製造元の廃業に伴い、昨夏で姿を消した音威子府村の名物「音威子府そば」が関東地方で「復活」した。この黒いそばを看板メニューにしてきた千葉と東京の飲食店2店がタッグを組み、新しい音威子府そばを開発。音威子府産の原料を使い、独特の黒い色とそばの強い風味を感じる麺を再現し、人気を集めている。
新音威子府そばを開発したのは千葉県茂原市の「音威子府食堂」と、東京都新宿区の「音威子府TOKYO」。音威子府食堂を営む佐藤博さん(69)は音威子府出身で実家はソバ農家。高校卒業後に上京し、飲食業界で働いてきた。地元の名物を関東の人に味わってもらいたいと2019年1月末に食堂を開業した。
2022年春、製造元の畠山製麺が廃業する意向が報道されると、「ショック。これからどうしよう」と途方に暮れたという。
同じそばを売りにし、悩んでいたのが知人の音威子府TOKYOの店主鈴木章一郎さん(40)。2人は新しいそばを共同開発することで意気投合し、茂原市の老舗製麺業者、三浦家製麺に製造を持ちかけた。
畠山製麺の音威子府そばは、ソバの実を殻ごとひく独自の製法で、そばの風味やコシが強く、麺が真っ黒なのが一番の特徴だった。
しかし、佐藤さんは「畠山さんのそばは門外不出の味。そばについて一から勉強した」と振り返る。実家から原料のソバを取り寄せ、試作を重ね、畠山製麺のものと食べ比べを繰り返した。三浦家製麺の斎藤実社長(44)は「ゆでた後の色味を再現するのがとても難しく、なぜ出せるのか理由を突き止めるまで時間がかかった」と明かす。
新音威子府そばが完成したのは今年1月。音威子府食堂では「ざるそば」や「かき揚げそば」で提供し、来店客から「色が黒くてのど越しが良い」などと喜ばれているという。音威子府TOKYOでも大型連休中に期間限定で提供した。
「生きている間に音威子府でそばを作って販売していくのが目標。生まれ育った村に貢献したい」と佐藤さん。JR音威子府駅構内の名物そば店「常盤軒」の駅そばを食べたことをきっかけに店を出した鈴木さんも「音威子府から新しいそばを売っていきたい」と構想を描いている。
新音威子府そばはインターネットで購入可能。3食800円(送料、手数料別)。購入は音威子府食堂のホームページへ。(朝生樹)
(北海道新聞2023年5月18日掲載)
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