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2024.08.02

ビールに欠かせぬホップを知る、感じる「『乾杯をもっとおいしく。』上富良野ツアー」~サッポロビールの研究所や栽培地を訪ねて

小川郁子編集長
小川郁子編集長

 苫小牧生まれ、札幌育ち。ビール、ワイン、日本酒、お酒全般、控えめにいって好きです。食べ物の好き嫌いもほとんどありませんが、ウナギやハモ、アナゴなどニョロっとしたものは苦手です。1996年に北海道新聞入社後は、道内各地や東京で1次産業や政治、行政などを担当しました。2023年5月からTripEat北海道編集長。

サッポロビールの原料開発研究所の研究農場に植えられたホップ
サッポロビールの原料開発研究所の研究農場に植えられたホップ

 ビールの味や香りに欠かせないホップ。サッポロビールの原料開発研究所がある上富良野町で、まもなく収穫期を迎えるホップについて学び、ホップ畑を見学できるツアー「『乾杯をもっとおいしく。』上富良野ツアー」が催行され、参加してきました。普段は立ち入ることのできない同社の研究農場でホップを見て、摘んで、触れ、香りをかいで、ビールに生のホップを「追いホップ」して味わって、全身でホップを感じました。

適地で一世紀続く試験栽培・原料研究

昭和初期に建てられたホップの乾燥所
昭和初期に建てられたホップの乾燥所

 サッポロビールが協力し、北海道宝島旅行社(札幌)が企画、催行。昨年に続き、2回目の企画で、今年は7月30日と8月3、4の両日の実施です。札幌市中心部をバスで出発し、3時間近くかけて上富良野町に到着です。町中心部にあるサッポロビールの原料開発研究所を訪ねました。

 上富良野町は、大日本麦酒株式会社が1923年に道内20カ所ほどで実施したホップの試験栽培で、気候や風土、土質などから栽培の適地とされたことで、ホップの栽培が始まりました。ピーク時の昭和40年代に100戸ほどだった町内のホップ農家は現在、わずか4戸です。

乾燥させたホップを2階に運び上げるリフト跡
乾燥させたホップを2階に運び上げるリフト跡
命綱を着けた作業員が2階からホップをトラックに積み込んだという乾燥所の建物
2階の窓から命綱を着けた作業員がホップをトラックに積み込みました

 しかし、現在もサッポロビールは上富良野に原料開発研究所を置き、ホップの品種改良や試験栽培を続けており、1927年(昭和2年)にホップの乾燥所として建てられた建物も使用しています。乾燥所として活用していた際は、1階で運び込んだホップを乾燥させ、建物中央にあるリフトで2階に搬入して保管。出荷時は2階の窓を開け、命綱を着けた作業員が2階からトラックに積み込んだそうです。

ビールに使われるホップは「球花」

350ミリリットル缶のビールの製造に必要な大麦(左)とホップ。後ろは1株の大麦で約50グラム
350ミリリットル缶のビールの製造に必要な大麦(左)とホップ。後ろは1株の大麦で約50グラム

 研究所の原料育種研究グループ上級研究員の久慈正義さんが、ビールの原料となるホップや大麦などについて、解説してくれました。よく手にする350ミリリットル缶のビール1本を作るのに必要なホップについて、久慈さんは「ビール大麦約45グラムとホップ約0.5グラムです」と教えてくれました。ホップはわずか3粒ほどです。

いろいろな種類の大麦。ビールの原料になる二条大麦は後ろ左側。手前左は麦茶に使われる六条大麦
いろいろな種類の大麦。ビールの原料になる二条大麦は後ろ左側。手前左は麦茶に使われる六条大麦

 大麦はイネ科の植物で、品種や地域によって春まきと秋まきがありますが、北海道では春まきで、7月に成熟、植えてから4~5カ月で収穫できます。大麦は、そのままではビールの原料としては使えません。二条大麦(ビール大麦)を水に浸し、芽や根が少し出たところで成長を止めるため、乾燥させます。これが麦芽で、この工程を「製麦」といい、ビールに必要な色や芳しい香りがここで決まります。

