初夏の産卵期を終えたホッキ貝は、寒い冬に向けて栄養を蓄え、身を引き締める。水揚げ日本一を誇る苫小牧では、漁師たちによる長年の資源管理によって、漁場が守られてきた。秋の旬を迎えるホッキの水揚げや、一次加工の現場を訪ねた。
22日午前5時半ごろ。晴れ間がのぞく苫小牧漁港に、ホッキ漁を終えた船が続々と帰ってきた。「最近はしけが多かったので、漁に出られて良かった」と第28幸亀丸(5・2トン)の男性船長は、ほっとした様子。15キロごとにかごに入れられ、30箱ほどに積み上がったホッキが、朝日を浴びて黒や茶色に光っていた。
苫小牧でのホッキ漁は7月に解禁され、漁協に所属する13隻が、沖合300メートルほどの遠浅の海で操業中だ。漁法は「噴流式けた網」。くし状の複数の突起が付いた漁具「けた」を海底に下ろして船で引くとともに、船上から高圧の水流をホースで送って砂地を掘り起こす。そして、けたの後方に取り付けた網に、貝を取り込む仕組みだ。苫小牧漁協総務部長の赤沢一貴さん(41)は、けたを引くことで「砂地を耕しホッキの過ごしやすい環境をつくる役割もある」と説明する。
道の水産統計によると、2021年の同市の水揚げ量は867トン。市町村別で22年連続日本一を記録した。安定した漁獲量は、漁業者が守り続ける独自の資源管理のたまものだ。
漁期は産卵期の5、6月を除く10カ月間。7~11月、12月~翌年4月に分けて漁場を定め、調査した資源量を基に毎年、漁獲量を決める。乗組員1人あたり1日最大165キロとするルールも設け、各船がそれを順守することで、安定した漁獲量が保たれる。
殻長(貝の幅)9センチ以上のものを漁獲し、これに満たない貝は戻す。道の基準を上回る厳しいルールだ。赤沢さんは「漁獲には5~6年かかるが、その分身が厚く、ホッキの甘みをより感じられる。苫小牧産をブランドにしていきたい」と熱を込める。
コロナ禍の影響で一時価格が大幅に落ち込んだことを受け、漁協は22年度、価格の安定を図るため、刺し身用むき身といった個人向け商品の販売を始めた。
ホッキ卸売り最大手のマルゼン食品(苫小牧市)は、市場での入札を終えると、市場から15キロほどの同市樽前の工場に運ぶ。代表取締役の三小田(さんこだ)和宏さん(45)は「身の大きさや色で味に大きな違いはない。鮮度を保つことでおいしさが安定する」と語る。
活貝は、全国各地やシンガポールなど海外へ発送。むき身は手軽に食べられるよう、内臓などを取り除いて加工する。「安定した苫小牧のホッキ漁が、水産加工の現場も支えているんです」。作業はベトナム人実習生6人も担当する。
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漁協女性部部長の山下真紀子さん(66)は、ホッキ貝を使った家庭料理を紹介してくれた。「下処理さえすれば、あとはあえるだけで簡単です」。むき方は、割れ目から見える水管からナイフなどを入れて、一度手前に引き反対側まで滑らせ、貝柱を切り離す。うま味が逃げないよう、ボウルにためた水の中でもむように砂を落とし、黒い内臓や筋を包丁などで取り、開く。
そのまま刺し身や、塩コショウをしてフライもよいが「塩一つまみを入れた湯で軽くゆで、氷水で締めると、甘みが引き立つ」と山下さん。貝柱などと一緒に細めに切るカルパッチョは、レタスやパプリカ、タマネギなどを薄めに切り、市販イタリアンドレッシングをかけるだけ。柔らかく少しコリっとした食感で、癖もない。ピーマンとトビッコを使ったマヨネーズあえは、お好みでしょうゆをかけると「お酒のあてにもよい」と勧める。(神田幸)
(北海道新聞2023年9月28日掲載)
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