北海道の春のおすすめ観光スポットをエリアごとに「物語風」記事でご案内します。今回の旅は、北海道有数の観光地・函館を中心に「道南」エリアを取り上げます。
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温暖な気候で新鮮な海の幸・山の幸に恵まれた北海道の「道南」エリア。江戸時代には松前藩が置かれ、戊辰戦争の最後の舞台となるなど、いにしえの情緒あふれる街並みが魅力です。さらに歴史をさかのぼれば、大自然に刻まれた太古の記憶にふれることも―。
幕末の記憶、異国情緒あふれる街
初めて函館を訪れたのは中学の修学旅行だった。「ハリストス正教会も、函館山からの夜景も見ているはずなのに、憧れてた男の子と一緒に写真を撮ったことしか覚えてなんて、今思えばもったいないね」とユミが笑った。中学時代から仲良しだった私たち、海外旅行もずいぶんしたけれど、こうして思い出話をしながら懐かしい街を歩く旅も悪くない。
十数年ぶりに訪れた五稜郭。五稜郭タワーの展望台から眺めおろせば、幕末の記憶も星形の稜郭に面影を残すのみ。ここ五稜郭では「箱館五稜郭祭」で戊辰戦争をしのぶ催しが行われたり、「市民創作函館野外劇」で函館の歴史をテーマとした野外劇が上演されるという。土地に息づく歴史への敬意、伝統を守り育てる気概は、北海道開拓の先鞭(せんべん)をつけた函館ゆえに脈々と受け継がれてきたのか。
路面電車に揺られて元町へ。異国情緒あふれる街並みをたどってロマンチックな旅情に浸りたい。外人墓地からの海の眺め、和洋折衷のたたずまいが目を引く太刀川家や相馬株式会社、旧函館区公会堂、そして函館ハリストス正教会―。旧イギリス領事館では折しも結婚式が行われていた。参列者や観光客に祝福されて誓いを交わす、映画のようなウエディングセレモニー。ほほ笑みながら見守るユミもまた、この旅が終われば花嫁となって遠い街へ旅立つ。
国宝「中空土偶」に歴史の年輪を感じる
道南の内浦湾沿岸は、北海道と本州を結ぶ縄文文化の交易路だったという。2021年に世界遺産に認定された「北海道・北東北の縄文遺跡群」のひとつ、垣ノ島遺跡に隣接する「函館市縄文文化交流センター」を訪れた。国宝「中空土偶」のユーモラスな愛らしさもさることながら、私たちがくぎ付けになったのは、亡くなった子どもの足型を残したといわれる土版だった。
指の形までくっきりと残る小さな足型からは、数千年前に生を享けた幼子の魂と、子を思う親の愛がひしひしと伝わってくる。先人たちから脈々と受け継がれてきた命のバトンを受け取って、いま私たちはここにいる。
桜の名所・松前城や樹齢500年の「縁桂」
「独身最後の旅だもの、少し寄り道したいな」。ユミの提案で始まったロングドライブ。函館から日本海沿いに延びる観光ルート「追分ソーランライン」は、北海道の民謡「江差追分」「ソーラン節」の発祥エリアで、道内屈指の古い歴史があるという。
開湯800年の知内温泉に驚嘆し、江戸の面影を残す松前町で満開の桜に息をのむ。薄紅に染まる松前城、桜の精の伝説が残る光善寺の血脈桜…ふと足元に目をやれば、北海道では松前にしか見られないというシロバナタンポポが。きらびやかの春、かれんな春、どちらも花盛り。そして江差町も北海道の歴史を色濃く刻む町。風格ある鰊(にしん)御殿の数々、北海道最古の祭りがあるという姥神(うばがみ)大神宮などをまわっていると、かつてニシン景気に沸いた町の活気が伝わってくるようだ。
乙部町でどうしても見たかったのが、推定樹齢500年の「縁桂(えんかつら)」。2本のカツラの木が上部で癒着した不思議な木で、縁結びのご利益があるとか。「ふたりでここに来れてよかったね」とユミ。そう、まだ見ぬ恋人とのご縁も気になるけれど、友情という縁はしっかり結ばれている。
この旅が終わっても、ずっと友だちだよ。 日本海に沈む夕日を見ながら、そう思った。
※情報は記事公開当時のものです。
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