ペットボトルやティーパックで手軽に飲めるお茶。毎日のように飲んでいるけれど、きちんとお湯をわかし、茶葉から急須でいれたお茶は、格別です。お茶の味だけでなく、ゆっくりお茶わんを手にする時間がぜいたくなのかもしれません。煎茶をゆっくり味わうことのできるカフェやお茶を料理やお酒にアレンジして楽しめる居酒屋計4店を紹介します。
目次
三煎丁寧に 煎茶のフルコース いとこが作ったお菓子とともに
🍵f(エフ)
札幌・円山地区の住宅街。中通りに急須が描かれたのれんと緑色ののぼりがはためいています。日本茶インストラクターの福沢秀明さんが昨年9月に開いた「日本茶と和菓子 f(エフ)」です。福沢さんが丁寧にいれてくれた日本茶と、福沢さんのいとこが作る和菓子、そしてゆったりした時間を味わうことができるお店です。
メニューは日本茶と和菓子。煎茶は福岡県八女市の「白葉煎茶」や静岡市の「くらさわ」など9種類、ほうじ茶、冷茶もあります。それぞれの煎茶の味の特徴の説明文が付いており、縦軸に「旨み」と「爽やか」、横軸に「渋み」と「甘み」を配した散布図で示されていて、選びやすくなっています。煎茶と上生菓子のセットは1700円、和菓子のセットは1550円です。「バランスがとれたお茶」という、お店の名前を冠した「f(しずかおり、静岡県富士市産)」を選んでみました。
上生菓子は季節によって変わりますが、4種類ほど。取材に伺った日は、ピンクと黄色のバラ、青梅、びわがありました。福沢さんのいとこが経営する長野県伊那市の和菓子店「菊花堂」から送ってもらっているそうです。和菓子は栗ようかんやもなかの皮に大福が入った「大福もなか」、中に梅の入った桃山、きんつばなどで、これも福沢さんの別のいとこが営む同市の和菓子店「古町あかはね」のものです。
まず最初に、サービスの水出し茎ほうじ茶が小さなショットグラスで出されます。味と香りを水でゆっくり抽出しており、香りはしっかりありますが、苦みやえぐみはありません。
煎茶はすべて、福沢さんがいれてくれます。一煎目は、ぬるめのお湯でお茶のうまみを味わいます。常滑焼の平型急須に、茶葉を一般的な量より多い6グラム入れ、いったん沸騰させた熱湯を55~60度に冷まし、注ぎます。一煎目をいれた後の茶葉はまだ開いておらず、細い糸状。煎茶は口に含むととろりとして、ふくよかな香りが広がります。
二煎目は、氷出し。急須に氷をびっしりと入れ、静かに水を注ぎます。3分半たったら、ワイングラスに静かに注ぎ入れます。一煎目で少し蒸された茶葉からは、氷でもしっかりと色と香りが抽出されています。温度が低いと、苦みのカフェインや渋みのカテキンが出ず、旨みや甘みを感じさせるテアニンが抽出されるそうです。ワインや日本酒の資格も持つ福沢さんは「温度や器で味は変わります。冷たい煎茶の良さを感じられるワイングラスで提供しています」と説明します。ワイングラスは胴の膨らんだところに香りがたまるので、グラスのリム(縁)に口を近づけた時に芳香を存分に感じることができます。冷たい煎茶と一緒に、お菓子も出されます。練り切りの上品な甘さと煎茶のさわやかさがぴったりです。
三煎目は沸騰したお湯を入れ熱い煎茶を。ティーカップや湯飲みに入れ、提供してくれます。サービスで、おかきやドライオレンジをサービスで出してくれました。苦味や渋みもしっかり出ていて、口の中がさっぱり。茶葉はすっかり開いて、急須いっぱいに広がっています。福沢さんが「旨み成分のテアニンはかつおぶしと相性がいいんです」と、その開いた茶葉にだしじょうゆをかけて、出してくれました。蒸されて柔らかくなった茶葉は、くせのない青菜のよう。でも、きちんとお茶の風味が感じられます。
福沢さんは東京で40年、商社に勤めていました。役員を務めていた62歳のとき、「体力、気力のあるうちに何か新しいことを始めよう」と職を辞し、福沢さんのお母さんの実家が和菓子店だったことから、「和菓子と日本茶のおいしさを知ってほしい」と日本茶インストラクターの資格を取得しました。実は札幌には知人はいたものの、深い関わりはなかったそう。出店に当たって全国各地をリサーチした結果、洋菓子とコーヒーの店が多く、和菓子とお茶の店が少ないことや、商圏規模などから札幌を選んだそうです。
煎茶はすべて福沢さんが一煎一煎いれ、ゆったりした時間を楽しんでもらうため、「3杯飲んでいただくのに、1時間半くらいかかることもあります」といいます。同じ茶葉なのにいれ方や味、香りは三煎とも違い、まるで煎茶のフルコースを味わったような気分。店内は和モダンな雰囲気で、茶香炉からはほうじ茶のいい香りが漂います。テラス席もあり、風に吹かれながらティータイムを過ごすのも良さそう。「古町あかはね」のお菓子や店内で提供しているお茶を購入することもできます。
