
ナチュラルワインを提供している札幌市内の飲食店を巡るスタンプラリー「SAPPORO CIRCLE VOL.3(サッポロサークル)」が2025年8月31日に開かれ、TripEat北海道編集部スタッフと参加しました。専用のグラスを持って各店を巡り、ワインとおつまみを楽しんだほか、今年初めてつくったサッポロサークルオリジナルワインも味わい、イベントに参加していたワイン生産者と出会って話を聞くこともできました。
ナチュラルワインを取り扱う飲食店「日々(にちにち)」の大畑徳真さんが呼びかけて企画し、今年で3回目。参加者は事前に参加料2千円を支払い、グラスやグラスホルダー、スタンプカード、ステッカーをもらいます。当日はそれらを持って各店を回ると、ナチュラルワイン50ミリリットルとおつまみのセットが1000円で提供されます。札幌市内の25店が参加しました。
目次
和みの器N.(エンネ)

スタートは昨年より1時間早まり、正午から。午後7時までの7時間で、何軒回れるか、挑戦です。最初に訪れたのは、札幌市中央区南3条西3丁目プレイタウンフジ井ビル3階の「和みの器N.(エンネ)」。前に1組、後ろにも1組が並び、少し待ってからの入店です。


ワインはフランスとイタリアの8種類、料理は2種類から選ぶことができます。スタッフはイタリアの泡、私はイタリアのオレンジを選択し、フードは1つずつ出してもらい、シェアすることにしました。オレンジワインは北イタリアの土着品種の白ブドウ「リボッラ・レッジャ」100%。口当たりが柔らかく、バランスの良いワインです。

「有機とうもろこしとサマートリュフのベイクドチーズ」は濃厚なチーズのうまみととうもろこしの甘さ、トリュフの香りがぴったり。「ホタテのヴァポーレ アメリケーヌソースとマッシュルーム」は、ホタテの甘さが引き出されており、薄くスライスしたマッシュルームの香りとよく合います。
もちろん、どちらもワインにぴったりで、もう1杯と言いたいところですが、たくさんのお店を回りたいので、ここは我慢です。
ワイン食堂 幸

同じビルを垂直移動して、8階の「ワイン食堂 幸」へ。昨年のサッポロサークルで初めて訪れ、料理のおいしさや雰囲気の良さに感激したお店です。今回のサッポロサークルでは初めて、イベントオリジナルのワイン2種類を山田堂(余市町)とワイン畑浦本(岩見沢市)に委託して製造しており、実行委事務局によると、置いてあるお店は「秘密」。幸にはきっと、置いてあるのではと勘を働かせてやってくると、ありました!山田堂はケルナーとミュラートゥルガウの泡、ワイン畑浦本は栗沢の畑でとれたバッカスを使ったオレンジです。
オリジナルワインのエチケットやグラスに描かれているのは、初登場のキャラクター「サークル君」。ワイングラスを持って歩く手がモチーフで、昨年までの「ワイン鹿」と併せて、イベントを盛り上げます。


国内外の10種類のワインをそろえていましたが、もちろん、オリジナルをいただきます。山田堂の泡はすっきり、さわやかで、飲みやすい仕上がり。ワイン畑浦本のオレンジは、まろやかで、心地よいかすかな苦みがあります。これは、好みです。
フードは5種類の中から、好きなものを選ぶことができます。「冷たい出汁茶漬け」や「具材たっぷり豚汁」など手の込んだラインナップの中から、「牛スジ煮込み」と「冷やしおでん」をチョイス。幸は冬は温かく、夏は冷やしたおでんを提供しています。よく出汁の染みた大根とナスに加え、素揚げのブロッコリーが香ばしさと深みをアップさせています。牛スジはプルプル、トロトロ。大根やこんにゃくも入っていて、具だくさんです。

たくさんのお店を回りたいから、1軒で1杯と決めていたのに、フードのおいしさについついワインが進んでしまったのと、用意されているワインリストに飲みたい北海道産ワインがあったので、2軒目にしてルール変更。お代わり、ください。トロッコワイナリー(北斗市)の赤「ピノ・ノワール2023」とじき(余市町)の白「環(めぐる)2022」を飲んで、次に向かいます。
minotake

少し北に進んで、中央区南2条西3丁目パレードビルM3階の「minotake」にやってきました。照明を落としたシックな雰囲気ですが、木目の温かさを感じるお店です。「赤、白、オレンジ、泡のどれがいいですか」と聞かれ、泡とオレンジをお願いすると、サッポロサークルオリジナルの山田堂の泡と、オーストラリアのオレンジを出してくれました。


