【鶴居】村の旧茂雪裡(もせつり)小体育館を改修した釧路・根室管内唯一のクラフトビール醸造所「ブラッスリー・ノット」の商品初出荷から1年が過ぎた。村のふるさと納税の返礼品に採用されたり、地元飲食店が取り扱ったりするなど、村の特産品としての地位を確立。製造過程で出る麦芽の搾りかすを牛の餌として酪農家に提供するなど、主産業の酪農への好影響も出ている。
「村のふるさと納税返礼品の中でも人気は上位。核となる特産品ができた」。ふるさと納税を担当する村むらづくり推進係の和田彰係長(37)はそう喜ぶ。
醸造所は昨年8月に稼働を開始し、翌9月に樽ビールを初出荷。12月には缶ビールの出荷を始め、村も返礼品に加えた。チーズやシカ肉などの返礼品があったが、いずれも他自治体との競争が激しく、釧根では鶴居村にしかないクラフトビールは強みとなっている。
新型コロナウイルス禍が落ち着き、観光客が戻りつつある中、同醸造所の商品の魅力に期待もかかる。
村内のホテル兼レストラン「夢工房」は、缶ビールを提供する。代表の佐藤敏恵さんによると、タンチョウ観察などで訪れた外国人観光客から、飲み口や香りの良さを評価する声が聞かれるという。佐藤さんは「ビールを通じて村の知名度が上がれば、宿泊先として鶴居を選ぶ観光客も増えてくれるのでは」と話す。
ビール以外にも地域への好影響は広がる。
茂雪裡の酪農業菊地農場は、ビールの製造過程で出る麦芽の搾りかすを安価で提供を受け、デントコーンや牧草などと混ぜて乳牛の餌にしている。農場の菊地孝範さん(70)は「搾りかすはカロリーが高く、牛が健康になって乳の出の改善が見込める」と強調する。
今年6月には、神戸市での醸造所開設を目指す男性を研修生として受け入れた。醸造所運営会社の植竹大海社長(38)は「事業の拡大が順調に進めば、地元からの雇用を進める」とし、「村の関係人口増加や地域活性化に寄与していきたい」と力を込める。(松井崇)
運営会社社長に聞く*「地域に支えられた」
【鶴居】ブラッスリー・ノット運営会社の植竹大海社長(38)に初出荷からの1年を振り返ってもらった。
―初出荷から1年が過ぎました。
「電気・灯油などの物価高で経営には逆風の1年でしたが、多くの方々が買い求めてくれたおかげで値上げを回避してこられました。1年で樽は約2600本で計3万5千リットル、缶は約10万6千本で計3万7千リットルを出荷し、当初予想の計7万リットルを少し上回りました」
―上回った要因は。
「地元の飲食店が積極的にブラッスリー・ノットのビールを入荷したり、醸造所併設の直売所を月数百人が訪れたり、地域住民に支えられた結果だと思っています。これまでクラフトビール醸造所がほとんど無かった釧路・根室管内でも、地元のクラフトビールを楽しむ文化が根付きつつあると感じています」
―今後の構想は。
「まだまだブラッスリー・ノットのビールが鶴居産だと知られていないので、道外の物産展に出品した際に鶴居で製造していることをアピールするなど、積極的な情報発信を考えています」
(聞き手・松井崇)
(北海道新聞2023年10月6日掲載)
白老初 クラフトビール*ホステル運営 菊地さんが醸造所*販売は秋以降*「地域に貢献したい」