晩秋に収穫し、畑に並べて雪の下で寝かせた上川管内和寒町特産の越冬キャベツ。巻きがしっかりとして重たく煮崩れしにくいのが特長で、加熱すると甘みが増す。掘り出し作業は3月下旬まで。寒さで縮こまった心と体を癒やす、簡単な煮込み料理はいかが。
「煮込みといえばロールキャベツが定番だけど、越冬キャベツは葉ががっちりと巻いていて一枚一枚はがすのが面倒くさい」。青果店「サンQ青果」(札幌市東区)代表で、野菜ソムリエの資格も持つ奥山善彦さん(49)はそう話す。
そこでお勧めするのが「ドボン鍋」=末尾にレシピ。キャベツを1玉そのまま縦と横、十文字に切れ目を入れて、コンビーフを詰め、コンソメスープのもとと一緒に鍋で煮るだけ。人気漫画「クッキングパパ」で描かれていたレシピで、奥山さんは20代のころ、趣味のキャンプに行くと朝食によく作っていたという。
いただくと、キャベツの甘みとコンビーフのうまみが絶妙にマッチ。体が温まった。
コンビーフの代わりに、市販の冷凍ハンバーグの種を詰めてもいい。トマトやニンジン、玉ネギ、ベーコンを入れてミネストローネ風にしてアレンジするのも楽しい。
このほか、奥山さんのイチ推しは「ラムしゃぶ」。鍋に水、酒、顆粒(かりゅう)だしを入れ、沸騰させたら食べやすい大きさに切った越冬キャベツをごっそり投入。キャベツがくたくたになったら、ラム肉をしゃぶしゃぶしてお好みのタレでいただく。
「加熱すると透き通り、見た目にもきれい。八百屋のおやじとしてはたくさん食べてほしい」と奥山さん。
一方、生産者は普段どのように調理しているのだろうか。越冬キャベツを約45年間栽培してきた和寒町の農家、川口二男(つぎお)さん(86)に聞くと、「みそ汁に入れたり、回鍋肉、ギョーザもいい。ニシン漬けもうまいし、時々ロールキャベツも作っている」と教えてくれた。
和寒町フードツーリズム推進協議会が発行するリーフレットには、札幌のフランス料理店「カンティーヌ・セル」のシェフ、黒滝祐輔さんが考案した越冬キャベツのレシピを五つ紹介。黒滝さんは「甘みとうまみがあり汎用性が高い。さっと炒めたり焼いたりして、生と火の入った両方の食感と味を体験してみて」と提案する。リーフレットは同町のホームページ(https://x.gd/iA913)から閲覧できる。(有田麻子)
*放置が発端 偶然の産物
北ひびき農業協同組合(JA北ひびき)和寒基幹支所によると、越冬キャベツは現在、和寒町内52戸の農家が合わせて約50ヘクタールで栽培しており、昨冬は約2500トンを収穫した。同支所の担当、新堂真也さん(24)は「芯回りが黒くなるなど、昨夏の猛暑の影響は多少あるにしても、出荷は例年通り、順調に進んでいる」と話す。
越冬キャベツが生まれたのは“偶然”だったと言われている。1968年の秋、キャベツの価格が暴落したため、農家が出荷を諦めて畑に放置したところ、翌春、雪解け後に見ると青々とした状態で残り、食べると甘みが増していたとされる。
雪下に貯蔵することで本当に甘みは増すのか。道立総合研究機構上川農試(上川管内比布町)による2005~07年の研究では、雪下に貯蔵する前後の変化を調べたところ、成分に変化は見られなかった。
道立総合研究機構花・野菜技術センター(滝川市)の研究主幹、木村文彦さん(49)は「糖度が増すことについてエビデンス(証拠)は得られていないが、変化がないのは素晴らしいとも言える。10~11月の時点で気温が下がり、寒さに耐えるためキャベツは糖を蓄積している。気温0度、湿度約100%の雪の中で、みずみずしいまま品質良く貯蔵できているのでは」と指摘する。(有田麻子)
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■ドボン鍋
◇材料(2~4人分) キャベツ1玉(約1キロ)、固形コンソメスープのもと1~3個、コンビーフ2缶(約160グラム)
◇作り方
①キャベツは軽く水洗いして、芯を切り落とし、十文字に深めの切り込みを入れる。
②キャベツの切り口を少し広げ、コンビーフを詰めていく。
③鍋に水700ccとコンソメを入れて沸騰したら、②を入れ、弱火で軟らかくなるまで煮込む。
(北海道新聞2024年2月15日掲載)
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