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2025.03.07

「ガストロノミーツーリズム」北海道の可能性を探る~「食の宝庫」生かす取り組みを~検証事業報告会から㊦〈PR〉

小川郁子編集長
小川郁子編集長

 苫小牧生まれ、札幌育ち。ビール、ワイン、日本酒、お酒全般、控えめにいって好きです。食べ物の好き嫌いもほとんどありませんが、ウナギやハモ、アナゴなどニョロっとしたものは苦手です。1996年に北海道新聞入社後は、道内各地や東京で1次産業や政治、行政などを担当しました。2023年5月からTripEat北海道編集長。

 地域ならではの食を提供する「ガストロノミーツーリズム」が近年、注目されています。単においしいものを食べる「美食」ではなく、食材や料理の背景にある歴史や文化、自然、つくり手とそのこだわりなどの食文化に触れてもらうことで、その土地のファンを増やし、地域活性化につなげようという狙いがあります。北海道観光機構は本年度、道内のガストロノミーツーリズムの可能性を探る検証事業を実施し、2月下旬に札幌市内で報告会が開かれました。検証事業に携わった専門家のパネルディスカッションの主な内容を紹介します。

堀さん「恵まれた食材に、付加価値を付けて高く売って」

北海道におけるガストロノミーツーリズムについて意見を交わす堀さん(左)、小西さん(中央)、李さん

 パネルディスカッションには、検証事業にアドバイザーとして参加し、各地の取り組みの様子や課題などについて聞き取った3人が参加しました。京都の料亭「菊の井」常務取締役で、お取り寄せグルメサイト「ちさこ食堂」を運営する堀知佐子さんと、小樽商大名誉教授で北海道ガストロノミー協議会理事長の李済民さん、フードライターの小西由稀さんです。コーディネーターは検証事業を進めている有限責任監査法人トーマツ地域未来創造室の山本啓一朗さんが務めました。

北海道ガストロノミー協議会理事長の李さん
フリーライターの小西さん

 北海道にとってのガストロノミーツーリズムの位置付けとして、李さんは「ガストロノミーは単なる美食ではなく、食文化そのもの。北海道には食材の種類も生産量も多くてポテンシャルは高く、先進事例が出ないのはおかしい」と指摘。食材の豊富さだけでなく、「おいしい料理にして、北海道ならではの食文化にしていくことが必要。ポテンシャルはあるのに取り組みが追いつかない最大の課題は、自分たちが持っているもののすばらしさに気付いていないということだ」と足下を見つめ直すべきだとしました。

 道内の1次産業従事者や加工業者、レストランのシェフらを取材し、食の情報発信をしている小西さんは「北海道だからこそ味わえる風景や食べ物の情報が求められている」と実感。ガストロノミーという概念がまだ十分に浸透していないなか、「おいしい食体験はもちろんだが、出会いがあり、学びがあり、参加した人が共感できることが大切。生産者や料理人の話を聞き、食べ物の背景を知ると、それを大切にしたいという共感が生まれる。ポテンシャルは非常に大きいので、それをうまくつなげたり、考えたり、見つめ直したりすることが大切ではないか」と話しました。

 堀さんは、全国各地の食材や名品を探索したり、地域の飲食店や観光業者らとその土地ならではのメニュー開発をしたりしています。堀さんは「北海道は食の宝庫というイメージがあり、特にカニやホタテ、イクラといった海産物は〝引き〟が強い」と評価。ただ、目立った食材がないところでも、環境を整え、限られた食材で独自の食文化を築いている例が全国各地にあると指摘し、「食材に恵まれていると、これがあるから人を呼べると考え、付加価値を付けていない。せっかくすばらしいものがあるのだから、付加価値を付けてもっと高く売っていくことが必要ではないか」と提言しました。

