【えりも】町内で約50年続くすし店「いさみ寿し」の店主・荒木穣(ゆたか)さん(55)の次男圭太さん(24)が、小樽のすし店で5年間の修業を終え、5月から実家の店で働き始めた。地元では後継者難に悩む事業者も多い中、3代目となる圭太さんのUターンを喜ぶ住民も多い。実家ですし職人として働くのが夢だったという圭太さんは「この仕事は天職だと感じる。長く続いてきた店の味を守りたい」と力を込める。
小さい頃から、いさみ寿しを1974年に開業した祖父・義広さん(故人)や穣さんがすしづくりに励む姿に憧れを抱き、すし職人を志していた。えりも高を卒業後は札幌の調理師専門学校に進み、1年間料理の基礎を学んだ。父親から「うちで働く前に、まずは外の世界で腕を磨いてきなさい」と勧められ、小樽の老舗すし店「おたる政寿司(まさずし)」に就職した。
忘れられないのは、入社2年目で受けた研修。通常3~5年目で学ぶ握りや巻物の技術を8カ月間で学ぶ内容で、週3~4日、勤務終わりの夕方から3時間かけて特訓に励んだ。 研修の集大成として、会社幹部の前で自分で考えたコースメニューを調理する試験では、緊張して手が震えた。「練習してきたことをするだけ」と自分に言い聞かせ、にぎりずしやキンメダイの幽庵焼き、車エビの黄身酢漬けなど計5品を作りあげ、合格した。カウンターですしを握ることを許され「研修は厳しかったけれど、すしづくりに真剣に向き合う充実した時間だった」と振り返る。
修業の区切りとしていた5年間の勤務を終え、5月に実家の店に戻り、父親から店に伝わる仕込みの手順を習いながら、2人ですしづくりに励んでいる。昔からの顔なじみの町民が来店すると照れくさい気もするが「『うまい』と言ってもらえると、修業したかいがあったと感じる」という。
地元では事業継承が課題となっている経営者も増えているだけに、町商工会は「後継者が地元に戻ってきたのは大変明るい話題。観光振興を目指す中、飲食店の存在は重要なので、ぜひ今後の活躍を期待したい」と歓迎する。父親の穣さんは「若いすし職人が不足する中、いずれ店を継いでくれるのは、すし業界にとってもありがたい」と目を細める。
圭太さんは「自分の働く姿で、店や地元が活気づけばという思いがある。一からのスタートなので、お客さんに喜んでもらえるように精進していきたい」と話している。(和田樹)
(北海道新聞2023年6月13日掲載)