セロリ(セルリー)は独特の香りとシャキシャキの食感が魅力だ。冷涼な気候と周囲の山々からの沢水に恵まれた胆振管内洞爺湖町は道内で最も早く、50年ほど前から栽培に取り組む。5月末から始まった収穫は今がピーク。みずみずしく、鮮やかな緑色が美しいセロリを求め、洞爺湖畔の町に向かった。
6月7日、雨上がりの町には湖からの風が穏やかに吹いていた。ビニールハウス内には鮮やかな緑色のセロリがまっすぐに伸び、青々とした香りで満ちている。
午前4時半から収穫し、とうや湖農協セルリー振興協議会長の京谷元樹さん(41)は弟の直樹さん(39)、母のうめ子さん(72)と3人で、2時間半かけて約300株を刈り取った。鎌で根元を切ると、ザクッと小気味良い音がして、切り口に触れるとしっとりしている。
収穫後は乾燥を防ぐため真空予冷装置にかけ、中心部の温度を2度まで下げてから出荷する。外葉をむき、出荷時の1株の重さは平均で1・7キロ程度という。
「セロリは乾燥に弱いため、豊富な水が必要。うちでは沢から引いた水を池にためてくんで使っている」と元樹さん。大小7棟のハウス計約3千平方メートルで約1万2千株を栽培する。水やりは3日に1回程度で、1回に2千リットルを使う。3月初旬の苗の定植から5月末の収穫前まで、計5万リットルを使う計算だ。
うめ子さんは「寒さや暑さにも弱く、手のかかる繊細なお姫様のよう」とほほ笑む。適温は20度。春先はハウスに2重にカーテンをかけ、畝にはビニールトンネルをかぶせる。さらに、10度以下にならないように温風で調節する。今の時期はハウスに遮光ネットをかけ、側面を開放して風通しを良くしている。
洞爺湖町でセロリの栽培が始まったのは1970年代。農業者が高収益の作物を探して施設園芸の盛んな浜松市へ研修に行き、勧められたのがきっかけという。国内では生で野菜を食べる習慣が浸透し、サラダ需要が伸びていた頃だった。
ただ、生産者は徐々に減少している。とうや湖農協セルリー振興協議会の会員は2010年には19人だったが、22年は11人まで減った。農協取扱量も508トンから136トンまで下がった。農協担当者の渡辺修平さん(34)は「生産者の高齢化だけでなく、温暖化の影響で年々作りづらくなっている。新しい品種を試すなどしている」と説明する。
観光施設「とうや水の駅」(洞爺町100)では1株300~400円で、例年7月半ばまで販売している。問い合わせは「水の駅」電話0142・89・3108へ。
(文・有田麻子、写真・小室泰規)
〈これが旬!〉春レタス 肉厚やわらか*胆振管内むかわ町*暖房使わず じっくり栽培
*つくだ煮や漬物 和食もお勧め
セロリはスープなど主に洋風料理に使う。生産者らしく、京谷うめ子さんは「つくだ煮や漬物などの和食にも合う」と積極的に取り入れている。
つくだ煮は葉や細い茎の部分をみじん切りにし、水あめと砂糖、酒、めんつゆで煮る。漬物は茎を薄く切って湯通しし、めんつゆにつけて一晩寝かせる。
口に運ぶと、つくだ煮は甘辛さに独特の香りがマッチして驚いた。漬物はシャキシャキの歯応えが楽しい。ご飯にも酒にも合いそうだ。「葉は天ぷら、茎はきんぴらにするのもお勧め」
下処理は筋の先端部分に包丁を引っかけ、引っ張る。加熱せずサラダにする時は、繊維を断つように斜め薄切りにすれば食べやすい。スティック状に切り、みそマヨネーズをつけてシンプルにいただくのもいい。
うめ子さんは「茎が肉厚で、葉が鮮やかな緑色のものが質が良い」と教えてくれた。(有田麻子)
(北海道新聞2023年6月15日掲載)
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