料理は、インドのストリートフード「パニプリ」。油で揚げたたこ焼きくらいの大きさの球状の「プリ」の中に、フィリングの「パニ」を詰めたものだそう。ひとつには、ひよこ豆のペーストと鶏肉のムースが、もうひとつにはサルサソースをかけた魚のハーブマリネが入っています。インドでは道ばたの屋台で買って手軽に食べられるスナックとして人気だそうですが、これは手が掛かっていて、スナックというより立派な「料理」。どちらも本格的な味わいで、プリのパリパリ感が楽しいおつまみです。

HOKKAIDO CUISINE KAMUY

次は、さらに北上して中央区大通西1丁目の「HOKKAIDO CUISINE KAMUY」へ。ザ ロイヤルパーク キャンバスSAPPORO大通公園1階のレストランです。オリジナルワインのほか、ドメーヌ・タカヒコ(余市町)のヨイチノボリやドメーヌ・モン(余市町)のモン・ロゼAKなど希少な北海道産のワインがずらりと並んでいます。


その中から、モン・ロゼAKと長谷川ヴィンヤード(余市町)の「カントリーロック」を。長谷川ヴィンヤードの長谷川弘樹さんはロックが大好きで、このワインは毎年6月9日の「ロックの日」に合わせて、ザ ロイヤルパーク キャンバス札幌大通公園で開くイベントに合わせて、特別につくった限定ワインだそうです。

フードは「みやこカボチャの冷製スープ」と「カムイ特製揚げ春巻き」から選ぶことができます。みやこカボチャは、シェフのふるさと森町の宮本農園産のカボチャを使っており、自然な甘さとまろやかさで、「飲む」というより「食べる」感覚。春巻きはイカやホタテ、ズッキーニが入っており、食べる場所によって、パクチーや塩レモンが顔を出し、エスニックな味わい。パクチーはちょっと苦手なのですが、これはとてもおいしく食べることができました。
実はここで再び、「1軒1杯」のおきてを自ら破ってしまいました。ランセッカ(余市町)の赤「KOYOCHI」が置いてあり、見過ごすことができなかったのです。
bar ucchi

創成川を渡って、創成イースト地区で唯一の参加店「bar ucchi」(中央区南3条東1丁目のれん横丁2階)におじゃまします。ここではイタリア産の白をいただきます。


フードはタラのブランダード。下にはショートパスタが敷かれてあり、なめらかでほどよい塩気のブランダードがソース代わりになっています。タラのうまみはそのままに、余計な塩味やくさみはゼロ。量もたっぷりめ。上に散らしたレーズンが良いアクセントになっています。店名は、店主の「内田さん」からとったそう。まだオープンして2年ほどだそうですが、気取らぬ雰囲気とおいしさでファンがしっかりついていそうです。
ヤキトリ、ワイン、日本酒 Q

昼は行列必至の人気ラーメン店、夜は焼き鳥とワイン、日本酒を出す「ヤキトリ、ワイン、日本酒 Q」(中央区北1条西2丁目りんどうビル地下1階)へ。店の入り口近くに出したテーブルにワインが並び、店のスタッフが「今日のおつまみは鴨肉のわら焼きです」と説明し、置いているワインを紹介してくれます。店内にはかすかにわら焼きのいぶった香りが漂っています。ここは赤でしょう。


私はガメイを、スタッフはピノ・ノワールをチョイス。ガメイは香りが良く、ピノ・ノワールは適度な渋みがあり、どちらもわら焼きのスモーキーな香りに負けず、うまく調和しています。鴨肉はピンク色の残る最適な火入れで柔らかで、肉のうまみがしっかりしています。

ここで、kondoヴィンヤード(岩見沢)の近藤良介さんに会えました!今回の札幌サークルは、初めての試みとして、ワイン生産者2人がイベントのゲストとして参加店を巡り、飲み歩くという企画を実施していました。近藤さんは、そのひとりです。声を掛けると近藤さんは「見つけてくれたの、初めてですよ」とうれしそうに笑顔を見せてくれました。
近藤さんは、自分のワインのエチケットにQRコードを付けており、自ら飲んだ感想や「開けどき」の目安になるような説明を書き込んでいるそう。この日もすでに、4軒を巡って、ワインを飲んだという近藤さんは「自分のワインを飲んで、QRコード用の感想を書かなくちゃと思うんだけど、おいしかったことは覚えていても、つい酔っ払って忘れちゃうんだよね。でも、おいしいワインは酔っても悪酔いはしないよ」と話します。

全道各地で近年、ワイナリーやヴィンヤードが急増するなか、空知管内のブドウの収量は、ワイナリーが集中している余市町や仁木町に比べて4分の1ほどと、少ないといいます。ただ、近藤さんは「思うように収量は上がらないけれど、品質は間違いなく、良い。最高のブドウです」と胸を張っています。
THE MEATSHOP

Qの系列店が近くにあると聞き、次はそこを目指します。中央区北1条西3丁目札幌中央ビル5階の「THE MEATSHOP」です。店名の通り、肉料理のお店なので、どちらもフランスの、タナとカベルネソーヴィニヨンの赤とサンソー90%の赤をもらいます。


おつまみは仔牛のリエット。薄いラスクに塗って出されました。甘めなラスク生地と、リエットの塩味、粒マスタードの酸味やバルサミコソースの甘みと酸味などが混ざり合った複雑な味わいです。
Sua.

