
北海道産のワインの販路拡大を目指し、北海道庁が11月27日、札幌市内のホテルで「北海道産ワインセミナー・試飲商談会」を開きました。2021年から開催しており、過去最高の29ワイナリーと、飲食店やホテル、卸業者ら約180人が参加。ワイナリーが自慢のワインを試飲してもらい、新たな販路を開拓するのが狙いですが、北海道産ワインのトレンドを探るために、TripEat北海道編集部のスタッフと一緒に参加してきました。
目次
2025年産ブドウのできは?

北海道内では近年、ワイナリーが急増しており、10年前の約3倍の75に増加しています。気候変動の影響で栽培する品種の変更を余儀なくされたり、温かい地域でしかつくられなかった品種の産地が広がったりと、北海道産ワインを取り巻く状況は急速に変化しており、つくられるワインも多様化しています。このセミナーの運営を北海道庁から受託しているNPO法人ワインクラスター北海道代表理事の阿部真久さんは「販路探しに悩むワイナリーと飲食店やホテル、流通業者をつなぐ場として活用してもらえたら」と話します。

試飲の前にはセミナーが開かれ、参加した29ワイナリーの中から、16ワイナリーが2025年のブドウのでき具合やおすすめのワインについて報告。仁木町でヴィニフェラ十数種類を栽培するDomaine Blessは「(ブドウが成熟する夏の高温などで)ピノ・ノワールにとっては厳しい年で、前年より収量は20%減となりましたが、全体的な収量は20%増」といい、小樽市塩谷と余市町に畑を持つ小樽市のOSA WINERYは「鳥の食害でシャルドネは半減してしまいました。高温多湿で収量としては厳しいものの、選果を徹底し、果汁はいい状態です」と話しました。
一方、山幸を主体に、清見や清舞、ナイアガラ、ニューナイアガラを栽培する池田町の十勝まきばの家ワイナリーは「実が完熟し、糖度が上がり、十勝3品種(山幸、清見、清舞)にはプラスの気候でした」と山ブドウ系の品質は全体的に良かったという声が多く上がりました。
阿部さんは「25年産ブドウは、全体的には豊作でした。この数年は夏が暑すぎたが、今年は特に秋以降、もともとの北海道らしい気候が戻り、糖と酸のバランスが良いブドウがとれています。特に山幸など山ブドウ系はおいしくなっています」と評価しています。
相澤ワイナリー(帯広市)

セミナーの後は、試飲です。各ワイナリーがブースを出し、3~4種類のワインを提供していました。山幸や清舞のほか、ヤマブドウも栽培する帯広市の相澤ワイナリーの相澤一郎さんは「24年には、最高のできだと思っていた23年を超えたと言ったけれど、25年は24年をさらに超えるできでした」と笑顔をみせます。

24年には「ブドウのできが良すぎて」(相澤さん)新樽を購入。その新樽で熟成させ、「ブルゴーニュに負けない」と自信を持って勧めてくれたのが「いたいらトノト」。農園のある「帯広市以平でつくられたトノト(アイヌ語でお酒)」から名付けたそうです、山幸100%ですが、一口飲んで、驚きました。どっしりとしたボディ。山ブドウ特有の青っぽい香りもなく、ヴィニフェラとしか思えません。後味にはすっきりとした酸を感じます。選果と手作業の徐梗を徹底した結果だといい、相澤さんは「ピノ・ノワールかガメイみたいでしょう」と得意気です。
次にすすめられのは「sachiera2024」。こちらも山幸100%で、野生酵母によってステンレスタンクで発酵させたのは、いたいらトノトと同じですが、こちらは古樽熟成。スパイシーな香りがして、渋みもあり、こちらも山ぶどうっぽさがあまりありません。相澤さんは「10年寝かせてもいいくらいのポテンシャルがありますよ」と話していました。
弟子屈ワイナリー(弟子屈町)

