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2023.03.30

世界最古のワインに学び、北海道の日本酒を知る~ユネスコ無形文化遺産登録を目指し、札幌で「伝統的酒造りシンポジウム」

Tripeat編集部
Tripeat編集部

 北海道内の日本酒をはじめとしたこうじを使った酒造り文化への理解を深めてもらおうと、「伝統的酒造りシンポジウムin北海道」が3月23日と24日の2日間、札幌駅前通地下歩行空間(チカホ)で開かれました。初日の23日の模様をご紹介します。

シンポジウム会場に用意された酒樽

 今回のシンポジウムは、こうじを使った日本固有の「伝統的酒造り」が昨年と今年の2年連続で、国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産に登録申請されたのを受け、札幌国税局が主催、企画しました。シンポジウムは2部構成。こうじを使った酒造りの基礎となる甘酒づくり体験を兼ねた講演と、北海道の酒造りに関連する専門家らによるトークセッションで構成されました。

 コロナ対策のため、シンポジウムはWEBからの事前申し込みでしたが、出演者が豪華だったことや、貴重な銘柄のお酒の試飲があったこともあり、参加希望者も多く、抽選の競争率は各部の定員の4倍に上ったそうです。

甘酒作り体験でこうじの効能を実感

「甘酒づくり」体験のための材料や試験容器を受け取るシンポジウム参加者
シンポジウム参加者には「甘酒づくり」体験をしてもらうための材料や試験容器が配られました

 人気を博したシンポジウム、まずはこうじを使った甘酒づくり体験からです。講師を務めたのは、道内16蔵ある酒蔵のひとつ「田中酒造」(小樽)の田中一良社長です。

 参加者には、試験容器とこうじ10g、炊飯10g、60度近くに温められたお湯20mlが配られました。実際に甘酒づくりを体験しながら講演を聴くスタイルです。田中社長は「容器を振って混ぜながら聴いてください」と呼びかけ、講演をスタート。

 こうじは、米などの穀物にこうじ菌を付着させたもので、でんぷんやタンパク質などを分解するさまざまな酵素を生成。その各種分解酵素の作用を利用して、日本酒や焼酎、泡盛といった酒類に加えて、和食に欠かせない調味料である味噌や食酢といった発酵食品に使われています。「国菌」として日本醸造学会が認定しているそうです。

 甘酒は、お米の主成分であるでんぷんが主原料。こうじは、そのでんぷんを分解する酵素を出し、でんぷんをブドウ糖などに変え、自然な甘みをつくりだします。その甘酒、ブドウ糖以外にもビタミンB群や葉酸、食物繊維なども含まれていて「飲む点滴」と言われるほどだそうです。

「こうじ」の効能などについて解説する田中酒造の田中一良社長
「こうじ」の効能などについて解説する田中酒造の田中一良社長

 田中社長は、平安時代から飲まれていたという伝統的な甘味飲料である甘酒が、夏バテ防止としても重宝されてきた背景も紹介。凍らせてシャーベットとして食べることも可能で、一般的には果物やヨーグルトと一緒に楽しまれていますが、意外にもコーヒーと混ぜて味わうのもおすすめ-と田中社長は語りました。

「甘酒づくり」の容器を手に、田中社長の講演に耳を傾けるシンポジウム参加者
「甘酒づくり」の容器を手で攪拌しながら、田中社長の講演に耳を傾けるシンポジウム参加者のみなさん

 約1時間にわたる田中社長の講演の間、手に持った容器を上下左右に振りながら話に耳を傾けた参加者の皆さん。終了後に蓋を開けたときには、ほのかに甘酒の香りが…甘酒の出来上がりです。本来は一晩ほど発酵させる必要があるそうですが、短い時間での体験ながら、こうじの効能を感じることができたようでした。

「甘酒」の香りや味を確かめる参加者
「甘酒」の香りや味を確かめる参加者
甘酒の材料が入った試験容器
甘酒の材料が入った試験容器

 ちなみに、取材した私は、自作の甘酒はその場では飲まずに持ち帰り、翌日飲んでみたら、見事に甘酒になっていました。

〈PR〉お酒を楽しみながら 北海道産酒の魅力を知る~3/23、24に札幌「チカホ」でシンポ~

「鏡開き」でトークセッションスタート

「鏡開き」でスタートしたトークセッション
トークセッションは「鏡開き」でスタート。幸先よく蓋が見事に割れて、シンポジウムも盛り上がりそう

 続くトークセッションでは、お酒のイベントだけに「鏡開き」でスタート。札幌国税局のトップ、上良(こうろ)睦彦局長をはじめ、出演者らが登壇し、木槌で蓋を割りました。司会を務めたフリーアナウンサーの国井美佐さんの説明によると、蓋は鏡、餅と見立てられていて、そのお餅を割ると運が開かれるという意味で、縁起がいいといわれているそうです。

ジョージアの「クヴェヴリワイン」とは?

