【余市】JR余市駅前で町民に親しまれている旅館・料理屋「かくと徳島屋」(黒川町8)が8月、創業100年を迎えた。1924年(大正13年)からニシン漁の盛衰、大火、ワインの産地化など余市の変遷を見つめてきた老舗。4代目の當宮(とうみや)弘晃さん(60)は「これからも縁のあった人に喜んでもらえるサービスと料理の提供に努めたい」と語る。
當宮さんによると、曽祖父の佐吉さん、曽祖母のコツルさん(いずれも故人)が親戚とともに徳島県から余市に移り、同年開いた「かくと徳島屋旅館」が始まり。現在地より約100メートル北側にあり、汽車で小樽から積丹へ移動する行商人などでにぎわったという。
戦後、現在地に移転。今の建物は82年に新築し1階に調理場やレストラン、2階に1日最大3組24人が泊まれる客室を設け、予約をメインに宿泊、飲食、仕出しの3本柱で営業している。
當宮さんは、2代目の祖父実雄さん(故人)の「料理人として跡を継いでほしい」との思いを受け、地元の高校卒業後に京都市内で修業。京料理の老舗「本家たん熊」で腕を磨き、29歳で余市に戻った。修業当時に知り合った益美さん(57)と結婚。経営に携わりながら、父武さんが亡くなった昨年8月に4代目を継いだ。弟正敏さん(57)、従業員4人の計7人で切り盛りする。
100年の歩みは順風満帆ではなく、経営は景気の波に左右され、「給料が出ない」ほどの危機に見舞われたことも。當宮さんの料理の腕を知ってもらうためランチ営業を始め、看板から「旅館」を外し食にウエートを置いた。町内外のお客の「おいしかったよ」「また来るね」の声に励まされてきた。
今は「余市は食材が豊富で、すてきな町」と笑顔で話す益美さんとともに、地元の食材とワインのペアリングに心を砕く。
創業年は長年使っているはし袋に記されていたが、正確な日付は知らなかった。父の死後、町内の知人の元旅館だった自宅で徳島屋旅館の開業届が見つかり、8月10日と分かった。當宮さんは同日、交流サイト(SNS)に「おかげさまで無事迎えることができました」とつづり感謝を伝えた。(伊藤圭三)
(北海道新聞2024年8月28日掲載)