【東川】後継者不足による休廃業が増える中、東川町で廃業予定だった製麺所を、町内の飲食店が引き継いだ。引き継ぎ後には、新商品として一般販売のうどんを開発し、1日に発売した。親族や従業員以外の第三者承継は全国的にも増加。廃業で失われかけた技術を生かしながら新しい事業に挑戦する例も多く、地域の産業や雇用の維持につながると注目されている。
町内で飲食店「笹一」を運営する「笹寿し」の社長寺林幸一さん(40)が、1950年から続く「羽衣製麺」を引き継いだ。笹一は同社の麺を仕入れており、寺林さんは「他のところの麺とは違う。自分の店で使う麺を変えたくなかったんだよ」と笑って振り返る。
羽衣製麺2代目の久保尚義さん(82)は、大量生産に切り替えたい親族と経営方針で意見が異なり、事業承継を断念。廃業しようとしていた3年前、納入先だった寺林さんが「継がせてほしい」と申し出た。最初は冗談だと思っていたが、何度も頼む寺林さんの姿勢に「幸ちゃんがやってくれるなら、うれしい」と応じた。寺林さんは昨年2月から製麺を学び、今年5月に独り立ち。笹寿しが羽衣製麺の建物と設備を買い取り、うどんやラーメンなどの製造を続けている。
「伸びづらく、伸びてもうまい」(寺林さん)という羽衣製麺の特徴を支えるのは「他社より3、4倍の手間をかける製麺の工程」(同)。久保さんから受け継いだ技術を生かしつつ、創業以来使い続けていた製麺機を一新。寺林さんは「つるつるの食感が良くなり、前よりもおいしくなった」。
さらに製麺機購入で補助金の相談をした札幌のコンサルティング会社「明善」と出資し、同じ社名で販売を担う合同会社「羽衣製麺」を今年4月に設立。飲食店への販売に加えて、今月1日から道の駅ひがしかわ「道草館」とインターネットで、うどん(280円)の一般販売を始めた。
明善代表の中谷太一さん(31)は「羽衣製麺の良さを一人でも多くの人に知ってほしかった」と語る。来年夏には冷や麦の一般販売も計画し、寺林さんは「変化を恐れず、毎日より良く変えていき、これから100年後も続く事業にしたい」と話す。(鈴木誠)
(北海道新聞2023年12月14日掲載)