乾燥させたホップ(左)と粉末にしたもの(中央)、ペレット状に固めたもの
乾燥させたホップ(左)と粉末にしたもの(中央)、ペレット状に固めたもの。通常はペレットを使います

 ホップはアサ科の多年生植物で、ツルを出し巻き付いて上に伸びるので、5メートル以上の高棚で育てます。雌雄別株ですが、ホップ農家は雌株だけを育てます。ホップは5月上旬ころに芽を出し、2カ月ほどで5メートルにも育ち、7月上旬に「毛花(けばな)」を付けます。毛が落ち、膨らんだものが「球花(きゅうか)」で、ビールにはこれを使います。球花は受粉しなくてもできます。逆に受粉するとビールの味が落ちるので、近くに野生の雄株があったら、農家は駆除するそうです。ホップはビールの苦みや香りのもとになるだけでなく、泡もちを良くしたり、酵母以外の雑菌の繁殖を防いだりする効果があるそうです。

「サッポロクラシック春の薫り」などに使われるホップの品種「フラノマジカル」
「サッポロクラシック春の薫り」などに使われるフラノマジカル
「サッポロクラシック夏の爽快」などに使われるホップの品種「リトルスター」
「サッポロクラシック夏の爽快」などに使われるリトルスター

 ビールは細かく砕いた麦芽と温水と混ぜ、麦芽の酵母の働きででんぷん質を糖分に変え、それをろ過してホップを加え、煮沸。これをさらに発酵、熟成させて作ります。

「ソラチエース」は開発から30年経て表舞台に

開発から30年以上たって表舞台に登場したホップの品種「ソラチエース」
開発から30年以上たって表舞台に登場したソラチエース

 サッポロビールは年間、品種になる前のホップを数千系統も栽培し、品種改良に取り組んでいます。品種登録しても、なかなか表舞台に出ないホップもあります。その一例が「ソラチエース」です。1984年に開発されたものの、当時は香りが穏やかで苦みのあるものが好まれており、香りの強いソラチエースは使われませんでした。しかし、近年、アメリカのクラフトビール文化が日本でも定着し、香りが高いビールが評価されるようになりました。それを受け、2019年にソラチエースを100%使って作られた「ソラチ1984」がリリースされ、ビール通の間で人気を集めています。

ホップについて説明する久慈さん
ホップについて説明する久慈さん。生産者とつながるフィールドマンとしても活躍しています

 久慈さんは、ホップの品種改良とともに、原料調達と品質チェックにも携わっています。サッポロビールは「協働契約栽培」というシステムで、産地や生産者、生産方法が分かる大麦やホップを調達しています。大麦やホップの生産者と信頼関係を築き、生産方法や品質をチェックするのが久慈さんら「フィールドマン」。久慈さんら10人のフィールドマンが道内や東北、北米、オセアニアなどの生産者を訪ね、作柄や気候、農薬の使用状況などについて情報収集しているそうです。

華やか、柔らか…品種ではっきり異なる香り

原料開発研究所のホップ畑
原料開発研究所のホップ畑

 研究所の畑も見せてもらいました。普段は一般の人は立ち入り禁止です。収穫を間近に控えたホップは、5メートルほどに成長。整然と並ぶさまは圧巻です。春に芽が出てツルが伸びてくると支柱に絡みつき、上へ上へと伸びていきます。久慈さんは「上から見て、ホップはツルを時計回りに巻きます。アサガオは逆向きです。南半球に行ってもそれは変わりません」と説明してくれました。

