いてつく2月、道内は海も山も、旬の1次産品がめっきりと少なくなる。そんな中、渡島管内知内町では、カキとニラという二つの特産品がおいしい時期を迎える。料理で組み合わせると相性も抜群といい、住民は「マチの顔」と誇らしげに語る。寒さが育む旬の味覚を、津軽海峡に面した町に求めた。(文・森井泰博、写真・阿部裕貴)
<カキ>
1月下旬の朝、吹雪模様の知内町中の川漁港に戻った漁船の上には、大きく育ったカキが山積みされていた。肩に積もる雪も気にせず、漁業者の西山徹さん(53)が、殻についた他の貝などを取り除きながら、素早く選別していく。殻の形が複雑なものはむき身用、殻が大きく形のきれいなものは殻付き用のかごに次々と入れられる。
水揚げは1回で500~750キロ。早朝から作業を始めても、午後3時ごろまでかかる日もある。「春になって雪解け水が海に流れ込むと、餌のプランクトンが多くなり、カキはさらに大粒に成長する。これから、どんどんうまくなるよ」。西山さんの声が弾んだ。
外海での養殖
知内町のカキの養殖は港から1キロほど沖合、水深20メートル前後の外海で行われている。種苗は宮城県石巻市から購入し、1年半以上かけて津軽海峡で育てた「2年カキ」を出荷する。
関係者によると、外海は一般的に内海と比べ、植物プランクトンの量が少なく、養殖期間が長くなる傾向にある。カキの稚貝をつけたロープが絡むなど波の影響も受けやすい。全国の主なカキの主な産地が湾や、淡水と海水が混じる汽水湖なのはこうした理由からだ。
知内では40年ほど前から「育てる漁業」の一環として、試行錯誤しながらカキ養殖を進めてきた。西山さんは、波の影響などを少なくするため、海面から約6メートルの海中に幹縄を固定し、カキのついたロープをつるして育てる。出荷する1カ月半ほど前には、プランクトンが豊富で日光の当たる海面近くに幹縄を少し上げ、身入りを良くする。
漁業者が工夫を重ね、知内は全国的に珍しい外海での養殖ながら、道内有数のカキの産地になった。現在、町内でカキ養殖に携わる漁業者は24人で、2020年の水揚げ量は56トン(むき身換算)。市町村別では5位に位置する。
熟練のむき身
知内のカキはほぼ生食用のため、水揚げ後すぐに出荷するわけではない。上磯郡漁協ではむき身用が24時間、殻付き用は48時間、紫外線やオゾンなどで殺菌、滅菌した海水に生きたまま入れ、雑菌や不純物を排出させる「浄化」を行う。
出荷の割合はむき身が8割を占める。漁港近くの施設では、浄化を終えたカキが一つ一つ手作業で殻から外され、傷ひとつない乳白色のむき身になる。むくのにかかる時間は1個につきわずか5~6秒。まさに熟練の技だ。
漁協中の川支所長の片寄(かたよせ)美香さん(41)は「むいているのは皆、カキ漁師の家族や親戚の人らです。長年培った技術が、漁師たちを支えています」と語る。
むき身は滅菌した海水で計3度洗った後、風味を損なわないよう、滅菌海水とともにパック詰めに。最後にパック内に貝殻が残っていないかどうかを目で確認し、ようやく出荷される。
安定した取引
知内のカキは大半が市場ではなく、コープさっぽろ、イオン北海道といった道内の流通業者と直接取引されている。上磯郡漁協参事補の冨森昌孝さん(56)は「安定した出荷先と、単価を確保することができる」と説明する。
20年の取引価格は1キロ当たり平均で約1150円。札幌中央卸売市場での道内産カキの平均取引価格と、ほぼ変わらない。月別では、11~12月が約1500円で最も高く、1~3月は1200~1300円だった。
イオン北海道(札幌)は扱う道内の産地を増やそうと、10年ほど前から知内産を仕入れている。今は全体の3割を占め、道内外6産地のうち3番目という。
食品商品部の水産担当バイヤー守田知広さん(44)は「粒が大きく、肉厚で弾力もある。こちらがイメージしているものを提供していただいている」と評価。1月からは知内産の販売を強化している。
<ニラ>
白銀の中に立つビニールハウスの扉を開けると、盛夏を思わせるような深い緑色が目に飛び込んできた。中に漂う独特のにおいが、食欲をそそる。1月下旬、知内町ニラ生産組合長を務める北島道男さん(51)のハウス(同町重内(おもない))では、眠りから目覚めた「一番ニラ」の収穫が盛んに行われていた。
引き合い強く
昨年の収穫を終えた後、休眠に入った株は冬場、栄養を蓄えていく。その後、年明けの出荷に向けてハウスにビニールを掛けたり、ボイラーでハウス内を加温したりすることで新たな芽を吹き、肉厚で幅が1センチ以上の広い葉を伸ばす。
