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2025.09.03

ドメーヌ・タカヒコの曽我さんらが対談~JR札幌駅北口「さつきた8・1」完成記念イベントで 「北海道のワインを広めたい」

小川郁子編集長
小川郁子編集長

 苫小牧生まれ、札幌育ち。ビール、ワイン、日本酒、お酒全般、控えめにいって好きです。食べ物の好き嫌いもほとんどありませんが、ウナギやハモ、アナゴなどニョロっとしたものは苦手です。1996年に北海道新聞入社後は、道内各地や東京で1次産業や政治、行政などを担当しました。2023年5月からTripEat北海道編集長。

JR札幌駅北口に完成した複合商業施設「さつきた8・1」

 JR札幌駅北口の新しい複合商業施設「さつきた8・1」(札幌市北区北8条西1丁目)の完成を祝うイベント「BONJOUR!SATSUKITA 8・1」が8月上旬、同ビルで開かれ、余市町のワイナリー「ドメーヌ・タカヒコ」の曽我貴彦さんらがトークショーで、北海道のワインについて対談しました。曽我さんは「日本のワインにはだしのようなうまみがあり、世界で興味を持たれている。北海道のワイン、余市のワインを広めていきたい」などと語りました。

 さつきた8・1は札幌駅北口から約200メートルに位置し、約2.1ヘクタールの区域に建てられたA棟、B棟からなる新しい複合商業施設。地下鉄東豊線さっぽろ駅と地下通路で結ばれており、劇場「北八劇場」や商業施設、クリニック、住居、ホテルなどが入っています。完成記念イベントは8月1日から3日の3日間。2日と3日にはワインの生産者による対談の後、その生産者がつくったワインを1杯1000円で飲める有料試飲会がありました。

余市のワインについて対談する曽我さん(左)と山中さん

 8月2日(土)のトークショーには、曽我さんと、曽我さんのもとで修行して独立した余市町の「ドメーヌ・モン」の山中敦生さんが登壇。ワインに関するウェブサイト運営やワインの輸入を手がける「winy.tokyo」のアドバイザー石井竜太さんがコーディネーターを務めました。

 曽我さんは2010年に余市町で2番目となるワイナリーを開設。約3ヘクタールでピノ・ノワールのみを栽培し、野生酵母でワインをつくっています。フラッグシップの「ナナツモリ」は、繊細な「だし」のようなうまみが特徴で、世界的な知名度のあるデンマークのレストラン「ノーマ」にも採用されました。

 山中さんは以前、冬はルスツでスノーボードのインストラクター、夏に長野県館山のホテルで勤務しており、ホテル勤務中にソムリエの資格を取得。農業に興味があったので、「ワイン用ブドウを栽培してみたい」と北海道でブドウ農園を視察した際に、曽我さんのもとでの修行をすすめられ、曽我さんから「本気なら、(ブドウ栽培だけでなく)ワイナリーをやれ。2年でたたき込むから」と言われてこの世界に飛び込んだそうです。

ドメーヌ・タカヒコの曽我貴彦さん
ドメーヌ・モンの山中敦生さん

 山中さんは「研修中に毎日言われたのは、農業の大切さ。醸造は教えてくれない。(ワインのできを決めるのは)ブドウの栽培が9割、10割。目の前のブドウだけではなく、気候や風を感じ取り、感性を磨きなさいと言われました」と話します。

 若手の研修生を受け入れる理由について、曽我さんは「(ドメーヌ・タカヒコのある)余市町登地区の小学校には当時、全校生徒が6人しかいなかった。新たに入る子どもがいないと小学校がなくなってしまう」という危機感があったといいます。学校は地域の要であり、地域が元気で存続し続けるためには必要だとして、「登に小規模なワイナリーが増えれば、地域の小学校に通う子どもも増える」と考えたそうです。今ではワイン用ブドウの新規就農以外にも移住者が増え、全校生徒は二十数人になりました。曽我さんは「(山中さんが来た時、)いいカモがきたぞと思いました」と明かし、会場を沸かせました。

有料試飲で提供されたドメーヌ・タカヒコとドメーヌ・モンのワイン

 ただ、新規就農は簡単ではなかったそう。山中さんが購入したのは耕作放棄地で、白樺や松などの木が森のように茂っていました。山中さんは「それをチェーンソーで倒し、ブドウを植えたのは3年後。最初は買いブドウを使ったペティアンで(生計を)つなぎました」と振り返ります。

 北海道のワインの評価が高まっていることについて、道内で近年、急増している小規模ワイナリーがナチュラルワインをつくっていることが多いことから、山中さんは「ナチュラルワインには味に優しさやうまみがあり、日本人の舌に親しみやすい」と分析します。曽我さんは「ブルゴーニュのワインと同じものを日本が輸出しても興味を持たれない。ワインにうまみがあるよ、おだし感があるよと言えば興味を持ってもらえる。塩味とおだし感、おだし特有の甘さ、うまみ。日本独自のものを提示すれば、外国の人は目をきらきらさせる」と話しました。

ドメーヌ・モンのドングリJK2022

 また、曽我さんは「余市はワインのまちになろうとしているが、レストランや宿泊施設がないとだめ。スペインのサンセバスチャンのような美食のまちになるといい」と提言しました。

▽提供されたワイン
・ドメーヌ・タカヒコ ナナツモリMVブランドノワール、ヨイチノボリ2023、ヨイチノボリ-N2023
・ドメーヌ・モン ドングリ2022、ドングリJK2022

空知のワインについて語る近藤さん(左)と浦本さん

 8月3日(日)には、岩見沢市の「Kondo Vineyard」の近藤良介さんと、近藤さんのもとでブドウ栽培を学んだ同市の「ワイン畑浦本」の浦本忠幸さんが、石井さんの司会の下、対談しました。

