【遠軽】老若男女に愛されて半世紀―。JR遠軽駅前通り沿いにある、12坪ほどの小さな居酒屋「炉ばた」(大通北1)が12月1日に開店50周年を迎える。オホーツク産の魚介を使った新鮮な刺し身や焼き物に加え、開店当初から調理や接客を続ける店主の沼端京子さん(78)の気さくな人柄も人気の秘訣(ひけつ)だ。度重なる苦難を乗り越え、大きな節目を控えた沼端さんは「お客さんの支えがあってこそ。みんなと会うのが楽しくて、気付いたら50年たっていました」と感謝の言葉を口にする。
「おかえり!」。顔なじみの客がやや色のあせた紺ののれんをくぐって店内に入ると、沼端さんと、長女の木村知佐さん(54)が元気よく出迎える。仕事に疲れた独身者や単身赴任者にとって、まるで実家に帰ったかのような安心感と温かさを感じさせてくれる。「おかえり」の言葉は、せめてここで心を癒やしてほしいとの、2人からのささやかなプレゼントだ。
開店は沼端さんが28歳だった1972年12月1日。当時の夫、杉野岱伺(たかし)さんと焼き魚中心の「炉ばた」を現在の場所で始めた。しかし翌年、岱伺さんが病気で急逝。一時は閉店も考えたが「幼い娘や夫の家族、家計のことを考えると続けるしかなかった」という。
その後は約4年間、常連客や近所のベテランホステスらに支えられながら1人で営業を続けたが、77年からは町内の不動産会社で働いていた沼端惣次郎さんが厨房(ちゅうぼう)に入って手伝うように。後に2人は結婚。81年に店舗を建て替えたのを機に、惣次郎さんが根室へ修業に出て魚のさばき方を学び、刺し身も出すようになった。
だが、夫婦で店を営んで39年目の2015年、惣次郎さんが肝臓がんで他界。沼端さんにとって2度目の死別だった。「店は絶対にやめるな。俺たちが助けるから」。常連たちから励まされた沼端さんは、葬儀から約2週間後に知佐さんとともに店を再開した。
現在は母娘2人で店を切り盛りする。惣次郎さんが担当した刺し身は、沼端さんが試行錯誤を重ねて提供できるようになった。
近年はテレビで紹介されたこともあって来店客が増え、中には炉ばたを目当てに道外から遠軽に足を運ぶ人もいる。沼端さんは、初来店した客との会話をほぼ全て記憶している。「(次に来た時に)喜んでくれるでしょ。どんなお客さんも大切にする。それが仕事だから」
営業時間は午後5~11時。日曜定休。(佐藤諒一)
(北海道新聞2022年11月30日掲載)