。市農協の軽部幹夫組合長は「札幌伝統野菜がつないできた地域の食文化を、地域全体の力で守っていきたい」としている。(高田かすみ)
◇札幌伝統野菜◇ 明治期の開拓使が農業を推進した札幌で生まれ、守り伝えられてきた野菜。札幌市農協によると、札幌市内で栽培され、品種に「サッポロ」の地名が入ることなどを条件としている。タマネギの札幌黄や肉厚なキャベツ「札幌大球」に加え、大ぶりで辛味が強い「札幌大長ナンバン」や枝豆「サッポロミドリ」、札幌白ゴボウの5種類。札幌市農協が地名を冠した品種として命名した。食文化を伝承する地域の宝として同農協が2014年から、栽培や普及の取り組みを強化している。
(北海道新聞2025年9月11日掲載)