海水温の温暖化が指摘される北海道周辺海域で、近年水揚げが増えた魚種の一つにブリがある。後志管内余市町では既にそのブリが豊漁になっていた。脂が乗った寒ブリはこれからだが、漁業者をはじめ加工関係者が期待するブリを見に浜へ出掛けた。(文、写真・編集委員 鈴木雅人)
7月上旬、余市港に接岸した漁船「第15共栄丸」からブリが水揚げされていた。船主の中島辰浩さん(58)がフォークリフトを動かし、大漁のブリを余市郡漁協の市場に運んだ。
沖合の定置網で取れたのは約1500本。4~7キロの中型が千本と多かった。6月上旬から漁が始まり、浜値は1キロ当たり200~400円。秋の寒ブリなら同千円以上、高ければ同5千~7千円になるという。
この時期は「脂がしつこくないので、あっさりめを好む人にはいいね」と中島さん。燃料代などが上がる中「(秋も含め)今後の漁に期待したい」と語った。
同漁協の市場でブリを扱うのは4、5社で、そのうちの一つ「棒丸内海(うちうみ)商店」(余市町港町87)は、この1500本を8割を関東に、2割を札幌などの道内へ送った。関東は東京・豊洲市場などを通じ、都内のスーパー、料理屋、居酒屋、すし店へ。道内は札幌の荷受業者を通じスーパーや量販店に届く。
同商店は特に寒ブリを「棒丸の天上鰤(ぶり)」と名付けて2006年に商標登録。東京都内のすし店でも使ってもらっている。余市では寒ブリはお盆明けから取れ始め、11月末まで。内海智一社長(43)は「道内はまだマグロに目がいき、ブリになじみがないのが残念」と指摘する。「本州では脂を落としてブリ大根のレトルトに加工する業者も。フライもいけるし、夏のブリの活用の道はある」
昨年はこの時期の1~3キロのブリを使い、みりん干しに加工。「軟らかくて味も評判が良かった。冷凍しておけば、いつでも加工できるので今年も取り組んでみようと思う」と話す。
事務所内には昨年、飲食店「ぼうまるや」(電話0135・23・2107)を開設。毎週土日限定で、魚介類を刺し身で売り、客がセルフで選び丼にする。夏のブリは2切れ100~150円。生ウニ(8月末まで)、イクラしょうゆ漬けと合わせた丼は2500~3千円。
同町内の道立総合研究機構中央水試の高嶋孝寛資源管理部長は「海水温上昇でブリの資源量は着実に増えている」と説明。20年には1万5457トンと過去最高を記録。夏のブリは餌を求めて道内沖へ北上、寒ブリは餌を食べて太った状態で南下する。「北海道でも夏のブリをうまく利用できれば、漁業者や加工業者の収入増につながる」とみる。
〈これが旬!〉輝く黄色 ひまわりすいか*空知管内北竜町*糖度11度以上 みずみずしく
*脂少ない道産 削り節、缶詰に
この時期のブリを加工する動きもある。道立総合研究機構食品加工研究センター(江別市)は、かつお節に代わる「ブリ節」に取り組む。道産ブリは脂が少ない、小さな魚体が多い一方で「うまみ成分のイノシン酸は豊富」(吉川修司食品開発部長)で、脂が無い方が節の身割れ防止に良いという。
函館水産高(北斗市)水産食品科ではオイル漬けの缶詰を作っている。函館を中心にイカの不漁に悩む道南では、企業とも協力しながらカツバーガーやラーメンなど、ブリを使った新たな名産誕生へ熱が入る。
(北海道新聞2022年8月19日掲載)
〈これが旬!〉後志管内古平町*鮮度が命 黒く光るホッケ*漁獲回復へ資源保護に配慮
〈これが旬!〉「男しゃく」ほくほく*檜山管内今金町*大雨で収穫に影響 品質維持に懸命