住所/札幌市中央区大通西25丁目2-12 |
電話/011・600・2826 |
営業時間/午後1時~6時 |
定休日/木曜、不定休あり |
お茶のおいしさ伝えたい 老舗お茶店直営 茶葉も味わって
🍵茶楽逢(さらい)
半世紀以上続くお茶の卸・小売り販売「宇治製茶」。その店舗の場所で2010年12月から営業を続けるのが、日本茶カフェ「茶楽逢(さらい)」です。「急須でいれるお茶のおいしさを伝えたい」という同社取締役で日本茶インストラクター井上恵巳子さんから、おいしい煎茶を味わいながらお茶のいれ方のアドバイスも受けられます。
店に入ると、入り口近くでは茶香炉でほうじ茶をたいており、香ばしいお茶の香りがリラックスさせてくれます。カウンターの内側をのぞきこむと、茶釜でお湯を沸かしています。風味があり、色鮮やかでマイルドな味わいの鹿児島県の「ゆたかみどり」や甘みと渋みの余韻がある「宇治茶 やぶきた」、爽やかな味わいと高い香りのある「嬉野茶 玉蒸し緑茶」など煎茶は450円。定番に加え、月替わりの「今月のお茶」もあります。和菓子付きは650円です。
一煎目は、茶葉の種類によって温度は違いますが、沸騰したお湯を冷まし、低めの温度でいれてくれます。口に含むと、出汁のようなうまみを感じます。井上さんは「日本人が昔から、小さいころから食べて『おいしい』と感じる味。出汁と共通です」と話します。二煎目はお湯を入れた湯冷ましを出してくれるので、自分でいれます。同時に井上さん手作りのメレンゲを小皿で出してくれます。煎茶味とほうじ茶味。優しい甘さが煎茶のお茶請けにぴったり。
二煎目を飲み終わると、井上さんが「食べてみてください」と勧めます。最初に配膳された時に、はしがあったので不思議に思っていました。食べるのは、茶葉。急須からかつおぶしを盛った小皿に茶葉を取り出します。かつおぶしにかつお出汁のポン酢をかけ、茶葉と一緒にいただきます。煎茶の香りと出汁の風味が交わり、煎茶の甘みも感じられます。小皿に添えられたゆずこしょうみそで食べても、また風味が変わって、はしが進みます。井上さんは「茶葉は、つくだ煮や天ぷらにしてもおいしいですよ」と教えてくれました。
メニューはほかに、抹茶やほうじ茶のパフェ(750円)や温・冷ぜんざい(600円)、抹茶やほうじ茶のシフォンケーキ(550円)などのスイーツも。この時期は、新茶のシフォンもあります。和生菓子は菓子店から仕入れますが、白玉やあんこ、アイス、シフォンも井上さんの手作りです。
実はお店の裏には、お茶の木が1本あります。高さ50センチほどとまだ小さいですが、新芽が出ています。一本の枝先から小さな新芽が二つ出ているのを指さし、井上さんが「新茶は『一芯二葉』で摘みます」と教えてくれました。一芯三葉、四葉と成長を続けますが、一芯二葉は紫外線をあまり浴びていない若い芽で、カテキンが生成されておらず、苦みのない甘いお茶になります。
お茶の葉を1枚、ちぎってくれましたが、切り口のにおいをかいでも、お茶の香りはまったくしません。お茶は葉を摘んだ後、蒸してもみ、乾燥させてつくります。蒸したり、もんだりの過程で独特の香りが生まれるそうです。今は機械化されていますが、もむ職人さんによって、お茶の品質も変わったといいます。
お店では2カ月に1階程度、お茶の入れ方などを井上さんが教える講座を開いています。インスタグラムで募集するので、関心のある人はみてみてくださいね。
住所/札幌市豊平区月寒東2条20丁目1-6 |
電話/011・852・1513 |
営業時間/午前11時~午後6時 |
定休日/日曜・祝日 |
日常と違うお茶の時間を 静かな雰囲気、ついつい長居
🍵にちげつ
札幌市中心部の創成川沿いのビルの1室、5席だけのこじんまりしたお店です。店主で日本茶インストラクターの資格を持つ明田裕子さんが、お茶をいれてくれます。「この時期は、ほとんど全部新茶に切り替わりました」と話す明田さんの穏やかな口調と静かな雰囲気で、ついつい長居したくなります。
メニューは煎茶や深蒸し煎茶、抹茶のほか、ほうじ茶や玄米茶などで、リストには17種類記載されていますが、明田さんは「書いていないのもありますよ」と言います。お茶請けの干菓子がついて、500~600円です。ほかは、季節の生菓子(350円~)のみです。
