一時は「幻の魚」と呼ばれたニシン。網の目を大きくして小型の魚を取らないなど、漁業者らの資源回復の努力が功を奏し、近年の漁獲量は増加傾向にある。活気づく石狩の港を訪ねて、ニシン漁の船に乗せてもらった。(文・有田麻子、写真・井上浩明)
7日午前5時半ごろ、石狩市厚田区の濃昼(ごきびる)漁港から約500メートル沖。信栄丸(しんえいまる)(4・9トン)の漁師たちが、前日に仕掛けておいた網を引き上げ、銀色に輝く魚体を次々にかごに入れていく。船長の藤巻信三さん(48)は「今日は今年一番の水揚げだ」と顔をほころばせた。
港に戻って作業場に運ばれたニシンは、浜で働く「おかまわりさん」が1匹1匹丁寧に網から外し、おなかを軽く絞って卵か白子かを確認、雄と雌に分けていく。この日、信栄丸は3回出港して10本の網を回収、計約9トンを水揚げした。
石狩湾沿岸(石狩管内)のニシンの漁期は1月に始まり、3月下旬~4月上旬まで。海底に網のカーテンを張り、泳いできた魚をからませてとる「固定式刺し網」と呼ばれる方法を採っている。道水産林務部のまとめによると、今年1月末時点の漁獲量は前年同期比約2・5倍の147トンで、滑り出しは上々だ。
かつて、日本海を中心に年間100万トン近くに及ぶ漁獲量だったニシンは1950年代以降、100トン以下に激減。しかし、近年は資源が徐々に回復している。石狩管内の2022年の漁獲量は前年比1・8倍の2699トンだった。
増加の背景として、道立総合研究機構中央水試(後志管内余市町)の資源管理部、城幹昌さん(45)は「水温や餌の好条件が重なったためか、03年ごろから数年おきにベビーブームのような現象が起きた」と指摘。漁業者が00年代から取り組む、網の目を大きくして若い魚を取らない資源管理も強く影響しているほか、道が96年に始め、現在は民間で行う稚魚の放流事業も資源を底支えしているとみられる。
藤巻家で好むのは昆布だしのニシン汁。雄を使い白子ごと食べる。「身がやわらかく煮崩れしやすいので、具はいろいろ入れず、シンプルに長ネギを散らすのがうまい」と藤巻さんは勧める。
札幌市中央卸売市場では雌は1キロ当たり500円前後、雄は同200円前後で取引されている。
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*刺し身は必ず雄 かば焼きも簡単
石狩・後志管内漁業士会が、石狩市の花川北コミュニティセンターで開いた「漁師が教える水産教室」。石狩市と小樽市の漁業士8人が市民14人にニシンの刺し身とかば焼き、ニシン汁の作り方を教えた。
漁業士は道が認定した指導的な役割を担う漁業者。4日に開かれた教室の講師の一人、石狩市の漁業士、中井寿美子さん(62)は「刺し身は必ず雄を使って。身がおいしいから」と助言。かば焼きは市販のすき焼きのたれを使えば簡単にできるそう。
参加した石狩市のパート従業員小野寺優子さん(56)はかば焼きを試食しながら、「くせもなく、ふっくらしていて、とてもおいしい」と笑顔を見せた。
(北海道新聞2023年2月16日掲載)
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