【利尻】島に「ボス」が帰ってくる―。2019年に閉店した町内の人気洋食店「ビストロヤ シーラカンス」の元シェフで、ボスの愛称で親しまれる新谷(しんや)卓美さん(52)が故郷に戻り、再び腕を振るう。「生まれ育った利尻で、お客さんの顔を見ながら料理を作りたい」となじみ客らを迎える日を心待ちにしている。
創作イタリアンを中心に料理を提供する店は、シーラカンスの後を継いだ「アンバロン」。4月21日にリニューアルオープンする。レタスにたっぷりのタコが乗る特製サラダ、甘味と酸味がマッチしたブドウとマダイのカルパッチョ、ホタテと利尻の岩のりを使ったリゾット―。おしゃれなメニューが並び、「夏には島のウニでパスタを出したい」と声を弾ませる。
シーラカンスは2000年に開業。店名は、新谷さんが交通事故による入院中に何度も夢に見た飲食店の名前からとった。趣味が料理だったこともあり、一念発起し、利尻の電気工事会社を辞め、札幌の店3カ所で1年間の修業を重ねて開いた。島では珍しい洋食店として人気を集め、島民の憩いの場になった。「年代や性別を問わず足を運んでくれた」と懐かしむ。
17年には飲食店の格付け本「ミシュランガイド北海道特別版」でコストパフォーマンスの高い店に贈られるビブグルマンを獲得した。だが、50歳目前で、新天地での挑戦を求めて店をたたみ、妻の出身地の千歳市で同じ名前の店を構えた。
新たな店は軌道に乗ったが、客の顔が見えづらく、もどかしさを覚えていた。そんな昨秋、シーラカンスの後を継いだ飲食店「アンバロン」のオーナー江刺家堂真(えさしかたかまさ)さん(37)から「シェフが不在になった」と聞き、「何とかしてあげたい」と島に舞い戻った。
新谷さんは昨年12月からアンバロンで計3回、「恩返し企画」と銘打って期間限定の料理を提供。約30席のこぢんまりとした店内は毎回、満席になる人気ぶりで多くの島民から「ボス、戻って来て」と声をかけられた。料理人と客の距離が近く、「必要とされるまちで仕事をしたい」と、千歳の店を閉めて故郷に戻ることを決めた。
新アンバロンでは、利尻昆布のだしを唐揚げの漬けダレにするほか、ワカメやのりなど地元海産物をふんだんに使う。千歳からはアスパラやトウモロコシなど新鮮な野菜を取り寄せる計画で、「利尻と千歳の良い食材を使い、島の人にも観光客にも喜ばれる店にしたい」。(菊池真理子)
(北海道新聞2023年3月25日掲載)