ビールの味や香りに欠かせないホップ。サッポロビールの原料開発研究所がある上富良野町で、まもなく収穫期を迎えるホップについて学び、ホップ畑を見学できるツアー「『乾杯をもっとおいしく。』上富良野ツアー」が催行され、参加してきました。普段は立ち入ることのできない同社の研究農場でホップを見て、摘んで、触れ、香りをかいで、ビールに生のホップを「追いホップ」して味わって、全身でホップを感じました。
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適地で一世紀続く試験栽培・原料研究
サッポロビールが協力し、北海道宝島旅行社(札幌)が企画、催行。昨年に続き、2回目の企画で、今年は7月30日と8月3、4の両日の実施です。札幌市中心部をバスで出発し、3時間近くかけて上富良野町に到着です。町中心部にあるサッポロビールの原料開発研究所を訪ねました。
上富良野町は、大日本麦酒株式会社が1923年に道内20カ所ほどで実施したホップの試験栽培で、気候や風土、土質などから栽培の適地とされたことで、ホップの栽培が始まりました。ピーク時の昭和40年代に100戸ほどだった町内のホップ農家は現在、わずか4戸です。
しかし、現在もサッポロビールは上富良野に原料開発研究所を置き、ホップの品種改良や試験栽培を続けており、1927年(昭和2年)にホップの乾燥所として建てられた建物も使用しています。乾燥所として活用していた際は、1階で運び込んだホップを乾燥させ、建物中央にあるリフトで2階に搬入して保管。出荷時は2階の窓を開け、命綱を着けた作業員が2階からトラックに積み込んだそうです。
ビールに使われるホップは「球花」
研究所の原料育種研究グループ上級研究員の久慈正義さんが、ビールの原料となるホップや大麦などについて、解説してくれました。よく手にする350ミリリットル缶のビール1本を作るのに必要なホップについて、久慈さんは「ビール大麦約45グラムとホップ約0.5グラムです」と教えてくれました。ホップはわずか3粒ほどです。
大麦はイネ科の植物で、品種や地域によって春まきと秋まきがありますが、北海道では春まきで、7月に成熟、植えてから4~5カ月で収穫できます。大麦は、そのままではビールの原料としては使えません。二条大麦(ビール大麦)を水に浸し、芽や根が少し出たところで成長を止めるため、乾燥させます。これが麦芽で、この工程を「製麦」といい、ビールに必要な色や芳しい香りがここで決まります。
ホップはアサ科の多年生植物で、ツルを出し巻き付いて上に伸びるので、5メートル以上の高棚で育てます。雌雄別株ですが、ホップ農家は雌株だけを育てます。ホップは5月上旬ころに芽を出し、2カ月ほどで5メートルにも育ち、7月上旬に「毛花(けばな)」を付けます。毛が落ち、膨らんだものが「球花(きゅうか)」で、ビールにはこれを使います。球花は受粉しなくてもできます。逆に受粉するとビールの味が落ちるので、近くに野生の雄株があったら、農家は駆除するそうです。ホップはビールの苦みや香りのもとになるだけでなく、泡もちを良くしたり、酵母以外の雑菌の繁殖を防いだりする効果があるそうです。
ビールは細かく砕いた麦芽と温水と混ぜ、麦芽の酵母の働きででんぷん質を糖分に変え、それをろ過してホップを加え、煮沸。これをさらに発酵、熟成させて作ります。
「ソラチエース」は開発から30年経て表舞台に
サッポロビールは年間、品種になる前のホップを数千系統も栽培し、品種改良に取り組んでいます。品種登録しても、なかなか表舞台に出ないホップもあります。その一例が「ソラチエース」です。1984年に開発されたものの、当時は香りが穏やかで苦みのあるものが好まれており、香りの強いソラチエースは使われませんでした。しかし、近年、アメリカのクラフトビール文化が日本でも定着し、香りが高いビールが評価されるようになりました。それを受け、2019年にソラチエースを100%使って作られた「ソラチ1984」がリリースされ、ビール通の間で人気を集めています。
久慈さんは、ホップの品種改良とともに、原料調達と品質チェックにも携わっています。サッポロビールは「協働契約栽培」というシステムで、産地や生産者、生産方法が分かる大麦やホップを調達しています。大麦やホップの生産者と信頼関係を築き、生産方法や品質をチェックするのが久慈さんら「フィールドマン」。久慈さんら10人のフィールドマンが道内や東北、北米、オセアニアなどの生産者を訪ね、作柄や気候、農薬の使用状況などについて情報収集しているそうです。
華やか、柔らか…品種ではっきり異なる香り
研究所の畑も見せてもらいました。普段は一般の人は立ち入り禁止です。収穫を間近に控えたホップは、5メートルほどに成長。整然と並ぶさまは圧巻です。春に芽が出てツルが伸びてくると支柱に絡みつき、上へ上へと伸びていきます。久慈さんは「上から見て、ホップはツルを時計回りに巻きます。アサガオは逆向きです。南半球に行ってもそれは変わりません」と説明してくれました。
ホップの球花がたくさん付いていました。一部にはまだ毛花もありました。
ホップを一粒摘んで、真ん中から割いてみます。中にある小さな黄色のツブツブが、香りや苦みのもとのルプリンです。「フラノマジカル」を割って、鼻を近づけてみると、マンゴーやトロピカルフルーツのような、華やかな香りがします。「ふらのほのか」は強くはありませんが、柔らかい青草のような香り。品種が違うと、香りが全然違います。