 近藤さんは岩見沢市栗沢町茂世丑と三笠市の畑で、除草剤や化学肥料を使わずにブドウを栽培。自然酵母を使ってワインを醸造し、ワイン発祥の地ジョージアの伝統的製法クヴェヴリを使ったワイン造りも手がけています。

 大学生の時に近藤さんに出会った浦本さんは「当時、人生に迷っていて、どうやって生きていくのがいいのか、悩んでいた。近藤さんの生き方や暮らし方、家族のあり方を見て、感銘を受け、この人に付いていこうと決めました」と話しました。近藤さんはそんな浦本さんに「ワインづくりには経験や技術が必要で、お金も投資しないとならない。そんなに簡単じゃないよと止めたが、(浦本さんには)粘りと強い心があった」と浦本さんの研修を受け入れました。浦本さんは大学卒業後にさっぽろ藤野ワイナリーに入社し、ワインづくりに携わった後、2023年に独立し、ワイナリーを設立しました。

Kondo Vineyardの近藤良介さん
ワイン畑浦本の浦本忠幸さん

 北海道には現在、10年前の3倍の70を超えるワイナリーがあり、その3分の1が余市、仁木両町にあります。岩見沢のある空知管内は、小規模ワイナリーの設立は早かったのですが、今ではワイナリーの数は及びません。独立前にサラリーマンとしてブドウ栽培に携わっていた近藤さんは「余市で1年間研修したが、空知は余市の4分の1ほどしか収量がない。栗沢ではブドウをつくっている人は10人もおらず、だれも頼る人がいないので、自分で考えて行動するようになります」と言います。浦本さんは就農するとき、「ブドウがギリギリなんとか生育できる北限、厳しい場所の方がおいしいワインができるのではと思った。ブドウを加工して売るので、たくさんとれなくてもやっていけるのではと考えました」と打ち明けました。

ワインについての対談に耳を傾ける聴衆

 一般的には1つの畑に単一品種のブドウを植えますが、近藤さんは6品種を同じ畑にランダムに植える混植をしています。近藤さんがサラリーマンとしてブドウ栽培に携わっていた時、意図せずして混植となった場所がありました。病気に強い品種の中に混ざって病気に弱い品種が植わったその場所では、さほど病気が発生しなかったそう。近藤さんは「生物多様性の影響なのか、外的要因に左右されにくい畑になるのではと考えました」と話します。さらに混植すると、「ひとつひとつの木が違うので、畑をよく観察するようになります」と利点を強調します。混植した6種類を一緒に収穫して醸造するので、近藤さんのワインは単一品種のブドウではなく、混醸です。

 浦本さんは列ごとに同じ品種を植え、4種類を栽培し、同じタンクに入れて混醸します。浦本さんは「単体で仕込むより、最初から混ぜると最終的にワインが調和する」と話します。

有料試飲で提供されたKondo Vineyardのワインとワイン畑浦本のワイン

 現在はステンレスタンクで発酵させるのが一般的。近藤さんは「酵母がどうやったら一番生き生き活動するかを考えた時、(密閉されていない)クヴェヴリが一番有利なのではと思ったし、歴史が物語っています」と説明。クヴェヴリはジョージアで生産されていますが、ワイナリーからの需要が多く、なかなか手に入らないそう。そこで、近藤さんはコンクリートでクヴェヴリと同じ卵形の容器をつくり、土に埋めて代用しています。近藤さんは「醸造に使うものは現在、ほとんど輸入ですが、国内で生産できるようになるといいですね」と提言しました。

 近藤さんは「ワインの味には人柄やその人の考え方が出る。浦本さんはシンプルなワインづくりをしているが、銘柄を隠してブラインドで飲んでも、浦本のワインだと分かります」と評価します。浦本さんは「自分が住んで暮らしている裏山でとれたブドウを使い、そこにいる微生物で醸したワインが一番おいしい、体になじむワインになります。それを同じようにおいしいと思ってもらえる人を増やしたい」と語ります。

有料試飲のワインを選ぶ参加者

 近藤さんや浦本さんの畑には、農作業を手伝うワインファンやボランティアがたくさん来ます。浦本さんは「農作業を手伝いに来た飲食店の人が、『浦本君という人がつくったワインだよ』とお客さんに提供しているのを見たことがあります。ブドウの品種や搾汁率、添加物など、情報でワインを飲むのもいいですが、畑を見た人が直接話してくれるのが一番、ワインの良さが伝わると思いました」と話します。

 近藤さんは「畑を見てほしいが、農家なので見学を受け入れるのは難しいので、農作業の手伝いに来てほしい。収穫だけというのは本当はずるくて、ブドウを育てる過程を知って、共有してくれればワインを違った視点で見ることができる。どんな人がどんな思いを持ってつくっているのか知って飲むと、ワインの味も変わります」と呼びかけました。

▽提供されたワイン
・Kondo vineyard ナカイミュラワ2024、kondo vineyard ピノノワール2023、konkon2023
・ワイン畑浦本 くまコーラ、Golden hour2023、tanemaki2022

小川郁子編集長
小川郁子編集長

 苫小牧生まれ、札幌育ち。ビール、ワイン、日本酒、お酒全般、控えめにいって好きです。食べ物の好き嫌いもほとんどありませんが、ウナギやハモ、アナゴなどニョロっとしたものは苦手です。1996年に北海道新聞入社後は、道内各地や東京で1次産業や政治、行政などを担当しました。2023年5月からTripEat北海道編集長。

トリップイート北海道

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