狸小路まで南下し、酔い覚ましにのんびり歩いて西を目指します。中央区南2条西7丁目M’sスペース2階の「Sua.」にやってきました。ランセッカのロゼ「なごりの」があったので、私は迷わずそれを。2022年のオリ上と2023年のハードプレスを混ぜ、上澄みを詰めたワインで、ランセッカいわく、「残りものワイン」。いろいろな種類のブドウが混ぜこぜになっているからか、オリ上やハードプレスのうまみが出ているからか、ロゼですが、複雑で酸もしっかり、ボリューム感もあります。スタッフは山梨県のオヤマダワイナリーのロゼ「BOW!」。微炭酸でかすかにぴりっと感じ、すっきりした味わいです。


おつまみは、トウキビの冷製スープ。上には焼き目の付いたトウキビも浮かんでいます。甘みがあり、皮の薄い千歳産のゴールドラッシュを使っているそうで、自然の甘みがたっぷり。浮き実のトウキビが、ちょっと香ばしくて、プチプチの食感も楽しく、いいアクセントです。

Tepp’s

次はすぐ近くの「Tepp’s(テップス)」(中央区南3条西7丁目たぬきスクエア2階)。ここは2組ほどが並んでいました。ちょっと待って、入店。ワインはフランスの赤と白を。


おつまみは、白老牛のクスクス。パプリカとズッキーニの下には、牛のスープをしっかりとまとったクスクスが敷かれています。かすかな辛さがあり、ハーブの香りで複雑な味わい。スタッフは昨年のサッポロサークルの際にここで食べたエルビスサンドのおいしさを忘れられず、今年も相当、楽しみにしていたそう。エルビスサンドとは味も方向性も全く違いますが、クスクスもおいしいと感激していました。

食堂ブランコ

もう1軒、このすぐ近くにある「食堂ブランコ」(中央区南3条西7丁目M’sビルヂング2階)に立ち寄ります。ドメーヌ・タカヒコのクロ・ダ・デーションがありました。ワイナリーからの出荷は飲食店向けで、一般販売はしていません。酸味もあり、かすかな苦みもあり、ドメーヌ・タカヒコのワインの特徴である「森の香り」もします。


おつまみは、サンマのスープぎょうざ。ツルンとした水ぎょうざの皮の中には、なめらかなサンマのつみれが包まれており、ユズの香りもします。スープのだしもおいしい。サンマと赤ワインがけんかをせず、ぴったりなのが不思議です。

和洋食堂西10丁目

さらに西に少し歩いて、中央区大通西10丁目4-5の「和洋食堂西10丁目」に入ります。ナチュラルワインやこだわりの日本酒を提供していた「おやすみのところ」が店名を変えて、リニューアルしました。店主の木村安孝さんが夜に営業し、共同経営で台湾出身のヤンさんが昼間はカフェを運営していました。
店内は、おやすみのところだった時とほぼ同じ。道産木材のテーブルやいすを使っているほか、下の水槽で金魚を飼育し、上で水耕栽培で野菜を育てる「アクアポニックス」を置くなど、環境に配慮した運営をしています。


ワインはロゼと白、各2種類用意されており、さっぽろ藤野ワイナリー(札幌市)のロゼ「KOHARU2024」をいただきます。フードは、デザートを含めて6種類の中から、「有機野菜のアテ3種盛り合わせ」と「『名物』スパイスポークカレー」を選びました。
野菜のアテは、モロッコインゲンのゴマ和えとナスの揚げ浸し、ブロッコリーのいりこ和えが盛り合わせてあり、どれも優しく素材そのもののおいしさを感じる味付け。ナチュラルワインに合います。カレーは豚肉がたっぷり入り、辛さはほとんどないのですが、さまざまなスパイスが組み合わされ、複雑な味わいです。

ここで、サッポロサークルに参加しているもうひとりの生産者、ワイン畑浦本の浦本忠幸さんとばったり出会いました。先日、浦本さんが師匠の近藤さん(Kondo Vineyard)と対談した際、「大学時代に人生や生き方に悩み、近藤さんの家族に出会ってあこがれを抱き、ワインの世界に入った」という話をしていたので、何に悩んでいたのか尋ねたら、「実は、失恋です」と恥ずかしそうに明かしてくれました。「いろいろ、悩みが多かったんですよ」と話していましたが、それがあったからこそ、今はワインの世界で多くの人を幸せにできているのでしょう。
YUWAERU