ランチタイムは地元名物「豚さがり」で乾杯
ランチの時間になりました。上富良野名物の「豚さがり」の焼き肉です。豚さがりは豚の横隔膜で、1頭から300グラムほどしかとれない希少部位ですが、上富良野では昭和40年代から食べられているそうです。バスで町内を走っていると、あちこちに「豚さがり」の看板やのぼりがあり、定着しているのがうかがえます。当初の予定では、ホップ畑でBBQの予定だったのですが、前日の大雨の影響でほ場の土がぬかるんでおり、やむなく隣接する納屋に変更になりました。
サッポロビールの「サッポロクラシック」で乾杯! この日の豚さがりは、1962年創業の多田精肉店の味付きのもの。「みそ味」と「スパイシー」、「しお味」の3種類の豚さがりと、塩味の豚ホルモンを用意してくれました。まず、しお味を焼いてみます。細長いさがりに炭火でしっかり火を通し、いただきます。
しお味は、しっかりとした弾力とかみ応えがあり、肉のうまみがたっぷり。表面がちょっとこげた部分もカリッとしておいしい。焼く前に、白い脂肪分が付いているところもありましたが、脂っぽさはなく、赤身肉のような味わいです。スパイシーは、コショウやニンニクで味付けされ、タンドリーチキンのような香り。からさはさほどなく、子どもでも食べられそうです。スパイス効果か、しお味よりも柔らかく感じます。
みそ味は、みそが主張しすぎず、まろやかで優しい味わい。みそ味が、一番最初にできた「元祖」だそうで、納得の味です。ホルモンもほどよい塩だれで、ちょうど火が通ったジューシーさもよし、じっくり〝育て〟て、カリッとさせるのもよし。各500グラム、計2キロあり、女性6人でお腹いっぱい食べましたが、ギブアップ。お隣の焼き台を囲んでいたチームにお裾分けして、食べてもらいました。
もちろん、ビールは蒸発するように消えていきます。アルミカップ入りのビールは量もたっぷり、冷え冷え。この日の上富良野の最高気温は29.8度。外ではジージーとセミが鳴いています。札幌を出る時にはどんよりとしたくもり空でしたが、上富良野は真っ青な夏空です。ホップについていろいろ教わったからか、より一層、ビールがおいしく感じられます。畑で摘んだ生のホップをビールに入れて、「追いホップ」もしてみました。香りが立って、この季節、この場所ならではのぜいたくビールになりました。
住宅街に広がる畑で育つ「希望のホップ・リトルスター」
ランチの後は、町内でホップを生産している佐藤農場におじゃまします。町中心部にほど近い住宅街に突然、ホップ畑が広がります。この畑では、小さくてやや長めの球花を付ける「リトルスター」を生産しています。高級種のファインアロマ品種が親で、上品で穏やかな香りがするそう。育てやすさもあり、将来の主力品種として、未来の希望を担う「希望のホップ」と呼ばれているそうです。
「フラノマルシェ」でワインも試飲
帰りは、ビールをたくさん飲んだこともあり、あちこち寄って休憩をはさみながら、札幌を目指します。最初に立ち寄ったのは、富良野市の「フラノマルシェ」。フラノマルシェ1には9店、フラノマルシェ2には10店の飲食店や物販店が入っています。置いてあった温度計は30度を超え、イベント広場の噴水周辺では、子どもが水遊びをしていました。
農産物直売所やお土産を扱う物産センターなどをぶらぶらした後、中富良野のワイナリー「ドメーヌレゾン」の直営店を発見。店員さんが「試飲をどうぞ」とすすめてくれました。ところが、この時点で集合時間まで10分を切っています。「無計画にぶらぶらする前に、見つけたかった」と後悔しつつ、オレンジワイン2023とソーヴィニヨンブラン2022を試飲させてもらいました。ソーヴィニヨンブランは「日本ワインコンクール2024」の「欧州系・白」部門で、今年から金賞の上位に設けられた最高賞のグランドゴールド賞を受賞したそう。香りが華やかで、ソーヴィニヨンブランらしい、さわやかな飲み口です。
ここで、5分前になったので、赤の試飲は泣く泣く我慢し、ケルナー2022をグラスで購入して、バスに戻ります。かわいいヤギのプラカップに入っています。ソーヴィニヨンブランより酸味が強く、すっきりしています。食中酒としても、良さそうです。
ゆっくりワインを味わいながら、道の駅「スタープラザ芦別」や道央道の岩見沢サービスエリアなどに寄りながら、札幌到着です。
ツアーには、お土産もついていました。ランチの時に、ビールの提供やBBQの用意に協力してくれた上富良野町観光協会からは、ラベンダーのポプリのほか、上富良野町で生産されたホップ「フラノスペシャル」と「フラノビューティ」、ビール麦「きたのほし」を使い、札幌開拓使麦酒醸造所に委託醸造したオールモルトビール「まるごとかみふらの」プレミアムビールをいただきました。
また、サッポロビールは、出発前にポッカサッポロの「北海道コーン茶」を配布してくれたほか、札幌・大通公園で開催中の「さっぽろ大通ビアガーデン」の8丁目会場「THE サッポロビアガーデン」で使えるビールチケット1枚を付けてくれました。
交通手段を気にせず、ホップを学び、感じることができ、ビールをもっと好きになれるこのツアー、大満足でした。この時期にしか、見ることのできないホップの風景。来年も、開催されるかもしれません。