グリーンアスパラガスと言えば、北海道の初夏を代表する味覚だ。しかし、栽培方法も品種も春夏のアスパラガスとは全く異なり、冬に旬を迎えるグリーンアスパラガスが道内にある。限られた地域でしか作られず、収穫量も少ない希少性から、1キロ3千円以上の高値で取引されることも珍しくない。主な産地の一つで、マチを挙げて冬アスパラガスを「冬姫(ふゆひめ)」ブランドで売り込むオホーツク管内美幌町を訪ねた。(文・森井泰博、写真・岩崎勝)
12月6日、美幌町には雲一つない青空が広がっていた。この日の最低気温は氷点下7・2度まで下がったが、柔らかな日差しが降り注ぐビニールハウス内の温度は日中、暖房がなくても24~25度まで上がる。汗ばむ陽気の中、緑鮮やかなみずみずしいグリーンアスパラガスが、何十本も空に向かって新芽を伸ばしていた。
「この時期の晴天と寒暖差があるからこそ、美幌では冬においしいアスパラガスが育つんです」。同町同町美禽(みどり)の農業高橋義博さん(58)、一世さん(30)の親子は声をそろえる。
美幌町で、農閑期のビニールハウスを活用した冬アスパラガスの栽培が始まったのは2012年度から。初年度は4戸、90平方メートルで始めた栽培は本年度7戸、530平方メートルまで増えた。
栽培は日本独特の「伏せ込み」という方法を用いる。美幌町では屋外の畑で1年半かけて育て、栄養を蓄えたアスパラガスの根株を秋に掘り起こす。根株はビニールハウス内に植え替え、伸びた新芽を収穫する。品種は「太宝早生(たいほうわせ)」という伏せ込み栽培専用に国内で開発されたものだ。
春夏にハウスや露地で育てるアスパラガスは、いったん植えると10年以上収穫できる。しかし、冬アスパラガスは「生命線」である根株の養分を使い切ってしまうため、たった1年しか収穫できない。毎年根株を育てて掘り起こし、植え替える手間が掛かる半面、新芽だけを供給できる。
根株は秋に気温が低くなってくると休眠に入るが、さらに気温が下がって5度ほどの低温に長時間さらすと、眠りから目覚めて芽を出す準備に入る。この低温時間が短いと収穫量に影響し、植え替え後は日照量が足りないと、アスパラガスは成長が遅く、色づきも悪くなるという。
「秋が早くて朝晩の冷え込みも厳しい上、冬に好天が続く美幌町は、産地としての環境が整っている」。栽培を主導する町美幌みらい農業センター所長の午来博さん(51)は強調する。
今年は秋が暖かく、例年10月に行われる根株掘りは11月上旬までずれ込んだ。だが、それは経験を踏まえ、センターや生産農家、美幌町農協など関係者が協議を重ね、ぎりぎりまで掘る時期を見極めた結果でもあった。「これまでで最も大きい根株ができた」と午来さん。
昨年度は1・5トンだった収穫量は本年度、2トン近くを見込む。札幌や北見の市場に出荷されるほか、美幌町農協のネット通販や町のふるさと納税の返礼品としても扱っている。問い合わせは農協青果課(電)0152・72・1117へ。
高い希少性 高値で取引
伏せ込み栽培による冬のアスパラガスは道内だけでなく、東北地方など道外でも作られている。アスパラガス栽培を30年以上研究する酪農学園大農場生態学研究室の園田高広教授(58)によると、国内の主な産地は伏せ込み栽培を開発した群馬県をはじめ、秋田県、岩手県など。道内ではオホーツク管内美幌町のほか、檜山管内厚沢部町や上川管内比布町などで取り組む。
美幌町の特徴について、園田教授は「根株の育成から生産物の出荷まで町、生産者、農協が話し合って連携する体制をつくっている。冬のアスパラガスでは珍しい『冬姫』というブランドを確立できたのも、その成果」と評価する。
2020年度の道内のアスパラガス収穫量は3810トンに上るが、関係者によると、うち冬物は10トンに達しないとみられる。市場での1キロ当たりの価格はハウスや露地物が800~ 1300円なのに対し、冬物は2千~3500円。20年度の美幌産の平均価格は1キロ3千円だった。本年度の収穫は、11月下旬から美幌と比布で始まった。例年12月中旬の厚沢部町は、来年1月にずれ込む見通しという。美幌は1月末ごろ、比布と厚沢部は3月末ごろまで続く。
塩ゆでで甘味と歯ごたえ
冬のアスパラガスは「甘味が強く、独特のえぐみがほとんどない。アスパラガスが苦手な人でも食べられる」と、関係者は声をそろえる。それを生かすには「あまり手を加えず、素材の味を引き立たせる調理法が一番」と、オホーツク管内美幌町の栽培農家高橋義博さんの妻美幸さん(59)は言う。
美幸さんは「『王道』はゆでアスパラガス。心持ち硬めにゆでると、シャキッとした歯応えが楽しめます」。水からゆでるとうま味が逃げるので、湯が沸騰してから、ひとつまみの塩とアスパラガスを入れる。太さにもよるが、ゆでる時間は2~3分が目安。旬を迎えたナガイモと、ベーコンとチーズと一緒に炒めてもいい。
キンピラ、めんつゆ漬け、酢漬けは栽培農家らしく、出荷作業でアスパラガスの長さを切りそろえた際に出る端っこを使った。家庭で下部を切った際にも応用できる。「下の部分は皮が厚いので、ピーラーではなく包丁でしっかりむきます」と美幸さん。
ゆでたアスパラガスを味わってみた。筋が気にならずサクッとかみ切れ、心地よい歯応えに驚く。口に含むと、さらっとして、舌を優しく包むような甘味が口の中に広がった。
「毎日食べても飽きない冬の恵みです」。高橋さん夫妻の言葉に、手塩にかけて育てたアスパラガスへの愛情がにじんだ。
(北海道新聞2021年12月10日掲載)
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