地下鉄東西線円山公園から西18丁目にかけても、参加店が点在しているので、もよりの西11丁目駅から西28丁目駅まで、地下鉄で移動します。円山公園に隣接するカフェ「YUWAERU」(中央区北1条西28丁目)に向かいます。カフェは2階にあり、1階は全国各地の無添加食品のセレクトショップ「YUWAERU札幌円山公園店」です。


さっき浦本さんに会ったので、浦本さんがつくったサッポロサークルオリジナルワインを飲みましょう。スタッフは山田堂のロゼ「YOICHI ROSE 2023」。おつまみは、玄米クラッカーのカナッペです。1つにはマスカルポーネチーズとクルミが、もう1つにはキノコのペーストがのっています。玄米クラッカーはパフのような軽いクランチ状で、お腹にたまりません。

とはいえ、ここで12軒目。お酒を飲んだら、あまり食べられない方なのに、量は少ないとはいえ、12品は食べていることになります。サッポロサークルでは、スタンプを5店分集めると参加店で使える食事券5000円分が当たる抽選に1口、参加できます。8店で2口、。10店で3口、15店で4口なので、こうなったらあと3軒、回りましょう。
aguri(アグーリ)

次に向かったのは、中央区北1条西24丁目3-10の「auguri(アグーリ)」。古い商店を改装した店舗で、外壁のタイル地には「小池靴履物店」の名前が今も残っています。


ワインは何点かあるなか、ドメーヌ・モンの「ドングリ2022」をチョイス。おつまみは、小皿のフード数点の中から好きなものを選びます。サンマのオイル煮とからすみバターを塗ったブレッドをいただきます。サンマは骨まで柔らかく火が通り、ワタの心地よい苦みもあって、だし感のあるドングリにはぴったり。塩分強めのからすみバターもワインが進みます。

サンドイッチとワイン 憂鬱な木曜日

大通沿いに店を構える「サンドイッチとワイン 憂鬱な木曜日」(中央区大通西23丁目)に移動します。ワインはスペインの赤とフランスの白を。おつまみは、自家製フォカッチャのミニサンドイッチです。手作りの豚肉のハムとチーズ、はちみつをはさんでいます。豚ハムの脂身のおいしい香りとチーズの塩味がパンに良く合い、はちみつの甘さがチーズの塩味を引き立てます。


店主の加川憂さんは、ビストロで勤務していた時に、店が休みの木曜日に間借りキッチンでサンドイッチ店を営業し、独立してこの店をオープンさせました。一見不思議な店名は、加川さんの名前の「憂」と木曜日の間借り営業からきているそうです。

蕎麦心空

さあ、最後のお店は手打ちそば店です。中央区北1条西19丁目2-17の「蕎麦心空」にやってきました。数年前に来て、そばのおいしさに驚いたお店です。その時には日本酒のラインナップは充実していましたが、ナチュールワインを置いていた記憶はありません。


店に入って、この日用意していたワインを見て、びっくり。モンガク谷ワイナリー(余市町)やマルメガネ(仁木町)、さっぽろ藤野ワイナリーなど、北海道産を中心に、日本ワインの空きびんがずらりと並んでいます。「おそば屋さんでこれだけそろえているんですか」と尋ねると、「見かけたら買い集めて出しています」とのこと。2年ほど前から北海道産ワインにはまり、品ぞろえを増やしているそうです。


ランセッカの「KOYACHI」をお願いしました。おつまみは、手打ちのそば。温かいのと冷たいのを選ぶことができ、冷たいぶっかけで。ハーフサイズより小さいおわんサイズが登場です。この日、15軒目。お腹も相当きついのに、最後の2軒のサンドイッチとおそば、炭水化物がずっしりきます…かと思ったら、おいしい!カツオだしのきいた薄めのつゆに、ソバの香りを感じる細打ちのそば。まさかのつるっと完食です。
さらに、浦本さんがつくったサッポロサークルオリジナルワインと、カキのオイル漬け(500円)まで追加して、たっぷり飲んだこの半日の反省会としました。

3回目のサッポロサークル。さまざまなナチュールワインを楽しめるほか、気になっていたお店を訪れるいいきっかけになったという人も多そうです。これを機に、新たな「行きつけ」を見つけられたらいいですね。ゲスト参加してくれたワイン生産者の近藤さんと浦本さんも、楽しく、おいしく飲んでいるワインラバーを見て、きっと喜んでくれているでしょう。私たち消費者はもちろん、新しい常連客を獲得したお店にも、ワインをつくる生産者にも、みんなにとって幸せなイベントとして、札幌に定着してきているようです。