昨年から自社醸造を始め、今年2回目の仕込みをしたのは、弟子屈町の弟子屈ワイナリー。日本最東端のワイナリーです。山幸や清舞など、今年は5トン収穫し、3000本ほどのワインができる予定。おすすめは、清舞でつくったロゼスパークリング「Caldera ROSE SPARLKUNG 2024」。弟子屈町で湧出しているミネラル豊富な温泉の源泉を直接ブドウに噴霧して成長を促進し、病気を防ぐ効果も期待できるそう。これによって、化学肥料や農薬を使わずにブドウを育てています。こうしてできたブドウを野生酵母で発酵。弱めの泡で柔らかな果実感があり、優しい印象のワインです。

ワイナリーを運営するセナヴィーノ社長の高木浩史さんは「寒暖差が大きい屈斜路湖のそばの畑でとれたブドウを使っています。屈斜路湖のテロワールを感じてもらえれば」と話します。
高木さんは網走市の東京農大(網走市)で学び、学生時代に道東周辺を巡り、道東の自然や温泉、景色に魅了されたといいます。卒業後、調香師として働き、食品の香りの調合に携わっていた高木さんは、香りを分析、再現をするなかで「いくら上手に調合しても、天然のものの香りにはかなわない」と感じ始めました。さらに、「その自然を感じられるところで暮らし、仕事をしたい」と思ったそう。美幌峠から望む景色が特に好きだったこともあり、ブドウの栽培管理などを担う弟子屈町の地域おこし協力隊に応募し、移住しました。任期終了後もワイン製造を目指してブドウの栽培を続け、夢をかなえました。
高木さんは「ブドウやワインをつくる過程で、毎日学びがある。1年、1年が刺激的です。飲んだ時にまた飲みたいと思ってもらえるワインをつくるため、日々アップデートです」と笑顔を見せました。
宝水ワイナリー(岩見沢市)

豊かな白いひげをたくわえ、白いフサフサの付いた赤い帽子をかぶった優しそうなおじさん(失礼!)がワインをすすめてくれました。岩見沢市の宝水ワイナリー取締役の杉山幹夫さんです。杉山さんは仕込みの終わったこの時期、札幌市内のデパートの「サンタさん」を務めているそうで、そのためにひげを伸ばしているのだとか。

サンタさんおすすめのワインは、白「雪の系譜シャルドネ2022」。宝水ワイナリーで収量が最も多いシャルドネ。杉山さんは「寒くても、暑くても育ちやすいのがシャルドネ。さらに、その土地の特徴を反映した、テロワールを感じやすいブドウになります」と説明します。雪の系譜は、レモンのような香りを感じ、すっきり、さわやかな味わいで、樽の風味がふくよかさを与えています。杉山さんは「サンマの塩焼きにレモンをしぼって、このワインに合わせたら最高。自分のところのワインなのに、この間、サンマと合わせたらおいしくて悶絶しちゃった。自分のワインで悶絶するなんて、手前みそならぬ、手前ワインだからね」と笑います。
サンマだけでなく、アワビやイカの塩辛など、ワインと合わせると生臭さが出そうと敬遠しがちなものとも、良く合うそう。その理由のひとつとして、杉山さんは宝水ワイナリーのヴィンヤードの場所を挙げます。宝水ワイナリーは日高山脈と石狩平野の間にある子高い岩見沢丘陵にあります。丘陵の上の方は1500万年前、中腹は1000万年前、下の方はその後に海底で堆積した砂岩が隆起したものだそう。ブドウは、その海底土壌から引き出されるミネラルや塩味を吸い取って成長します。杉山さんは「塩味だけでなく、マグネシウムやカリウムなどの海由来のミネラルが豊富だから」と説明してくれました。
ドメーヌ・レゾン(中富良野町)

「やぎと〝つくる〟ワイナリー」がコンセプトの「ドメーヌ・レゾン」(中富良野町)。ヴィンヤードにはヤギを放し飼いにし、ヤギが歩き回ることで畑を耕し、不要な草を食べてもらい、ふんをブドウの木の堆肥にし、自然環境と共存しながら、持続可能なワインづくりをすることを掲げています。エチケットにはヤギのイラストがあしらわれており、ヤギがワイナリーの目指す姿勢の象徴になっています。

