ジャガイモは北海道を代表する秋の味覚の一つ。しかし「グンとおいしくなる」と農業関係者が声をそろえるのは、収穫から一冬を越して春の足音が聞こえてくる今頃の季節だ。道内有数の産地・後志管内俱知安町を訪ね、越冬ジャガイモの魅力に迫った。
3日午前、今年で創業103年のジャガイモ卸「本間松蔵商店」の貯蔵選果場では、20人近い社員やアルバイトが選別や箱詰め作業に追われていた。「今の時期が作業のピーク。1日約20トンを選別する」。本間浩規(ひろみ)社長(40)はそう語る。
関東の市場を中心に、道内の市場やスーパーなど年間出荷量は合わせて約2千トンに上る。一年を通して出しているが、月別では3月が最も多い。
この日、扱っていた品種は「きたかむい」。主力の「男爵」と比べて病気に強く、歩留まりも良いことから近年、作付けが増えてきている。ようてい農協(本所・俱知安町)によると、2022年の町内の作付面積は150ヘクタールで、男爵に次いで2番目に多かった。
本間社長は「越冬すると最も味が乗る品種。しっとりした舌触りとともに、驚くほどの甘みを感じられる」。同商店では収穫したばかりの頃は、出荷しないこだわりを見せる。
ジャガイモは温度が高くなると発芽し、日光に当たると皮が緑色がかる「緑化」が起こる。これらを防ぎ、深い味を引き出すには徹底した管理が欠かせない。
同商店は通常の貯蔵庫のほかに、約600トンを収容できる「雪室低温貯蔵庫」を所有する。雪と電気の冷蔵設備を使うことで、年間を通じて庫内の室温を2~5度、湿度を80%以上に保つことができる。日光を入れないように窓がなく、貯蔵庫からイモを出す際にはシャッターの開閉時間を最小限に抑えている。
ジャガイモは収穫後も呼吸しているため、真冬の最低気温が氷点下20度前後まで下がる俱知安でも「貯蔵庫のイモが凍った経験は一度もない」(本間社長)。半面、これから気温が上がってくると、庫内を冷却しなくてはならない。
3月中には庫内に300トンの雪を入れ、気温が上がるにつれて電気の冷蔵設備を併用する。豪雪地帯という地の利も生かし、理想的な環境で貯蔵したジャガイモを食卓に送り出している。(森井泰博)
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本間松蔵商店で扱う越冬ジャガイモは現在、きたかむいのほか男爵、とうや、さやかがあり、個人でも購入できる。申し込み、問い合わせはホームページ(http://www.matsuzou.jp)または電話0136・22・0121(平日午前9時~午後5時)へ。
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*高い糖度 揚げ物はゆっくり加熱
「新じゃがのようなホクホク感や香りはない半面、しっとりとして濃厚な甘みとうまみがある」。本間松蔵商店取締役で、本間浩規社長の母親本間珠美さん(63)は、越冬ジャガイモの魅力を語る。
越冬ジャガイモはでんぷん質が糖化し、糖度が高い。「調理の際は、この特徴を意識することが大事」
高温の油で調理すると焦げ付きやすいため、珠美さんは「フライドポテトは『揚げる』というより『水分を抜く』イメージ。160度くらいの低温でゆっくりと加熱して」と説明する。品種は煮崩れしにくい「きたかむい」を選択した。
多彩な品種を扱うジャガイモ卸らしい一品が、主にコロッケなどの総菜に加工される品種「さやか」で作った「白いポテトサラダ」だ。「くせがなく、どんな料理にも使える」
細かくちぎったはんぺんを入れて風味を出し、旬の山ワサビをすり下ろして加えアクセントをつけた。ポテトサラダにありがちなマヨネーズの主張が感じられず、口の中に春風のような軽やかな味わいが広がる。
いも餅には滑らかな食感の品種「とうや」、チーズをのせて焼き、塩辛を合わせたイモには定番の「男爵」を使った。
越冬ジャガイモは常温で保管すると、発芽しやすい上、急速に糖度が下がって食味が悪くなる。珠美さんは「必ず冷蔵庫の野菜室で保管し、早めに食べて」と注意を促す。(森井泰博)
(北海道新聞2023年3月16日掲載)
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