
一流シェフの手で調理されたブランド和牛「知床牛」と羊肉「士別サフォーク」に加え、サウナも楽しめるイベント「ガストロノミート サウナナイト」が9月29日、札幌市南区のアウトドアを楽しむ拠点「芸森ワーサム」(芸術の森3)で開かれました。参加者は自然のなか、道内でも口にする機会の少ない希少な肉を味わい、来場した和牛とサフォークの生産者から、飼育方法や肉へのこだわりなどについて話を聞きました。

芸森ワーサム代表の大森祥太さんと、野外バーベキューで肉の調理を担当した札幌市中央区の鉄板焼き専門店「ヤナギ・テッパン・アンボーン・ガストロノミー」(南4条西5丁目F-45ビル8階)シェフの堂本靖二さんが企画。肉以外の調理は札幌市内の老舗フレンチ「コートドール」元料理長のフレンチシェフ下国伸さんが担当しました。知床牛を生産するカネダイ大橋牧場(大空町)社長の大橋遼太さん、士別サフォークを生産するPecoraFarm(ペコラファーム)代表の山下卓巳さんも来場しました。




会場には、肉に火入れするため薪や炭をおこしたBBQコーナーや屋根付きでDJによるミュージックが流れるバンケットテントのほか、サウナテント2基と水風呂も設置。約80人が参加し、思い思いに食事やサウナを楽しみました。
この日は、知床牛のハツや内もも、知床牛の中でもさらに厳選した飼料を与えて肥育、年間12頭のみ出荷される希少な「特別肥育知床牛」のカイノミ、士別サフォークのうち、生後12カ月から24カ月未満のホゲットなどが提供されました。

牛肉は部位に合わせて、堂本シェフや大橋さんが薪や炭であぶり、絶妙に火入れ。ハツは表面以外は赤身が残っていますが、きちんと火が入り、弾力のあるかみごたえと滋味あふれる味わい。タマネギのうまみたっぷりのソースがよく合います。

カイノミは柔らかく、簡単にかみ切れて、ピンク色の切り口がエロティック。一口、口に入れただけで、おいしさにうなります。塩だけでも十分にうまみが感じられますが、ブラックペッパーのソースでさらに味が引き締まります。内ももは炭の香りが移り、表面の焼き目と中のレア具合が絶妙です。
添えられたマッシュポテトは540日間、雪室で貯蔵した俱知安産のジャガイモ「五四〇」。なめらかで、ジャガイモ本来の甘さとこくがあります。

ホゲットはクルクルと回転させながら、炭火ロースターで1時間半ほどかけてグリル。ゆっくり、じっくりとグリルすることで、脂にしっかり火が通り、うまみがぎゅっとつまっています。ロースの赤身はしっかり締まっていますが固くはなく、歯切れも良し。赤身部分は羊肉らしい香りと味わいがあり、脂もしっかり付いていますが、くどさは感じず、甘さとうまさがあります。

バラ肉は、脂身が半分以上かというほどたっぷり付いていて、かみ応えがあり、かめばかむほど、うまみが出てきます。赤身部分はしっかりした肉質ですが、ジューシーで、おいしさが詰まっています。

屋外BBQで火をたくみに操り、肉を仕上げる堂本シェフに対し、下国シェフはセンター棟でブッフェスタイルで提供する料理を担当。メインが和牛とサフォークのため、野菜や魚介を中心にメニューを組み立てたそう。サウナを楽しむ人も多いため、ととのった後にさわやかに食べられるメニューをラインナップしました。


