【富良野】市内新富町の人気パン店「sora no kujira(そらのくじら)」が米粉を原料にしたパンと焼き菓子の専門店として再出発した。店主の西山拓志さん(44)は今年6月に小麦アレルギーを発症し、休業。一時はパン作りをあきらめかけたが、小麦アレルギーの人に配慮し、グルテン(タンパク質の一種)を含まないパンを焼き続けると決心した。「自分と同じような人でも安心しておいしく食べられるパンを作りたい」
拓志さんは南富良野町出身。町内の福祉施設で働いていたが、28歳ごろに「新しいことを始めたい」とパン職人を志す。帯広市のパン店で4年ほど修業し、2011年に富良野市幸町に妻の夢希(ゆき)さん(38)と店を開き、15年に現在地に移った。口コミで評判が広がり、市外からも客が訪れる人気店に成長した。
拓志さんの体に異変が生じたのは今年6月上旬。せきが止まらなくなり、声を出しづらくなった。小麦アレルギーと診断され、医師からは「小麦から離れた生活をしないと(症状は)良くならない」と言われた。店は休業し、同時期に夢希さんの小麦アレルギーも判明した。投薬や通院で拓志さんの症状は落ち着く一方、「もうパンは作れないのか」という思いがよぎり、転職も考えた。
しかし、パンへの思いは断ち切れなかった。「調理器具やこれまでの経験を生かしたい」。夢希さんと出した結論は、米粉でパンを焼くことだった。小麦粉より生地の成形が難しく、焼く時の温度も違う。約2カ月かけて試作を繰り返し、9月26日から再開にこぎつけた。
店で売る米粉パンはグルテンを含む小麦を一切含まない。また、価格は高いが、米粉は全て国産にしている。「バナナパウンドケーキ」(700円)や一番人気の「食パン」(750円)は、小麦のほか牛乳と卵も不使用でアレルギーに配慮している。
再開後、最もうれしい瞬間は、アレルギーのある子どもが、親と再び元気に店に来てくれた時だという。「やっぱり、もしアレルギー反応が出てしまったら、おいしくないと思われたらと不安で」。小麦入りのパンを食べられなかった人にもパンのおいしさを伝える。拓志さんと夢希さんの新しい挑戦が始まった。
店頭販売は火~木、土の午前11時~午後6時で、商品がなくなり次第終了する。問い合わせは同店、電話0167・56・7355へ。(相武大輝)
(北海道新聞2022年11月29日掲載)