住宅地の近くにある「里山」。古くから住宅や家具の材、まき、山菜やキノコを採取するなど、山の恵みは私たちの生活や文化に深く関わってきました。そんな里山での自然を体感し、林業や家具作りについて学ぶモニターツアーが旭川市と東川町で開かれました。森林やその活用方法、環境保全などについて考えるツアーに参加してきました。
シラカバのいすやたいまつ、ミズナラのスティック作り 「里山部」
最初に訪れたのは、旭川市と比布町にまたがる突哨山(とっしょうざん)。突哨山では1990年にゴルフ場建設計画が持ち上がりましたが、市民や周辺の農家の反対運動の結果、旭川市と比布町が土地を買い取り、環境を守りながら市民が自然と親しむ場となっています。一部は酒造メーカーの男山が所有する男山自然公園として、カタクリの咲く春の間、開放されるほか、民有地もあります。
民有地のうち、旭川市東鷹栖の山林4.7ヘクタールでは、木こりの清水省吾さんが環境保全型の林業をするかたわら、「里山部」として、子どもや関心のある人を対象にした野外体験や環境教育、森林体験のプログラムを実施しています。
清水さんが山林の中を案内してくれました。その前に、カが多いので、虫除けとしてシラカバでたいまつを作ります。シラカバの樹皮に切り込みを入れ、ナイフや手で樹皮をはがします。シラカバは油分を多く含むため、皮はたき付けなどにも使われます。その皮をきつめにくるくると巻き、先が二股になった長さ1メートルほどのシラカバにはさんで、火を付けます。もくもくと出てきた煙が虫よけになります。
突哨山の入り口から森に向けて、林道が整備されています。清水さんはそこから自身が所有する民有地に向かう脇道を指さし、「整備されている林道とこの脇道の違い、分かりますか」と参加者に尋ねました。
林道には砂利のような石が敷かれていますが、清水さんの山林のほうにはありません。道幅も清水さんの方がせまく、小さな油圧ショベルが通れる2.5メートル程度です。清水さんは「公共事業で林道をつくると、わざわざ石を運んできて敷き、1メートルの道をつくるのに1万円かかる。ぼくの山林の道は手作りで、敷地内全部でも10万円もかからず、金額も環境の負荷も少ない。道幅が広いと日差しを求めて木が道の方に伸びてくるから、木が曲がって成長してしまう」と説明します。また、清水さんは等高線に沿って曲線状に道を付けましたが、整備された林道は等高線を突っ切るようにまっすぐ。「直線の道は距離は短いが、雨水がまっすぐ山林外に流れ出て土も流出してしまい、周囲の畑に迷惑をかける」と言います。山林内の道の整備一つにも、森林や周囲の環境への配慮があります。
森を歩いていると、清水さんが「朽ちたシラカバなどをきれいに片付けず放っておくと、腐っていろんな菌が繁殖し、土がふかふかになります」と言って、道の脇の表面の土をつかんで見せてくれました。土はふかふかで、おがくずのようないいにおいがして、よく見ると菌糸がたくさんあるのが分かります。清水さんは「きれいに片付け過ぎず、森の力にまかせています」と話します。
清水さんは旭川の家具メーカーなどがシラカバを家具材として活用することを目指す「白樺プロジェクト」に、シラカバを供給しています。シラカバはミズナラなどに比べて成長が早く、70年ほどで家具などの材料になる直径40センチほどに成長します。一般的な林業は植林後、木が育ったら皆伐するのに対し、清水さんは皆伐せず、必要な材をその都度伐採します。清水さんは「樹齢80年のシラカバで80年使える家具をつくれば、シラカバは160年生きたことになる。だれが何のために使うか分かっていて切る。自然が育つスピードに合わせた家具作りを進めたい」と話します。
里山部のベースとなる小屋に戻り、シラカバの丸太を使ったいすづくりに挑戦します。材料は木4本。まず、長さ1.2メートルほどの丸太2本を「V」字型に組み、麻縄で縛ります。次にこれに、長さ50センチほどの丸太を麻縄で取り付け、「A」字のような形にします。できあがったら、「Y」字型の丸太に立てかけて、完成。
恐る恐る腰掛けてみると、案外安定感があり、快適です。参加者みんなで焚き火を囲んで休憩しました。