ホップの球花
ホップの球花
ホップの毛花
ホップの毛花

 ホップの球花がたくさん付いていました。一部にはまだ毛花もありました。

ホップを割って出てくる黄色のツブツブ「ルプリン」
ホップを割って出てくる黄色のツブツブ「ルプリン」

 ホップを一粒摘んで、真ん中から割いてみます。中にある小さな黄色のツブツブが、香りや苦みのもとのルプリンです。「フラノマジカル」を割って、鼻を近づけてみると、マンゴーやトロピカルフルーツのような、華やかな香りがします。「ふらのほのか」は強くはありませんが、柔らかい青草のような香り。品種が違うと、香りが全然違います。

ランチタイムは地元名物「豚さがり」で乾杯

網の上で焼かれている新鮮な野菜と豚さがりのしお味
新鮮な野菜と豚さがりの「しお味」

 ランチの時間になりました。上富良野名物の「豚さがり」の焼き肉です。豚さがりは豚の横隔膜で、1頭から300グラムほどしかとれない希少部位ですが、上富良野では昭和40年代から食べられているそうです。バスで町内を走っていると、あちこちに「豚さがり」の看板やのぼりがあり、定着しているのがうかがえます。当初の予定では、ホップ畑でBBQの予定だったのですが、前日の大雨の影響でほ場の土がぬかるんでおり、やむなく隣接する納屋に変更になりました。

黒ラベルで乾杯

 サッポロビールの「サッポロクラシック」で乾杯! この日の豚さがりは、1962年創業の多田精肉店の味付きのもの。「みそ味」と「スパイシー」、「しお味」の3種類の豚さがりと、塩味の豚ホルモンを用意してくれました。まず、しお味を焼いてみます。細長いさがりに炭火でしっかり火を通し、いただきます。

 しお味は、しっかりとした弾力とかみ応えがあり、肉のうまみがたっぷり。表面がちょっとこげた部分もカリッとしておいしい。焼く前に、白い脂肪分が付いているところもありましたが、脂っぽさはなく、赤身肉のような味わいです。スパイシーは、コショウやニンニクで味付けされ、タンドリーチキンのような香り。からさはさほどなく、子どもでも食べられそうです。スパイス効果か、しお味よりも柔らかく感じます。

豚さがりのみそ味(左)とホルモンの塩味
豚さがりのみそ味(左)とホルモンの塩味
長年、上富良野町民に愛されている多田精肉店の豚さがり
長年、上富良野町民に愛されている多田精肉店の豚さがり

 みそ味は、みそが主張しすぎず、まろやかで優しい味わい。みそ味が、一番最初にできた「元祖」だそうで、納得の味です。ホルモンもほどよい塩だれで、ちょうど火が通ったジューシーさもよし、じっくり〝育て〟て、カリッとさせるのもよし。各500グラム、計2キロあり、女性6人でお腹いっぱい食べましたが、ギブアップ。お隣の焼き台を囲んでいたチームにお裾分けして、食べてもらいました。

 もちろん、ビールは蒸発するように消えていきます。アルミカップ入りのビールは量もたっぷり、冷え冷え。この日の上富良野の最高気温は29.8度。外ではジージーとセミが鳴いています。札幌を出る時にはどんよりとしたくもり空でしたが、上富良野は真っ青な夏空です。ホップについていろいろ教わったからか、より一層、ビールがおいしく感じられます。畑で摘んだ生のホップをビールに入れて、「追いホップ」もしてみました。香りが立って、この季節、この場所ならではのぜいたくビールになりました。

住宅街に広がる畑で育つ「希望のホップ・リトルスター」

佐藤農場の看板
佐藤農場の看板
住宅街の横に広がるホップ畑
住宅街の横に突然ホップ畑が広がります

 ランチの後は、町内でホップを生産している佐藤農場におじゃまします。町中心部にほど近い住宅街に突然、ホップ畑が広がります。この畑では、小さくてやや長めの球花を付ける「リトルスター」を生産しています。高級種のファインアロマ品種が親で、上品で穏やかな香りがするそう。育てやすさもあり、将来の主力品種として、未来の希望を担う「希望のホップ」と呼ばれているそうです。

