荘厳な寺院と敷地内にネコたちがくつろぐ「高龍寺」@函館空港
函館空港周辺のおすすめスポットとお土産を紹介してくれるのは、食料品店とコーヒースタンドを運営する十字屋代表取締役の菅原雅仁さんです。十字屋食料品店は昭和初期の創業で、カール・レイモンのハムやソーセージ、トラピスト修道院のバターやチーズのほか、コーヒー豆を取り扱い、西洋風の食文化の普及に貢献してきました。コーヒースタンドは函館市内に3軒、札幌市内にも1軒あります。菅原さんは「函館には有名な観光名所がたくさんありますが、地元の視点でのおすすめを選びました」と話します。
函館山のふもとに、1633年(寛永10年)創建の由緒ある曹洞宗の寺院「高龍寺(こうりゅうじ)」があります。災害や戊辰戦争の戦火にあい、移転を経て現在地の函館市船見町に移転し、現在の本堂が落成したのが、1900年(明治33年)。その本堂や山門、開山堂(通称・羅漢堂)など10件は登録有形文化財に指定されています。近年は、敷地内でのんびり過ごす地域ネコが話題となり、スマホやカメラを手に、ネコ目当てに訪れる人もいます。
現存する高龍寺の建物は、越後(新潟県柏崎)から北前船で木材などを運び、大工も呼び寄せて建てられました。本堂は総ケヤキ造り、山門は総ヒバ造りの禅宗様式で、開山堂は1899年(明治32年)建立の七堂伽藍です。ほかに、袖塀、金比羅堂・水盤舎、鐘楼、宝蔵、防火壁、位牌堂が登録有形文化財となっています。
高龍寺は、道指定有形文化財で江戸後期の画家、蠣崎波響(かきざき・はきょう、1764~1826年)の代表作「釈迦涅槃図」など多くの宝物も所蔵しています。涅槃図は同寺11世住職、華重禅海(けじゅう・ぜんかい)の依頼を受けて波響が描き、1811年(文化8年)に奉納されたもので、縦3メートル、横1.4メートルの掛け軸2本の大作。毎年4月に15日間のみ公開されていますが、今年は約120年ぶりの修復作業を行っているため、次の公開は修復後の来年になります。昨年10~11月にクラウドファンディングを実施して集まった約1600万円で、カビの洗浄や台紙のはがれなどを直しています。
ほかに、波響の作品3点、4幅や臨済宗中興の祖とされる禅僧白隠慧鶴(はくいん・えかく、1685~1768年)の「鍾馗(しょうき)の図」も収蔵されており、これらは毎年10月の宝物展で一般公開しています。
近年は、ネコを目当てに訪れる人も増えています。地域ネコのミケとトラがいつしか同寺の敷地に立ち寄るようになり、ネコたちが散歩したり昼寝をしたりする様子を同寺の僧侶が「X(旧ツイッター)」にアップしたところ、ネコ好きの間で話題に。動物写真家の岩合光昭さんが出演するテレビ番組で取り上げられたこともあり、人気がアップしました。現在はミケとトラは愛護団体に保護され、飼い主が見つかって引き取られましたが、別の地域ネコ数匹が同寺の敷地の中で思い思いに過ごしています。
高龍寺は北海道での曹洞宗の開教拠点となっており、道内各地に41の末寺があり、道内の曹洞宗の寺院の約3分の1が高龍寺の流れをくんでいるとされています。現在も檀家供養や仏教行事を執り行い、朝晩には鐘楼も突き、檀家が集う場にもなっています。函館が開港され、国際貿易港としての発展に寄与し、函館を訪れたペリー提督にも「ヤナギやモミの木陰の美しき構内に、高龍寺、すなわち高き龍王の寺 HIGH DRAGON TEMPLEがある」と言わしめた格式の高い高龍寺ですが、それが敷居の高さにはなっていません。
古くから親しまれている茶褐色の湯「谷地頭温泉」
函館市電の終点、谷地頭電停を下りてすぐのところにあるのが、市民に古くから親しまれている公衆浴場、谷地頭温泉です。ナトリウム-塩化物泉の源泉掛け流しで、鉄分を含んだ茶褐色のお湯です。内湯には浴槽が高温、中温、気泡風呂の男女各三つ。露天風呂は特別史跡五稜郭跡を模した星形の湯船です。サウナや水風呂もあります。
古くから市民に愛されており、市電に乗ってわざわざ入りに来る市民がいるほか、函館山のふもとに位置しており、函館山を山歩きし、自然や景色を楽しんだ後に、汗を流しに来る人たちもいます。また、朝6時と早くから営業しており、深夜バスで早朝に到着した観光客が観光前に立ち寄ることもあるそうです。
タオルとシャンプー、コンディショナー、ボディソープなどがセットになった「手ぶらセット」も販売されており、用意がなくてもお湯を楽しめます。休憩所で提供している七飯町の山川牧場のびん牛乳や牛乳ソフトクリームも人気です。
菅原さんは「観光スポットがたくさんある元町エリアや函館山も近く、観光で歩いた体を温めて休むこともできます。地元の人にも愛されており、私もよく入りに行きます」と話します。
イカの味、香りとソフトな歯ごたえ「黄金のしいか」
おすすめのお土産は、マルイチ青山水産の乾燥珍味「黄金のしいか」です。しっかりしたイカの味とうまみ、香りを残しながら、口当たりは柔らか。ソフトな歯ごたえは「かつお節やとろろこんぶのよう」という人もいるほどの軽やかさです。タイや台湾などからの外国人観光客観光客にも人気で、リピーターも多いとか。
200~300グラムの真イカを無添加の調味液に漬け、加熱後、プレス。最後の仕上げは店頭で実演しており、耳から縦に通っているイカの繊維をローラーで伸ばしていくと、4~5倍の大きさになります。