注文を受けると、明田さんがはかりで茶葉を計量し始めます。はかりの片側には1円玉が3枚。茶葉は3グラムです。茶釜でしゅんしゅんとわいている熱湯をひしゃくですくい、湯冷ましで冷まし、1杯ずつ急須で入れてくれます。選んでくれたのは、宮崎県産の煎茶。21世紀に入ってから誕生した「きらり31」という新しい品種だそう。75度に冷まし、少し高めの温度でいれてくれました。あわい緑色で、苦みが少なく、優しい風味です。この日の干菓子は山椒味のメレンゲ。甘いながらも、山椒の香りが鼻に抜け、さわやかです。
「次は別の種類をいかがですか」と、屋久島の深蒸し茶「あさつゆ」をいれてくれました。「あさつゆ」は、色の濃さに反してまろやかで苦みがなく、どこか枝豆のような香りと風味があります。深蒸し茶は煎茶より長い時間かけて蒸したもので、渋みや苦みは抑えられ、まろやかな味になります。どちらも日本で編み出された製法で、深蒸し茶は昭和になってからつくられるようになった比較的新しいものだそうです。
深蒸し茶は抹茶のように緑色が濃いのですが、深蒸し茶は蒸した後、もんで細くより上げ、乾燥させるのに対し、抹茶は玉露のように黒い布で覆って日光をさえぎって生育させた葉を蒸し、もまずにかわかして石臼で細かくひきます。「深蒸し茶は時間がたつと茶葉が沈みますが、抹茶は沈みません」と教えてくれました。
店内には、急須や茶器があちこちに並んでいます。丸い土瓶型の急須と、平型の違いを尋ねると、「土瓶型は熱湯を使っていれるほうじ茶などに使います。反対に湯冷ましでいれるお茶には、口が広く小さいお皿のような急須を使います」と教えてくれました。お茶についての知識が豊富で、話題がどんどん広がります。
席が少ないこともあり、常連さんが多いそうですが、お客さん同士が仲良くなっておしゃべりすることもあるそうです。「お茶は家でも飲めるけれど、ここで飲むお茶は日常とは違うみたい。仕事場から家への途中で心を切り替える場でもあるようです」と明田さん。お客さんが一口、お茶を口に含んで「ふーっ」と息を吐き出すのを見て、うれしくなるそう。「湯船につかった時と一緒。心がなごんでいるんだなあって」。お茶は何煎でも、出続けるだけおかわり自由。時間の制限もありません。
住所/札幌市中央区南2条東1丁目 フラーテ札幌3階 |
電話/011・207・7758 |
営業時間/午後0時~午後8時 |
定休日/水曜、木曜。不定休あり |
ビールや焼酎、土鍋ご飯やザンギにも お茶アレンジあれこれ
🍵Nendo
料理やアルコールに煎茶や抹茶、ほうじ茶などのお茶を使っている居酒屋もあります。「茶酒屋 Nendo」です。お茶の風味や色を付けたビールや焼酎、日本酒がそろうほか、鍋スープにもお茶を入れ、ご飯にも茶葉を炊き込み、ザンギも抹茶風味と、お茶一色のお店です。
店を運営する「Nendo Japan」代表の宿村武望さんは「祖父と父がすし店を営んでおり、お茶の『あがり』は小さい頃から身近でした。飲食店を出そうと思った時に、何か印象的な料理やお酒を提供できないかと考え、お茶を思いつきました」と説明します。
「茶葉ザンギ」(715円)は2019年のオータムフェスト出店の際に考案して以来の店の人気メニュー。衣に玄米茶の茶葉を混ぜ込み、ザンギにはお茶のほのかな香りが。旨辛ダレとお茶を混ぜ込んだ真緑色のマヨネーズが添えられており、しっかり抹茶味を感じられます。
冬季(11月~4月)限定ですが、煎茶と出汁をミックスした鍋スープの「茶鍋」はあいがも(1280円)やタチやカキ、サケ、タラ、ホタテなどが入る海鮮(1480円)が人気。シメには茶そばを入れます。土鍋ご飯は、お米に煎茶の茶葉を入れて炊き込んだ「茶葉飯」で、「真鯛と雲丹 鮭といくら」(1408円)や「トリュフと道産牛トロ」(1078円)など4種類あります。
お酒も、茶せんでたてた抹茶とビールを混ぜた「宇治抹茶ビール」(880円)や茶葉をつけ込んだ焼酎「インフュージョン茶酒」を割った「深蒸し煎茶焼酎割り」(660円)、根室の地酒「北の勝」で抹茶をたてた「宇治抹茶酒」(770円)など、お茶ずくしです。
店内は照明を落としたスタイリッシュな雰囲気。午後3時から5時まで限定で、ドリンク3杯とトロたく巻きやあぶり塩からなどのおつまみ3品がセットになった「せんべろセット」が大人気。土曜日曜のこの時間帯は、満席になることも多いとか。
住所/札幌市中央区南3条西2丁目 KT三条ビル地下1階 |
電話/011・252・9077 |
営業時間/午後3時~午前0時 |
定休日/不定休 |
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