おすすめは「バローンケルナー2024」。自社のケルナーを100%使い、フルーティで華やかな香りとすっきりとした酸が特徴。はちみつのような濃厚な味わいも感じ、ボリューム感もあります。ケルナーを植えている区画の近くに川やため池があり、10月上旬には朝霧が出やすくなり、ブドウが貴腐化。貴腐ブドウをかなり多く使っているため、このボリューム感が出るそうです。
製造部の野吾(やご)隼矢さんは「富良野盆地の寒暖差のおかげで、糖度は乗るのに、冷涼地ならではの酸もある、バランスのとれたワインになるのが、一番の特徴」と話します。現在はソーヴィニヨンブランやピノ・ブラン、リースニングなど白ブドウの原料を中心に9品種を栽培、年間8万本ほどのワインを製造しています。
今後について、野吾さんは「温暖化もあり、新しい品種も探索しなくてはならないと思っています」。さらに、今は白ワインが主体ですが、「(赤ワイン用の)ツヴァイゲルトレーベは富良野の気候に合っており、荒々しいツヴァイゲルトレーベの味わいに、丸みを持たせるため熟成を重ねるなど、新しい味にも挑戦したい」と意欲を示しています。
雪川醸造(東川町)

東川町唯一のワイナリー「雪川醸造」は、自社農園のブドウも使っていますが、東川のほかの農家や余市町、石狩市などから買ったブドウを多く使用しています。白「スノーリバーシャルドネHachi樽熟成2024」をすすめてくれました。石狩市でとれたシャルドネ100%で、色合いは黄金色がかった淡いレモンイエロー。ステンレスタンクではなく、樹脂タンクで発酵させた後、新樽で熟成させており、バニラやナッツなど樽由来の香りがあり、はちみつやバターのような膨らみのある風味も漂います。「Hachi」はブドウの産地、石川市八幡からとったそう。

代表社員の山平哲也さんは大阪出身で、東京のIT企業に勤務。東川への移住の理由と経緯を尋ねると、「東京は暑い。何かやるなら北海道。食関連のことに携わりたいと思っていて、北海道は今、ワインで盛り上がっているよなと思って、こうなりました。話すと長いから、簡単に言うとこういうこと」と笑って答えました。
2021年に町振興公社が栽培していたブドウで初醸造し、22年からは東川町と余市町、石狩市でとれたブドウを購入して醸造。自社農園でもソーヴィニヨンブランやシャルドネなどの栽培を始め、24年には自社農園のブドウを使い、赤、白各250本を仕込みました。
エチケットは、赤や群青、墨色などがグラデーションになって山や木々が描かれていたり、青色を基調に広い空と悠々と流れる川がデザインされていたりするように見えます。どこの風景ですか?と尋ねると、「実は生成AIを使っているんです」と驚きの答え。Microsoft CopilotやGoogle Gemini、Stable DiffusionといったAIにワインのイメージなどの指示を与えて描かせているそう。山平さんは「『東川らしい風景ですね』なんて言う人もいるけれど、AIにはワインのイメージを伝えているだけで、北海道とか東川とかの指示はしていないんですよ」と笑います。
TADA WINERY(中富良野町)

TADA WINERYを運営する多田農園は、上富良野町で120年以上続く農家。ニンジンやアスパラなどを生産しています。多田農園4代目の多田尚弘さんの父、繁夫さんがワインに関心を持ち2007年にピノ・ノワールを植え、16年には醸造も始めました。当時は日本最北のワイナリーでした。ヴィンヤードは、れきや砂が多いため水はけが良く、緩やかな南西向きに位置し、西日が長く当たる場所にあります。

25年産のブドウは、8月中旬に病気が発生しましたが、畑で選果後、さらに2次選果をして病果や糖度の乗っていない粒を徹底的に除去し、質を保ったそう。
おすすめは「シャルドネ2024」。グリーンがかったレモンイエローで、シトラスやカボスなど柑橘系の伸びのある酸とフレッシュな果実味が特徴です。さらに、「ピノ・ノワール2024」も自信作。果実味が豊かで、思った以上にタンニンが豊富で、しっかりとした骨格を感じられます。
ピノ・ノワールやシャルドネ、メルロ、バッカスなど多くの品種をつくり、醸造するワインも10種類以上。恵まれた土地の力を活かし、除草剤を使わず、野生酵母での自然発酵にこだわっていますが、多田さんは「食事に合うワインを目指しています。気軽に飲んでほしい」と話しています。