李さん「食のものがたりを語るガイド育成も課題」

京都の料亭菊の井常務取締役の堀さん
コーディネーターを務めた山本さん

 ガストロノミーツーリズムに取り組むうえで、北海道として今後必要なこととして、李さんはガイドの役割の重要性を指摘しました。海外の旅行関係者を冬にワイナリーに連れて行き、かんじきやスノーシューで雪に埋もれたヴィンヤードを歩いてもらい、野生生物の足跡や積雪の多さなどについてガイドが解説した体験を披露。「参加者はとても喜んでくれ、どこにもないすばらしい体験だと言っていた。だれがものがたりをつくり、だれが説明するのか。全体のストーリーをうまくまとめるガイドを育成するのは大きな課題」としました。

 堀さんも、本州で実施された、またぎが案内するかんじきツアーや森林セラピストが案内する森の散策ツアーを例に挙げ、「普通では味わえない体験が重要。(豪雪地帯の青森県)酸ヶ湯には雪を見るためだけに外国人がたくさん来る。遠くても、不便でも、道中を楽しむという旅は、(広大な)北海道ならではではないか」と話しました。

 小西さんは「われわれの日常はほかの地域の人の非日常。足下を見つめ直すのは大切だと思う」と地域の埋もれた資源の発掘に期待をかけました。また、「先進地域の成功例や失敗例を学ぶ場があれば。地域が勉強する機会を設けてほしい」と行政や関係団体に注文しました。

小西さん「地域一体で取り組んで。地域外からの視点も重要」

北海道におけるガストロノミーツーリズムについて議論が交わされた報告会

 各地域が取り組むべきこととして、李さんはガストロノミーの町として知られるスペイン・サンセバスチャンの例を紹介。「単なる美食の町ではなく、何十年もかけて町全体で食文化を育ててきた。おいしいレシピがあれば、町の料理人みんなで共有し、『この町では、どこの店で食べてもおいしい』という環境をつくってきた」と、地域一丸となって取り組む必要性を強調。さらに、現在国内では、調理師の資格を取得しても調理を担う現場に出ない若者も多いと指摘し、「料理人のステータスを高め、(地域の食文化向上について)体系的に学ぶよう人材育成をすることも大事だ」と話しました。

 小西さんは「自分たちの町はもちろん、隣町や近隣地域にはどういう(食の)資源があるのか、調べるだけでなく、現地に行って実際に話を聞き、感じて学ぶことから始まる」とし、食に関わる人だけでなく、行政や地域の人が一体的に取り組む必要があると提言しました。道内各地に、その土地の食材や風土にひかれて移り住み、レストランや飲食店を開くシェフがいることを紹介し、「『あの店は高い』とか『お客は都会から来る人ばかり』などと敬遠せず、そのシェフから学び、地域のこともより知ってもらうような関係性をつくることができればいいと思う」と地域外からの視点の重要性も説きました。

 堀さんは、地域で特色のあるメニュー開発を依頼された時に、その地域のホテルの支配人や料理長に、「これまで記憶に残った料理は何か」とたずねたことを説明。さまざまな料理が上がるなか、「なぜかと尋ねると、自分のその時の気持ちと食べた食事の共感性があったものが記憶に残っている。(料理の味そのものだけでなく)地域ならではの環境や資源、ロケーションなどが記憶に残る。皿の中(の料理)は大事だが、その皿の中をどうプレゼンテーションするか、ここでこれを食べなくてはならない理由をどう説明するか。お客さんに納得してもらえるようなものがたりを皿の中に入れ込んでいくことが重要」と提言しました。

小川郁子編集長
小川郁子編集長

 苫小牧生まれ、札幌育ち。ビール、ワイン、日本酒、お酒全般、控えめにいって好きです。食べ物の好き嫌いもほとんどありませんが、ウナギやハモ、アナゴなどニョロっとしたものは苦手です。1996年に北海道新聞入社後は、道内各地や東京で1次産業や政治、行政などを担当しました。2023年5月からTripEat北海道編集長。

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