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2025.03.11

北海道の農業に光を~「第20回HAL農業賞」3法人に優秀賞~札幌で贈呈式

小川郁子編集長
小川郁子編集長

 苫小牧生まれ、札幌育ち。ビール、ワイン、日本酒、お酒全般、控えめにいって好きです。食べ物の好き嫌いもほとんどありませんが、ウナギやハモ、アナゴなどニョロっとしたものは苦手です。1996年に北海道新聞入社後は、道内各地や東京で1次産業や政治、行政などを担当しました。2023年5月からTripEat北海道編集長。

第20回HAL農業賞の受賞者と磯田理事長(前列左)ら

 北海道の農業を支え、生産技術の向上や農産物の加工・流通に取り組む生産者らを表彰する「第20回HAL農業賞」の本年度贈呈式が3月上旬、札幌市内のホテルで開かれました。独創的な組織運営や企業的な経営を実践する生産者や生産者の支援者が対象で、農業を「もうかる産業」として活性化させるのが狙い。本年度は3つの法人に優秀賞が贈られました。

 北海道農業の振興・発展を図るHAL財団(磯田憲一理事長)の主催。20回目の本年度は、網走市の福田農場に「優秀賞フロンティアチャレンジ賞」、帯広市の満寿屋商店に「優秀賞地域連携企業賞」、北見市の森谷ファームに「優秀賞優秀経営賞」がそれぞれ贈られました。

「陸稲」にチャレンジ、オホーツクでコメを生産 
網走市・福田農場

優秀賞フロンティアチャレンジ賞を受けた福田農場の福田さん(中央)と妻の真和里さん

 福田農場代表の福田稔さんは、畑作農家の4代目で、42ヘクタールの畑で小麦やビート、ジャガイモなどを栽培。網走市やその周辺は気温が低く、農業といえば畑作が主流ですが、福田さんは2018年から、国内でも珍しい畑に直接種もみをまく「陸稲」に挑戦しています。

 畑作で収穫した作物は、小麦粉や砂糖、でんぷんなどに加工され、さらにパンやめん、菓子などが製造されますが、福田さんは自らが栽培した作物をそのまま消費者に届けたいと考え始めたそうです。稲作ができないとされていた網走市ですが、「せっかくなら、コメをつくって地元の子どもたちに給食で食べてもらいたい」と思い立ちました。

 最初は畑の片隅の1平方メートルに取り寄せた陸稲の専用品種を作付け。出穂したものの、実が入りませんでした。20年には700平方メートルに広げてななつぼしをまきました。この年、アサヒバイオサイクル(東京)がビール製造過程で発生する副産物を原料に開発した肥料を使ったところ、わずかですが、初めて実が付きました。

 22年には網走青年会議所と一緒に地元の子どもがコメを育てる農作業を体験する事業を実施。24年には網走市内の一部の小中学校に1日分の給食用にコメを提供することができました。

 陸稲は技術や制度の面で、まだ課題はありますが、安定的なコメの確保のためにも、新たな技術として注目されています。網走市内の小中学校すべてに、通年で給食用のコメを供給するには8ヘクタールほどの作付けが必要で、福田さんは今後、ほかの農家にも協力を呼びかける考えです。

十勝産小麦100%のパンを製造・販売 酵母や乳製品もオール十勝
帯広市・満寿屋商店

優秀賞地域連携企業賞を受けた満寿屋商店の杉山さん(左から2人目)、妻の恵子さん(同3人目)、常務で麦音店店長の天方慎治さん(右)

 満寿屋商店は、十勝産小麦100%を使ったパンを製造・販売しています。社長の杉山雅則さんは4代目で、2代目社長の父健治さんが1989年に小麦の新品種「ハルユタカ」に出会い、地場産小麦に着目。当時、十勝産の小麦はパンに適した強力粉ではなく、うどん用などの中力粉が主流でした。健治さんは生産者にハルユタカの生産を働きかけましたが、春まきのハルユタカは寒冷な十勝には向かず、生産は伸びませんでした。

 その後、キタノカオリやゆめちからなど十勝にも適したパン用小麦が開発され、生産量も徐々に増加。健治さんが急逝後も、3代目社長の母輝子さんが地場産化を進めました。その結果、2004年には満寿屋の菓子パンは道産小麦100%に、12年には本店、支店計6店のすべてのパンで、十勝産小麦100%を達成しました。また、現在では小麦だけでなく、酵母も十勝産の「とかち野酵母」を使い、豆やチーズ、クリーム、砂糖なども十勝産を使っています。

 杉山さんは2030年をめどに、「十勝パン王国」とする夢を抱いています。十勝管内の製パン業者とともに「十勝パンを創る会」を設立し、十勝らしい新たな「十勝パン」の開発も進めています。

白花豆で地域づくりを 環境に配慮した持続可能な農業実践
北見市・森谷ファーム

優秀賞優秀経営賞を受けた森谷さん

 森谷ファーム社長の森谷裕美さんは、北見市留辺蘂町の農家の3代目で、約50ヘクタールでタマネギやビート、小麦、白花豆、紫花豆、大福豆、冬にはケールを栽培しています。環境に配慮した持続可能な農業を実践する一方で、留辺蘂町が生産量日本一の白花豆を軸に、地域づくりにも取り組んでいます。

 森谷さんは畑作を中心に安定的な農業経営をする一方、環境に負荷をかけない土づくりを実践。持続可能な開発目標(SDGs)の17の国際目標のうち、8つを達成し、環境保全型の農業を進め、年齢や性別に関係なく、働きやすい環境の整備を心がけています。2017年には「持続可能な生産活動」を実践する優良企業に与えられる国際認証規格「グローバルGAP」も取得しています。

 一方、森谷さんは自らも生産する白花豆をテーマに、地域づくりにも取り組んでいます。白花豆は支柱につるを伸ばして2メートルほどにも育ち、夏に白いかれんな花を付けます。畑に葉がふわっと茂り、緑のカーテンが張り巡らされたような景観を見て、森谷さんは「こんな美しいところでカフェを開きたい」「白い豆の美しいフォルムを生かして、おいしい料理やお菓子にしたい」と考えていたそうです。

 それを地域の酪農家の女性に話したところ、「白花豆のムースをつくって、地元のお祭りで一緒に販売しよう」と提案されたことから、農家だけでなくレストランや菓子店などの関係者にも声をかけ、17年に「るべしべ白花豆くらぶ」をつくりました。以来、白花豆の育て方を書いた紙と種豆をセットにして配ったり、地元の子どもたちに栽培を体験してもらったりしているほか、料理のレシピ開発やゆでた白花豆のパック販売もしています。畑の景観を楽しんでもらうため、観光客向けのウオーキングツアーも実施しています。

 将来的には農場に白花豆をつかった料理を提供するカフェを開く目標があり、留辺蘂の景観を楽しむ地域一体型の農業を実現させたいと意気込んでいます。
 贈呈式で、磯田理事長は「生産者が消費者に(食べ物を)届けるというダイレクトな喜びは大切。HAL農業賞がささやかながら、その喜びに光を投げかけられれば」とあいさつしました。

小川郁子編集長
小川郁子編集長

 苫小牧生まれ、札幌育ち。ビール、ワイン、日本酒、お酒全般、控えめにいって好きです。食べ物の好き嫌いもほとんどありませんが、ウナギやハモ、アナゴなどニョロっとしたものは苦手です。1996年に北海道新聞入社後は、道内各地や東京で1次産業や政治、行政などを担当しました。2023年5月からTripEat北海道編集長。

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