 23日のトークセッションの前半は、ワインがテーマ。ワインの発祥として知られるジョージアの「クヴェヴリワイン」について学びます。あまり聞きなれないクヴェヴリワイン。そもそもジョージアという国の位置も…という方へ、少しおさらいです。

 ジョージアは、ヨーロッパとアジアの境目のコーカサス地方に位置していて、黒海やロシア、トルコと面しています。元々は「グルジア」と呼ばれていて、日本とは、1992年に外交開設しています。

 クヴェヴリワインとは、クヴェヴリ(クエブリとも呼ばれる)陶器製のかめにブドウの果実、つるなどをすべて入れ、地中に埋めて発酵させる昔ながらの醸造法で作られたワイン。約8000年前からその製法が変わらず、人間の手をなるべく介さず、ナチュラルに近い状態で造るのが特徴です。電気を使わないことから環境に優しいとされ、シンプルだけに奥も深いそうです。

 クヴェヴリワインは2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されています。セッションでは、在日ジョージア大使館の特命全権大使であるティムラズ レジャバさんが、遺産登録後のクヴェヴリワインを取り巻く環境の変化などについて解説。

在日ジョージア大使館の特命全権大使ティムラズ レジャバさん(中央)と、北海道大大学院農学研究院の曾根輝雄教授(右)。左は司会の国井美佐さん
在日ジョージア大使館の特命全権大使ティムラズ レジャバさん(中央)と、北海道大大学院農学研究院の曾根輝雄教授(右)。左は司会の国井美佐さん

 レジャバさんによると、クヴェヴリワインが「ワインの起源」であることや、「独自製法」でつくられていることについて、グルジア国民の皆さんは何となく知っていたものの、その価値については、元々あまり関心は高くなかったそう。しかし、その後の調査で、世界最古であることがDNA鑑定などで判明。登録後は、クヴェヴリワイン目当ての観光客が訪れるようになり、ワインの消費量も増え「ワイナリーも、醸造家も、販売に携わる人も、大きな自信をつけました」と遺産登録が大きな効果をもたらしたことを説明しました。

「ワインの町」池田町にも影響

パネリストとして参加した安井美裕池田町長(右)と江別出身の唎酒師・ソムリエでタレントの高田秋さん(左)

 そのクヴェヴリワインに影響を受け、北海道でワイン造りに取り組むのが池田町。トークセッションには、同町の元ブドウ・ブドウ酒研究所所長で、現町長の安井美裕さんも加わりました。

 安井さんは1999年、同町で国内初のクヴェヴリを使ったワイン造りをスタートさせました。きっかけは、1984年に「池田町ワインツアー」のジョージア訪問。このツアーに参加したある職員が、ジョージアでクヴェヴリワインを飲んだことだったそうです。

 当時、福祉課に勤務していたその職員は、池田町の高齢者が同町の粘土を使って陶器を作っていることを知っていたことから、「池田町でも粘土でかめを作ってワインを仕込むことができるかもしれない」と、ヒントを得たというエピソードを紹介。

 安井さんは「そのツアーに参加し、醸造に関わった一人が、若かりし日の私です」と明かし、会場の参加者が笑顔で頷く姿も見られました。

個性的な「北海道のワイン」を目指して

 北海道・江別市出身の唎酒(ききざけ)師でソムリエでもある、タレントでモデルの高田秋さんもパネリストの一人として参加。飲み歩き番組に出演している高田さん。北海道へ帰省する際に、友人から「北海道のワインを買ってきて」とお土産として頼まれるほど、知名度も人気が高いことを紹介。「東京で飲む機会も増えていて、今日のような話を聞くと、わくわくしますね」と嬉しそうに話していました。

 北海道大学では2023年7月に北海道ワイン教育研究センター棟が完成する予定です。同大大学院農学研究院教授で、同センター長である、曾根輝雄教授は、「私たちの研究はまだ6年ほど。北海道の個性的なワインができて、伝統と言われるように、熱い思いの方々をサポートしていければ」と話しました。最後に、ジョージア語で「乾杯」を意味する「ガウ マル ジョス」との掛け声で杯を掲げました。