北島さんが高さ50センチほどに育ったニラの根元を、専用の鎌で優しく切り取ると「ザクッ」という音とともに、太い茎から水が次々としたたり落ちた。「水分が多くて、かむと強い甘味がじゅわーと広がるのが一番ニラの特徴。食物繊維が豊富なのに、軟らかいので口にも残らない」。北島さんは笑顔で語る。
知内のニラはほぼ通年で収穫され、全道の6割以上を占める。一番ニラの収穫は5月下旬まで続くが、出始めの1~2月はとりわけ市場の引き合いが強い。
新函館農協知内基幹支店によると、昨年の収穫量1930トンのうち、1月は62トン、2月も139トンと合わせて全体の10%ほどしかない。1、2月の市場での1キロ当たりの取引価格は平均千円以上と、一番ニラ全体の平均価格より300円以上高い値がつく。
ブランド確立
市場の評価を支えているのが、ブランド「北の華」を確立した品質管理だ。鮮度を保つため早朝に収穫されたニラは、5度の予冷庫にコンテナごと入れられ、収穫前と同じように立てた状態で保管される。
翌日、2017年に稼働を始めたニラ共同調整包装施設で1束100グラムに計量して結束、フィルム包装が自動で行われる。「金属検出機で異物の混入を防ぎ、2カ所のウエートチェッカーで正確な重量も確保しています」と支店生産施設課の千葉大輔さん(34)は説明する。
04年春には、道内でもいち早くトレーサビリティー(生産流通履歴)も導入。生産者情報はもちろん包装日や包装した機械も、包装の表示で分かるようになっている。消費者に安全・安心なニラを届け続けた結果、約50年前に8戸だった生産者は69戸、栽培面積約30ヘクタールにまでなった。出荷先も全道はもとより、関東や関西まで広がった。
組合長の北島さんは言う「どのニラをだれが作っているか分かるので、ブランドを守るため『みんなで良いニラを作ろう』と全員が高い意識を持っている。最大の強みは組織力、団結力です」。高みを目指し一つになった農家の思いが、安全でおいしいニラを育む。
火加減で引き立つおいしさ
知内町小谷石(こたにいし)地区にある民宿「ムラカミヤ」は、地場産の新鮮な魚介類を使った料理で知られる。4~9月はランチも提供しており、宿泊者以外も手軽に楽しめる。中でも、ニラとカキを使ったさまざまな料理が一度に味わえる「知内牡蠣(かき)ニラ御膳」が人気という。
カキは7個を使用し、蒸し、フライ、生と3種類の調理法で提供する。「雑味がなくさっぱりした味わいなので、たくさん食べても飽きません」と、地元出身のオーナー村上紘介さん(31)。カキが苦手でも「これなら食べられる」と箸をのばす人もいるそう。
ニラは1束をニラ玉と、しゃぶしゃぶで出す。「特に一番ニラは甘味が強いので、十分に主役を張れる食材です」
どの料理も素材の味を生かすため、味付けは最小限だ。その中で、しゃぶしゃぶのスープは地元の昆布をはじめ魚のアラ、シイタケなどから取っただし汁に、日本酒を加えるといった手間をかける。
スープでニラに熱を通し、ポン酢につけて口に運んだ。「シャキ、シャキ」という音とともに、香ばしいにおいが鼻に抜ける。「生のカキを入れてもおいしい」というお勧めに従う。熱で身の弾力が増したカキとだし汁が相まって、海のように深い味わいが舌にまとわりついた。
料理する際、村上さんは「蒸しガキは身に熱が入る直前で火を止めると、素材の味を楽しめる。ニラしゃぶは、しっかり火を通して少し軟らかくした方が甘味が引き立つ」と話す。
牡蠣ニラ御膳は今季、2千円の予定。宿泊は1泊2食1万円。旬の時期の夕食にはカキは天ぷらや生で、ニラは海鮮鍋の野菜などで必ず出しているという。予約、問い合わせはムラカミヤ(電)01392・6・7288へ。
ニラは全道のスーパー/カキは直販も
カキは直売しており、上磯郡漁協のホームページと、漁協中の川支所(知内町中ノ川47)の直売所で購入できる。問い合わせは同支所(電)01392・5・5627へ(支所は少人数のため、電話応対できない場合がある)。
スーパーのイオン、マックスバリュはほぼ全道の店舗で扱っている。釧路など発注の少ない地区もある。コープさっぽろは函館や札幌地区などが中心で、旭川、釧路、北見では販売していないという。
ニラは、ほぼ全道各地のスーパーなどで取り扱いがある。通信販売は行っていない。問い合わせは新函館農協知内基幹支店生産施設課(電)01392・5・5511へ。
(北海道新聞2022年2月11日掲載)
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