
小樽港に入港するクルーズ船の乗客を対象にした後志管内を巡るツアーの商品化に向けたモニターツアーが11月中旬に催行され、参加してきました。おいしい農水産物、ジンやワインといったお酒など、飲食が充実し、歴史的な見どころも多い後志。クルーズ船の乗客のみならず、近郊に住む人たちがドライブや観光で訪れる際の参考にもなりそうです。2回に渡って紹介します。1回目は積丹町と小樽市内です。
閑散期の道内観光の隠れた魅力を引き出し、地域活性化につなげようと、北洋銀行が主催。関連産業の裾野が広い観光分野で新たな収益源を開拓する狙いで、同行がモニターツアーを実施するのは、昨年9月に一般市民を対象にしたツアーに続き、2回目。今回は「飛鳥Ⅲ」などの郵船クルーズ(横浜市)と「MSCベリッシマ」を運航するジャパネットツーリズム(福岡市)、旅行代理店の担当者らが参加しました。
目次
なごみの宿 いい田(積丹町)

午前中に札幌を出発し、積丹町に入るとちょうど昼時。「なごみの宿 いい田」でランチをいただきます。網元が建てた築100年の建物を手作業で改築したそうで、黒光りした太い柱や梁がそのまま生かされています。食事は、できるだけ積丹産や北海道産の旬の食材を使い、新鮮さだけではなく一手間かけた、先付けから飯物まで全9品の本格的な和食のコースです。


お造りやブリしゃぶで出されたのは、積丹のブランドブリ「鰤宝(しほう)」。7キロ超え、脂肪分15%以上のブリを船上で活け締めし、しっかり冷やして鮮度を保ったもので、東しゃこたん漁協(古平町)がブランド化を進めています。同漁協のブリ漁獲量の1%ほどしかとれない希少なブリです。脂がのっており、融点が低いため口の中でとろけるような食感を楽しむことができます。


焼き物は積丹産ソイ。うろこを付けたまま、酒やしょうゆを合わせた「若狭地」をかけながら焼き上げており、うろこが口に残ることもなく、身はふっくら。八寸は積丹産ウニの山椒煮や柔らかく煮た積丹産アワビ、和からしを添えた積丹産マグロの煮付けなど、素材を活かし、さらに良さを引き出す工夫がされています。


煮物は富良野和牛の煮込み。シンプルな塩味で、肉そのもののおいしさが引き立ちます。さっとかけられたコショウもいいアクセントです。「白身魚のフワフワ蒸し」は茶碗蒸しと間違うほど、プルプルでなめらかなすり身の蒸し物の中に、プチプチとしたとびっこが入っており、楽しい食感。積丹産の岩のり入りのあんがかけられており、磯の香りが上品に仕立て上げられています。


この日は、コースに入っていない赤井川産ヒグマの赤ワイン煮も一口、サービスしてくれました。くさみは一切なく、柔らかく煮込まれていますが、しっかりした食感が残り、「肉を食べている」実感があります。最後のカキの炊き込みご飯まで、海と山と畑の恵みを存分に味わうことができます。
積丹スピリット(積丹町)

食事の後は、ジン「火の帆(HONOHO)」を製造する積丹スピリットを見学します。HONOHOは、「積丹ブルー」と呼ばれる美しい海とウニやアワビなど新鮮な海の幸と並ぶ、積丹の新たな特産品となっています。「積丹ドライジン」をベースに、ハーブなどさまざまな地元のボタニカルで香り付け。ハーブ類は農薬や化学肥料を使わず、自社ガーデンで育てているのが最大の特徴です。


実はさきほどのランチの席で、積丹スピリット会長の岩井宏文さんが火の帆を使ったジンソニックを自らつくって振る舞ってくれて、そのおいしさにすっかりファンになってしまいました。ジンとトニックウォーターを混ぜるジントニックに対し、ジンソニックはそこに炭酸水も入れるのが特徴です。
札幌で農林漁業を支援する会社を起業した岩井さんは2016年、積丹町から相談を受け、耕作放棄地の活用など地域活性化策を模索していた時、積丹の植生や地形、気候がジンの本場、英国北部に似ていることに着目。同年からジンの原料となるミヤマビャクシンやヤチヤナギ、ニガヨモギなど木やハーブの試験栽培を始め、18年に積丹スピリットを設立。20年から蒸溜を始めました。


積丹スピリットの最大の特徴は、原料となるハーブや木を自社栽培する「FARM DISTILLERY(農場型蒸溜所)」だということ。町有地約5.7ヘクタールを借り、100種類以上の植物を栽培しています。栽培した植物を単一で蒸溜した「ボタニカルスピリッツ」は約40種。これらをブレンドしてジンをつくるので、比率や組み合わせは無限大です。