北海道の日本酒、伝統的酒造りを守るために

 トークセッションの後半のテーマは「守り、つなぐ 北海道の伝統的酒造り」。〝北海道で日本酒と言えばこの人たち〟という3人が登壇しました。

 上川大雪酒造の総杜氏である川端慎治さん、日本酒の利き酒で最難関の「酒匠(さかしょう)」の資格を持ち、札幌でバーを経営する鎌田孝さん、そして、アメリカのワイン生産地で有名なカリフォルニア州の出身でありながら、日本酒に魅せられ、北海道で酒屋に勤務する熊田架凜(かりん)さん-の3人です。

トークセッション後半のパネリストのみなさん。右から熊田架凜さん、川端慎治さん、鎌田孝さん
トークセッション後半のパネリストのみなさん。右から熊田架凜さん、川端慎治さん、鎌田孝さん

 北海道には過去、日本酒の酒蔵が最大300蔵もありましたが、北海道では酒造好適米がなかなか誕生しなかった-など、さまざまな理由から酒蔵は減り、現在は14社16銘柄となっています。しかし、米の品種改良に取り組んだ結果、「きたしずく」「彗星」「吟風」の3種の酒造好適米が誕生し、今やその利用率は80%を超えているそうで、「吟風が登場してから劇的に変わった」(川端さん)とも。バブル景気崩壊後は日本酒の消費量が落ちているものの小さな酒蔵が増えてきているほか、生産量の約1割が海外に輸出されている-という今の状況が紹介されました。

 全米日本酒鑑評会の審査員も務めている熊田さんは、「日本酒は海外でも人気」と紹介しつつも、「アメリカの日本酒コーナーでは、中国の蒸留酒が並んでいたこともあった」と、日本酒への理解、認知度が不足している状況を報告。また、「アジアでは、甘めで華やかな香 りの日本酒が好まれるが、欧米などでは大吟醸といったフルーティな日本酒より、味が濃い純米酒の方が好まれる」という海外事情を紹介してくれました。さらに、アメリカでも酒造適合米が作られており、「テキサスで育ったお米で醸された日本酒は、日本で作られた日本酒の味と、さほど遜色ないレベルになっている」とも熊田さんは指摘しました。

海外の「日本酒事情」について語る熊田さん(右)と、「日本酒を伝える」ことの大切さを語った川端さん(左)
海外の「日本酒事情」について語る熊田さん(右)と、「日本酒を伝える」ことの大切さを語った川端さん(左)

 帯広畜産大学の客員教授を務める川端さんからは、若者がお酒を飲まなくなってきていることへの懸念も。学生と会話していて「飲酒に悪いイメージを持っている」と感じているといい、「日本酒は日本の生活と密着していることを伝えていかなければならない」と強調していました。

 とはいえ、こうじを使った日本酒造りが注目され、北海道も米どころ・酒どころとして認知されてきています。海外からの観光客もお酒を目当てに北海道に足を運ぶ人が増えてきているようです。自らバーを経営している経験から鎌田さんは「料理を作っている、提供する側が、どういうお酒なのかを紹介するのが鍵。海外旅行客は色々調べてきている」と説明しました。

 北海道の日本酒の現状や課題について語り合ったトークセッション。最後に川端さんは「伝統的酒造りとはこうじ造りと一緒。こうじと同じ発酵食品である、チーズと日本酒の相性を科学的に研究し、バリエーションを増やしていきたい」と強調。

 熊田さんは秋田の老舗酒蔵が木桶での酒造りを守っていることを挙げ、「伝統を守るためには、もっと挑戦しなければならない」とし、日本・北海道ならではの酒造りに向けて奮起してほしいと訴えました。

「日本酒をまずは飲んで消費してほしい」などと呼びかけた鎌田さん(右)
「日本酒をまずは飲んで消費してほしい」などと呼びかけた鎌田さん(右)

 鎌田さんは、「伝統を守るだけでは、未来は作れない。北海道では、若手の造り集団が増えている。良いことで、情報の共有もすごく早い。伝統を昇華しながらも、良いお酒が造られている」と評価、「まずは、飲んで消費してもらいたい」と参加者らに支援を呼びかけました。最後は日本酒で「乾杯」し、この日のシンポジウムを締めくくりました。

北海道に過去300も酒蔵が!新規参入の裏に最北問題あり〈山﨑編集長☆発〉
Tripeat編集部
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