菅原さんは「一般的に思い浮かべるのしいかは甘めの味付けだが、これはイカの味がしっかりしていて、酒のつまみにぴったり。時間がたっても固くならず、おいしく食べられます」と話します。
さきいかも人気で、わさび味やめんたい味の変わり種もあります。スルメやあたりめ、くちばしの部分の「とんび」などの珍味も扱っており、イカにこだわったマルイチ青山商店ならではの品ぞろえが自慢です。
ニシン漁の盛況を今に伝える遺構「泉の袋澗」@利尻空港
利尻島のおすすめスポットとお土産を紹介してくれるのは、利尻富士町の地域おこし協力隊を3年間務めた後、同町のコンドミニアム「旅番屋」の運営・管理、旅行会社の「利尻ポンツアーズ」の運営に携わっている梅村みゆきさんです。富山県出身の梅村さんは、水産会社でのアルバイトのため島に滞在中に愛着がわき、移住。梅村さんに島の魅力を教えてもらいました。
ポン山で気軽にスノーシュー散策
冬のおすすめは、ポン山(444メートル)のスノーシュー散策です。ポン山は島の中央にある利尻山(利尻富士、1721メートル)の北側に位置し、本格的な登山の経験のない人でも、比較的気軽に挑戦できます。
冬は、茂みや笹やぶが雪で覆われるため、夏には入れないところにも歩いて行くことができ、さまざまな角度から利尻山を眺めることができます。標高が高いため、市街地よりも気温が低く、霧氷が付着した樹木など山岳地域ならではの幻想的な風景も楽しめます。
森の中を歩いていると、シマエナガの群れやクマゲラ、アカゲラ、コゲラなどの野鳥に出会うこともあります。夏にはゲラ類が木をつつくドラミングが聞こえても、なかなか近づいたり姿を確認したりしにくいのですが、冬は樹木の葉が落ち、さえぎるものがないため、見つけやすく、写真の撮影もできます。イタチやシマリスなどの小動物の足跡を探し、生態を想像するのも楽しみです。利尻島にはシカもヒグマも生息していないので、野生動物とのトラブルの心配もありません。
利尻富士温泉からポン山を巡るコースは往復4時間ほどで、小学校高学年くらいから挑戦できます。手軽さと達成感の両方を味わうことができるコースです。地元の山岳会がシーズン中、数回、ツアーを企画しており、スノーシューのレンタルもしています。
また、ぜひ見ておきたいのが泉の袋澗(ふくろま)です。袋澗とは、ニシン漁が盛んだったころに漁獲したニシンを一時貯蔵するいけすとして使われた遺構。ニシンの漁期の春は強い季節風によるしけが多く、荒波を避けるため、ニシンの入った網を袋澗の中の海水に入れておいたそうです。道内の日本海側にはかつて300カ所ほど建築され、そのうち利尻島には30以上の袋澗があったとされます。現在、往時の姿が残るのは、鷲泊(泉の袋澗)と仙法志、久連の3カ所です。
泉の袋澗は鷲泊港の北側にあり、大正時代以前につくられたと推定されています。町教委が2007年に実施した測量調査によると、上空から見ると手かぎ状の形をしており、総延長約67メートル、高さ3メートル。プール部分の面積は約500平方メートルで、水深は1メートルほどです。利尻島内のものとみられる約30センチの四角錐の間知石(けんちいし)を3~7段積み、隙間にセメントを入れる「間知石練積み工法」で造られています。上の方には突起がいくつかあり、係船柱として使われていました。
道内の日本海側各地にあった袋澗ですが、長年のしけや波による劣化や漁港の整備・改修などで減っていきました。利尻島では間知石の材料になる安山岩が多く産出され、大型な袋澗が多く、強固なつくりの袋澗が多かったといいます。また、泉の袋澗の沖には消波ブロックが設置されていることや、先端部や上部がコンクリートで補強されていること、町が2001年に一部を補修したことなどから、残っているとみられています。
泉の袋澗の名前は、戦後この漁場を取り仕切っていた泉八三郎にちなんだもので、その前の所有者だった泉谷三平の名から「柳谷袋澗」とも呼ばれます。かまぼこ型の堤体の形から、「なまこ岩」「泉のナマコ」と言われることもあるそうです。
泉の袋澗は、豊漁や航海安全を祈る神社や奉納物、石碑や獅子舞などとともに、「利尻島の漁業遺産群と生活文化」として北海道遺産に選定されています。
梅村さんは「漁業という島の産業の歴史を体感できます。ニシンを炊いていた釜の跡や海底湧水もあって、いろいろな発見が楽しい場所です」と言います。
地元産サケ使いしっとり柔らかい「鮭スモーク」
おすすめのお土産は、福士水産の「鮭スモーク」。一般の鮭とばよりもしっとりしていて柔らかく、ほどよい塩味です。かみしめるとサケのうまみが口いっぱいに広がります。利尻でとれたサケを島内で手作業で加工して作っています。
実は梅村さんが最初に利尻島に来た2019年夏、アルバイトをしたのが同水産だったそう。ウニのからむきをしたり、サケをさばいてスモークしたりといった作業に携わりました。その中で、漁師さんと触れ合う機会もあり、地元の人との温かい交流が梅村さんに利尻への移住を決断させました。梅村さんは「アルバイト先だったという『ひいき目』を差し引いてもおいしい。島外の人に荷物を送る時には、隙間に鮭スモークを入れてあげます。また送ってとリクエストがきます」と味を保証しています。
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