この日のスペシャリテは、「オホーツク毛がにのコロッケ 発酵白菜クリームとグラナディエゾ」。刺身のつまをつくるカッターでジャガイモを細くカットし、真ん中が空洞の円柱状にして揚げます。その中に、食べる直前に毛がにを使った濃厚なビスクソースを詰め、ソースのふた代わりに、イタリアのハード系チーズ「グラーナ・パダーノ」に似た北海道産生乳100%のチーズ「グラナディエゾ」を削って付けます。下国シェフがひとつずつ詰めてサーブしてくれ、外側の揚げジャガイモがサクサクのうちにいただきます。下国シェフが「大好きなカニクリームコロッケを思い浮かべながら考案しました」と言う通り、まさにカニクリームコロッケですが、カニの身もたっぷり入り、ビスクソースが濃厚で、よりぜいたくで上品な一品です。


ほかに、東日本大震災で被災し、廃業した相馬市松川浦の民宿「おびすや」の青のりのつくだ煮を再現したものや、和歌山県のしらす、気仙沼マグロなど、下国シェフが日本各地を巡った際に出会った食材を活かしたメニューが登場しました。

大橋さんは、知床牛のほか、知床牛を生んだ母牛をさらに半年から1年かけて再肥育した「大橋牛」や「特別肥育知床牛」などを生産しています。
「A5」などの牛肉の等級(ランク)は、枝肉からどれだけの肉がとれるのかという歩留まり、生産性と、肉の色や締まりときめ、脂肪の色と質、サシの入り具合という肉質で決められます。つまり、「商品となる肉がたくさんとれて、脂肪の色や質、きめや締まりが良く、サシがたくさん入っている」ことが、評価されます。

大橋さんは「うちは、見た目ではなく、食べておいしい肉をつくっています。サシが入ると牛はビタミン欠乏症になり、不健康になる」と指摘。大橋農場では、北海道産の牧草を中心に、小麦やふすま、そば殻などを発酵させた飼料を与え、牛の胃の微生物を活性化させて健康に育てているそうです。飼料は道産100%。大橋さんは「内臓が健康になれば、赤身にこくが出て、食べておいしい肉ができる」と説明します。潮風の当たるミネラル豊富な牧草を食べて育った和牛の肉からは、「道東、オホーツクのテロワールが感じられる」といいます。
1976年にフランスのワイン専門家らによるブラインドワインテイスティングで、米ナパのワインが「世界随一のワイン産地」とされていたフランスワインを差し置いて高評価を得た「ワイン・パリスの審判」になぞらえて、大橋さんは「等級やブランド名ではなく、うちの肉は食べたらおいしいと分かってもらえると思います」と自信をみせています。

山下さんは、士別市の自社農場と和寒の第2農場で、サフォークとしては国内最大の親と子合わせて年間約1000頭の羊を飼養。来年には第3農場も増設する予定です。2~3割は生後10カ月ほどから、生後12カ月未満のラムとして出荷します。
親羊は放牧し、子羊は畜舎で飼料管理して育てます。親には牧草のほか、羊肉特有のうまみを付けるため、トウモロコシや麦、大豆などを原料とした配合飼料を与えます。士別には製糖工場もあり、ペコラファームではビートのしぼりかすも与えます。山下さんは「ビートを与えると、脂が全然違う。断然おいしくなります」と言います。

こうして育てられた羊の肉は、柔らかくくさみもないとして、全国から引く手あまたです。ただ、山下さんは「イタリアンやフレンチのお店だと、需要の高い部位がラムチョップやロースなどに偏り、バラ肉などの在庫が増えがち」と言います。そこで、ソーセージやウインナー、ラムコロッケ、ジンギスカン用肉などへの加工を増やしています。近年、ヘルシーさや味わいが浸透し、関東圏でジンギスカン店が定着してきているほか、大阪や岡山など関西圏でも羊肉関連のイベントの集客が増えているそうです。
この日のイベントは終了しましたが、企画した芸森ワーサムの大森さんは「炭と薪を使った料理は、普段店では提供できず、ライブ感を楽しんでもらえたのでは。生産者を招き、食材について話を聞けるいい機会にもなり、生産者にとっても、消費者がおいしいと言って食べる姿は励みになると思います」と話し、今後も食とサウナ、音楽をコラボしたイベントを企画したいとしています。