
北海道ワイン株式会社(小樽)が、有機認証を受けている直轄農場「後志ヴィンヤード」(仁木町)で栽培したブドウを使ったワインを醸造し、数量限定で販売しています。同社が有機栽培のブドウでつくったワインを販売するのは初めてで、農場の設立から5年かけ、リリースにこぎ着けました。後志ヴィンヤードでは、情報通信技術(ICT)を活用したスマート農業にも取り組んでおり、同社は今後、ここを拠点に持続可能な農業と新しい時代のワインづくりに挑戦する考えです。
有機認証を受けたブドウで醸造したファーストヴィンテージは、「試験醸造」を意味する「Experimental Batch」と冠した赤2種類、白2種類の計4種類。2023年秋に初めて収穫し、いずれも樽を使わず、シンプルでフルーティーなスタイルで醸造しました。

4月中旬に札幌市内で開かれた「北海道ワイン春の試飲即売会」では、この4種類が初めてお披露目されました。せっかくの機会なので、4種類すべてを飲み比べてみました。


少し緑がかったレモンイエローの白「ケルナー」は、さわやかなフローラルの香りと、すっきりとした酸があり、さらっと軽い飲み口です。白「シャルドネ」は柑橘系の香りで、シャープな酸があり、さっぱりとした後味です。


赤の「ピノ・ノワール」は黒みを帯びた濃いルビー色で、さわやかな酸と柔らかい渋みのバランスが良いライトボディ。若々しい印象で、飲みやすく仕上がっています。赤の「アコロン」は紫がかった色合いで、プラムやブラックチェリーなどの果実の香り。ベリーのような酸とほどよい渋みのあるミディアムボディです。

23年秋に収穫した計3.5トンのブドウを使用。販売は、ケルナー1634本、シャルドネ641本、ピノ・ノワール240本、アコロン242本のみ。いずれも750ミリリットルで4059円です。ピノ・ノワールは売り切れましたが、それ以外は、北海道ワイン直営ショップ「おたるワインギャラリー」(小樽市朝里川温泉1丁目130)とオンラインショップで取り扱っています。

北海道ワインは国産原料にこだわり、直営農場や約300戸の契約農家が生産する年間2500トンのブドウから製造するワインは年間250万本と、日本ワイン最大の生産量を誇ります。しかし、高齢化や後継者不足はブドウ農家にとっても切実な課題で、北海道ワインにとっては、安定的な原料確保も必要です。農水省が21年に策定した「みどりの食料システム戦略」で、50年までに有機栽培の割合を25%に拡大し、化学農薬の使用量を5割削減する目標を掲げたことも受け、北海道ワインは自社の直轄農場を増設し、有機栽培に着手することを決めました。
北海道ワインは2020年4月、鶴沼ワイナリー(浦臼町)と能登ヴィンヤード(石川県穴水町)に次ぐ3カ所目の直轄農場として「後志ワイナリー」を設立。仁木町に4.2ヘクタールの遊休地を取得し、21年春に7200本のブドウの苗木を定植。23年秋にブドウを初収穫しました。醸造を担った北海道ワインの猪狩太基さんは「初収穫なのでブドウの個性が分からず、醸造過程を慎重に見極めました」と話しました。

後志ヴィンヤードでは、北大と協力し、スマート農業の実証試験にも取り組んでいます。実証試験には、NTT東日本や三菱総合研究所なども参加しており、衛星利用測位システム(GPS)を搭載した電動車両での草刈りや虫の防除などを実施しています。有機栽培では、農薬や防虫剤を使うことができず、人手に頼る作業が増えるので、スマート農業の技術が確立すれば、大きな省力化につながります。
北海道ワインは設立後、さらに別の農地を取得し、後志ヴィンヤードは現在、11.2ヘクタール。今後、有機の栽培面積を拡大し、有機栽培ブドウを使った新ブランドとして本格的にリリースする考えです。