
北海道産の果物や野菜を原料にした酢を製造する北海道クラフトビネガー(新ひだか町)と、ワインやウイスキーを製造する馬追蒸溜所(長沼町)が、同蒸溜所のキャンベルワインを使ったワインビネガーを共同開発しました。開発の過程では、協力した酪農学園大の学生が独自の酢酸菌「馬追菌株」を発見し、この酢酸菌を使用。今春の発売に先立ち2月下旬、札幌市中央区でこのワインビネガーを使った料理の試食会が開かれました。
「産学」協力で「酢酸菌」の発酵試験重ね誕生

北海道クラフトビネガーは2022年から、炭酸水や牛乳などで割って飲んだり、料理に使ったりできるハスカップを使った酢「sunomo(すのも)」を製造、販売。馬追蒸溜所は06年からワインを製造し、22年からはウイスキーやブランデー、リキュールも手がけています。

同蒸溜所営業本部長の三好雄貴さんによると、キャンベル100%でワインを試験醸造し、バーボンの樽に入れて熟成させていたところ、通常のワインとは違い、酢酸ができる時に浮かぶ酸膜が張ったそうです。調理の経験もある三好さんは「心地よい果実味のある香りがした」と言い、発酵を抑える亜硫酸塩も入れていなかったことから、「いいワインビネガーになるのでは」と直感。果実から酢をつくっているクラフトビネガーに協力を要請しました。

同蒸溜所とクラフトビネガーは、企業との実践的な研究に力を入れている酪農学園大の阿部茂教授に相談。微生物が専門の同大山口昭弘名誉教授、食と健康学類4年の川村友理奈さんが昨年8月から11月、発酵試験に取り組みました。この中で、川村さんは培地で急速に増え、ほかとは違う酸膜が張る酢酸菌を発見。これが、ほかの酢酸菌とは違う独自の通称「馬追菌株」だと分かり、川村さんたちはこれを使って発酵試験を繰り返し、その結果、21種類のワインビネガーの中から、ワインの風味を損なわず、酢としてもおいしい1種類を選定しました。
川村さんは「ワインの風味をより強く感じられるということを目標に、試験を続けました。理想に近いものを作ることができ、達成感がありました」と話します。
ドリンクで味わうと「さっぱり」、ビネガー原液も「さわやか」

ワインビネガーは赤ブドウ色。酢の香りはしますが、甘くまろやかで、ブドウの風味が感じられます。原液230ミリリットルで3300円程度、加糖して飲みやすくしたものが300ミリリットルで2200円程度での販売を予定しています。原液を料理などに使うほか、飲む場合には、ワインビネガー1に対し、炭酸2で割ります。

2月26日にさっぽろテレビ塔3階のレストラン「ザ ガーデン サッポロ 北海道グリル」で開かれた試食会では、前菜からデザートまで4品と、ワインビネガーを使ったドリンクが提供されました。
アペリティフは、クラフトビネガードリンク。フルートグラスに入れられた薄赤色のドリンクは、ロゼワインのよう。グラスを口に近づけると酢の香りがしますが、つんとくる酸はなく、さっぱりとしたブドウの甘みが広がります。口をさっぱりさせてくれるのと、じゃまをしないので、どんな料理にでも合いそう。実際に、料理に合わせて飲んでいると、見た目の美しさとブドウの香り、さっぱり感で、ワインを飲んでいるような錯覚に陥ります。
小さなカップで割る前の原液もちょっと味見してみます。「酢」と聞くと、のどが焼けるような酸味を想像しがちですが、酸味は柔らかで、「酸っぱい」というより「さわやか」というイメージです。
ビネガーの酸味生かした料理も味わい深く

前菜はアイヌ語で「食への感謝」「おいしい」を意味する「ヒンナ」と名付けられた2品。「石狩産わかさぎのフリット エスカベッシュ仕立て」はからっと揚がったフリットをタマネギとニンジンとともに、ワインビネガーを使ったマリネ液に浸してあります。タマネギがうっすらとピンク色に染まり、さわやかな優しい酸味があります。もう1品は「芽室産菊芋のポタージュ」。クリーミーに仕上げたなめらかなポタージュの上に、素揚げしたキクイモがのせられ、香ばしさがいいアクセントになっています。

2品目は「サラダガーデン クラフトビネガーのドレッシング 泡ジュレ」です。サラダガーデンは、ザ ガーデンの看板メニューのサラダで、ブロッコリーやカリフラワー、エンダイブなどの野菜と、エビやイカ、サーモンなどをこんもりと盛り付け。ワインビネガーを使った薄いピンク色のジュレを散らし、野菜ブイヨンの泡状のドレッシングが添えられています。野菜の食感や味の違いが楽しく、ブイヨンの奥深いうまみの一方、さっぱりとしたワインビネガーが味をまとめてくれます。

メーンは「ふらのいちばんぼし 豚ロースのグリエ クラフトビネガーと帯広市和田農園わだのごぼうのソース」。富良野産のSPF豚のグリエは、表面はカリッと焼き上げられ、中はほんのりピンク色。半透明の脂がつややかで見るからにおいしいのが分かります。その下に敷かれているのが、ワインビネガーとゴボウのソース。あくが少なく、糖度の高いわだのごぼうのくせのない甘さに、ワインビネガーの優しい酸味がぴったりです。豚の脂もこのソースだとさっぱりと食べられます。

デザートの「余市産リンゴのコンポート クラフトビネガーのグラニテ」は、サングリアをイメージした一品。グラニテは、ワインビネガーの柔らかな酸とブドウの風味を生かしたさっぱり味で、ふんわり盛り付けられたグラニテを掘ると、リンゴのコンポートと小さくカットされたピンクグレープフルーツが顔を出します。コンポートの甘さとグレープフルーツのさわやかな苦みをグラニテが包み込みます。

北海道クラフトビネガー代表取締役の天野洋海さんは「アルコールが苦手な人も、食事と一緒に楽しめます。料理にもぴったりで、フレンチ、イタリアン、和食など幅広く使えます。これからも、野菜や果物、ワインなど北海道産の素材から、世界中で1番優しい飲み物をつくります」と話しています。
ワインビネガーは4月から、馬追蒸溜所のほか、札幌市中央区の桜本商店本店(南10条西7丁目)と円山店(北5条西27丁目)、根本酒店(南4条西4丁目COCONO SUSUKINO)で取り扱うほか、北海道クラフトビネガーのホームページでオンライン販売されます。