続いて、ウイスキーをおいしくするという「ナラスティック」をつくります。おのでミズナラの丸太の樹皮に近い白っぽい「辺材」を取り除きます。その後、ナイフで真ん中の色の濃い「芯材」部分をウイスキーのびんの口に入れられる程度の大きさの棒状にカットします。芯材は甘い香りがします。それをバーナーであぶって、こげをつけたら完成です。清水さんは「ウイスキーに入れて、3日から1週間くらいすると、香りが移っておいしくなります。安いウイスキーでも、高級感が出る感じ。こげが気になるようなら、コーヒーフィルターでこしてから飲んでみて」と教えてくれました。同じようにサクラの木でつくった「サクラスティック」は赤ワインに漬けておくとおいしくなるそうです。
ブラックニッカリッチブレンドのポケットボトルを2つ買ってみて、片方にだけ「ナラスティック」を入れてみました。入れて4日目。飲み比べてみました。香りはさほど変わりません。飲んでみると、スティックを入れた方は飲み込んだ後に、ふわっと樽のような香りが残ります。「入れていないのと飲み比べてみたから分かる」程度の違いですが、確かに香りが移っていました。
これ以外にも、清水さんはまき割りやたき火、木材を活用したものづくりなど、さまざまな里山体験メニューを提供しています。子どもの環境教育や学生のフィールドワークなどにも対応するそうです。ガイド料は半日で1組1万5千円が目安。どんな体験メニューにするか、相談にも応じています。
場所/旭川市東鷹栖3線20号付近。突哨山内部、「扉の沢口」より入山後すぐ左 |
電話/090・9577・0432 |
ホームページ https://www.satoyamabu.com/5 |
「木を切るスピード」を「森が育つスピード」に 家具工房「アイスプロジェクト」
次に東川町の家具職人、小助川泰介さんの工房に向かいます。小助川さんは家具を「使い捨てない、長く愛す」ことを提唱し、工房名を「アイスプロジェクト」としています。地域の循環を目指して道産材を積極的に活用しているほか、端材も活用しようと、子どもや観光客向けのクラフト体験にも取り組んでいます。
ここでは、家具材の端材を使った木のしおりづくりに挑戦します。厚さ2.5ミリのミズナラの板の四方を紙やすりで削り、丸くします。15分ほど無心で手を動かし、角張ったところがなくなったら、表面をより細かい紙やすりでなめらかになるまで磨きます。その後、ひもを通す穴を開け、天然由来の油脂を塗ってつやを出したら完成です。厚さは最初と変わらないはずなのに、角がとれてツルツルになった木片は手になじみ、薄くなったように感じます。カツラの木片でも同様につくり、しおりを2つ完成させました。
小助川さんは端材を活用するため、旋盤用の機械も導入し、ボウルや皿作りにも取り組んでいます。小助川さんは「端材をまきにしてもいいけれど、燃やせば一瞬でなくなってしまう。家具にするには、何十年もかけて育った木を1年自然乾燥させた後、機械で乾燥させ、年月と人の手がかかっている。使えるものはできる限り使いたい」と話します。
小助川さんは、工房近くに約3300平方メートルの森を所有しています。「木材になれば何の木か分かるけれど、家具をつくっていても、実は樹木を見て何の木かは分かりません。少しでも森と木を理解したいと思いました」と話します。
家具のまち・旭川には、旭川家具工業協同組合が制定した「旭川家具づくりびと憲章」があります。小助川さんは「憲章には、木の生きた年数と同じ年月、家具を使い、それでもまだ長持ちするので次の世代の人に渡してほしい、というくだりがあります。家具を買った時、その家具の第1章が始まります。次の人に渡したとき、家具の第2章が始まります」と説明します。受け継ぐ人がいなければ、家具職人が買い戻し、壊れれば修理もするといいます。
同組合は家具をつくるために「木を切るスピード」を「森が育つスピード」に合わせることが、旭川家具を長くつくり続けることにつながるとして、2004年から植樹に取り組んでいます。小助川さんの森の近くに、14年に植樹をした場所があり、連れて行ってくれました。植えた時に高さ30センチほどだったというミズナラの苗木は、3メートルほどに育っていました。小助川さんは「100年たっても、この木は1枚板のテーブルにできるほどには育たない。200年、300年後の未来を見据えて木を植えていきます。使う時にも、次に残しながら切ります」と、森への思いを語ります。
小助川さんの工房では、しおりづくりなどの体験を受け入れています。また、同様にしてつくったしおりは1300円(税別)で販売もしています。
住所/東川町東8号北1丁目2-5 |
電話/080・5599・0889 |
ホームページ https://www.aisuproject.com/ |