【置戸】昨年10月からふるさと納税に返礼品を導入した置戸町で、昨年度の一番人気は「北海道産開きホッケ詰め合わせセット5枚」だった。海のない町の開きホッケは、道内各地の海産物を仕入れ、オホーツクの台所を支えてきた地元の卸・小売業者が「町のために」と用意した自慢の一品だ。
開きホッケを製造するのは町内の「置戸地区卸売市場」。山田具明社長(70)は「道外の人は返礼品に北海道の海産物を欲しがるが、置戸は山の中にある町。町で唯一海産物を扱う会社として、寄付集めに協力したかった」と、返礼品への出品を決めた思いを語る。
帯広の市場で仕入れた利尻、礼文島近海のホッケを熟練の社員が包丁でさばき、複数の扇風機を置いた冷蔵室で「冷風干し」する。5枚セットで寄付額1万円の返礼品としたところ、昨年度は全返礼品61点の中で最も多い162件の注文があった。2位だった木工品「オケクラフト」のトレー(寄付額2万1千円)の約2倍に上り、開きホッケによる寄付額は、寄付全体の1684万9千円の約1割を占めた。
置戸市場は1951年(昭和26年)、北見魚菜卸売市場置戸分場として設立。2003年に北見魚菜卸売市場が破綻した後、買い受け人組合などが出資し、置戸地区卸売市場として再出発した。
同社は道内各地の海産物が集まる帯広の市場から毎朝商品を仕入れ、近隣町の小売店への卸売りはもちろん、北見市常呂町や佐呂間、網走などオホーツク海沿岸の鮮魚店や土産物店にも卸している。山田社長は「帯広までホッケやカニを買いに行く人はいないが、海沿いでは需要がある。海と山、需要と供給を結ぶのも大事な役割」と強調する。
佐呂間町内の鮮魚店「斉藤商店」は30年来の得意先だ。置戸まで毎朝買い付けに行く店主の斉藤哲伸さん(54)は「この辺りで取れない魚が手に入り、オホーツク海が流氷で休漁になる冬場も市場のおかげで商品がそろう。なくてはならない存在」と話す。
置戸市場は2年前から野菜や米の小売りも始め、一般町民も買えるようにした。「町内で生鮮食品を扱う小売店は2軒だけ。高齢者が多いこの町で、買い物難民を生まないようにしたい」と山田社長。山の小さな市場が担う役割は大きい。(宮脇ふく子)
(北海道新聞2022年9月9日掲載)