「フラノマルシェ」でワインも試飲

地元の食材を使った飲食店などが入るフラノマルシェ
地元の食材を使った飲食店などが入るフラノマルシェ
イベント広場では水遊びする子どもも

 帰りは、ビールをたくさん飲んだこともあり、あちこち寄って休憩をはさみながら、札幌を目指します。最初に立ち寄ったのは、富良野市の「フラノマルシェ」。フラノマルシェ1には9店、フラノマルシェ2には10店の飲食店や物販店が入っています。置いてあった温度計は30度を超え、イベント広場の噴水周辺では、子どもが水遊びをしていました。

ドメーヌレゾンの直営店
ドメーヌレゾンの直営店

 農産物直売所やお土産を扱う物産センターなどをぶらぶらした後、中富良野のワイナリー「ドメーヌレゾン」の直営店を発見。店員さんが「試飲をどうぞ」とすすめてくれました。ところが、この時点で集合時間まで10分を切っています。「無計画にぶらぶらする前に、見つけたかった」と後悔しつつ、オレンジワイン2023とソーヴィニヨンブラン2022を試飲させてもらいました。ソーヴィニヨンブランは「日本ワインコンクール2024」の「欧州系・白」部門で、今年から金賞の上位に設けられた最高賞のグランドゴールド賞を受賞したそう。香りが華やかで、ソーヴィニヨンブランらしい、さわやかな飲み口です。

日本ワインコンクール2024で最高賞を受賞したドメーヌレゾンのソーヴィニヨンブラン
日本ワインコンクール2024で最高賞を受賞したソーヴィニヨンブラン
ドメーヌレゾンのケルナー2022
ドメーヌレゾンのケルナー2022

 ここで、5分前になったので、赤の試飲は泣く泣く我慢し、ケルナー2022をグラスで購入して、バスに戻ります。かわいいヤギのプラカップに入っています。ソーヴィニヨンブランより酸味が強く、すっきりしています。食中酒としても、良さそうです。

 ゆっくりワインを味わいながら、道の駅「スタープラザ芦別」や道央道の岩見沢サービスエリアなどに寄りながら、札幌到着です。

お土産の「まるごとかみふらの」
お土産の「まるごとかみふらの」
まるごとかみふらのに使われているフラノスペシャルとフラノビューティー
まるごとかみふらのに使われているフラノスペシャルとフラノビューティ

 ツアーには、お土産もついていました。ランチの時に、ビールの提供やBBQの用意に協力してくれた上富良野町観光協会からは、ラベンダーのポプリのほか、上富良野町で生産されたホップ「フラノスペシャル」と「フラノビューティ」、ビール麦「きたのほし」を使い、札幌開拓使麦酒醸造所に委託醸造したオールモルトビール「まるごとかみふらの」プレミアムビールをいただきました。

 また、サッポロビールは、出発前にポッカサッポロの「北海道コーン茶」を配布してくれたほか、札幌・大通公園で開催中の「さっぽろ大通ビアガーデン」の8丁目会場「THE サッポロビアガーデン」で使えるビールチケット1枚を付けてくれました。

 交通手段を気にせず、ホップを学び、感じることができ、ビールをもっと好きになれるこのツアー、大満足でした。この時期にしか、見ることのできないホップの風景。来年も、開催されるかもしれません。

小川郁子編集長
小川郁子編集長

 苫小牧生まれ、札幌育ち。ビール、ワイン、日本酒、お酒全般、控えめにいって好きです。食べ物の好き嫌いもほとんどありませんが、ウナギやハモ、アナゴなどニョロっとしたものは苦手です。1996年に北海道新聞入社後は、道内各地や東京で1次産業や政治、行政などを担当しました。2023年5月からTripEat北海道編集長。

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