定番商品は5種類。「KIBOU」はハーブのさわやかさと柑橘を感じさせるアカエゾマツの甘やかさが香り、「BOUQUET」は花の甘やかな香りの奥にラベンダーが潜んでいます。「UMI」は積丹半島のがけに自生している「和製ジュニパー」ビャクシンをキーボタニカルにした、塩味やフキノトウの香りも感じられるジンです。農場内にジンの原料となる木が生育する「希望の森」があり、売上の一部はその苗木購入費に充てられています。

蒸溜所のショップ横には、6~7人が座ることのできるテーブルがあり、有料でブレンドのワークショップも実施しています。基本の積丹ドライジンを50~60%入れ、そこにシングルボタニカルスピリッツ7種類を、好みでブレンドしていきます。つくったオリジナルのジンは持ち帰ることができます。

蒸溜室の見学もできます。500リットルのポットスチルと50リットルの小型の蒸溜機があり、大きなポットスチルでは基本となる8種類のボタニカルを使い、HONOHOシリーズのベースとなる「積丹ドライジン」を作ります。小さいほうは減圧蒸溜機で、圧力を下げることで12~40度と低い温度で蒸溜でき、ボタニカル本来の香りを生かすことができるそうです。

この日は、雨交じりでどんよりと雲が立ちこめた空の低い天気。天気が良ければ大きな窓からボタニカルガーデンの向こうに積丹岳を望むことができるそうですが、一面、灰色です。でも、その灰色が「積丹が似ている」とされるジンの本場、英国北部の小さなまちに立ちこめる霧を想起させます。突き出た半島に位置し、強風が吹く積丹。ここでは、積丹だからこそのテロワールを感じさせるジンが、つくられています。
にしん御殿 小樽貴賓館(旧青山別邸、小樽市)

次は、小樽市内へ。国の登録有形文化財に指定されている旧青山別邸を見学します。青山家は小樽・祝津の網元で、茨木家、白鳥家と並び、ニシン漁で富を築き上げた祝津の「御三家」のひとつ。現在は食事をゆっくりと楽しめるレストラン・ホールを併設し、「にしん御殿 小樽貴賓館」として活用されています。

旧青山別邸は1917年(大正6年)から6年半余りかけて建てられた青山家の別荘で、総工費は新宿の有名百貨店の建設費が約50万円だった時代に、31万円を費やしました。現在の価格に換算すると、30億円といわれています。大量のひのきや紫檀、黒檀、白檀など北前船で運ばれた最高の素材と匡の技で、まさに「金に糸目をかけず」つくられました。

母屋には18部屋あり、ふすま絵や書は当時の一流の画家や書家が手がけ、ふすまの引き戸が七宝焼きだったり、便器が有田焼だったり、廊下が漆塗りだったり、すべての部屋に異なった欄間の彫刻をほどこしたりと、贅を尽くしたつくりです。純和風建築ながら、大正ロマンを感じさせる、当時は珍しかった洋間も備えています。

別邸内は撮影が禁止されているので、ここでご紹介はできないのが残念。スタッフの手が空いていれば、有料でガイドしてもらえるので、ぜひお願いしてみてください。往時のニシン漁の繁栄ぶりを実感できます。
KIM GLASS DESIGN(小樽市)

旧青山別邸のある高台を下り、海沿いにあるガラス工房兼ショップ「KIM GLASS DESIGN」に立ち寄ります。ガラス作家の木村直樹さんが2011年に設立したガラス工房で、グラスや皿など日常の食卓に並ぶ食器から、オブジェまで幅広く扱っています。


小樽では漁業用の浮き玉や石油ランプの製造など、古くからガラス産業が盛んで、ニシン漁の衰退や電気の普及で需要が減ったのを機に、土産物や工芸品などに転換されました。木村さんのつくるグラスや器は、カラフルで存在感があるのが特徴。食卓で使われるものですが、日常的な量産タイプの器ではなく、デザイン性が高く、インパクトのあるものが並びます。


吹きガラスはグラスやボウルなど深みのある器より平らな皿の制作が難しいそうですが、木村さんのショップには直径40センチを超える大型の平皿もたくさん並んでいます。また、工房では薩摩切子や風鈴の下地もつくっており、これも、同じ物を均一につくる高い技術力の証明です。
小樽茶房(旧白鳥家番屋)

KIM GLASS DESIGNのある通り沿いに、ニシン漁の「祝津御三家」のひとつ、旧白鳥家番屋も残されています。旧白鳥家番屋は明治10年(1877年)代に建てられた木造建築で、大屋根の下に主人と漁夫の住居部分が一体になっており、主人の居住部分には床の間や欄間が設けられた和風住宅になっています。


1990年代に料理店として再利用が始まり、今年8月からはカフェ「小樽茶房」として、活用。漁夫たちの寝床となっていた吹き抜けの高い天井を生かしたアンティークな雰囲気で、ドリンクや甘味、軽食が人気です。
小樽運河周辺(小樽市)

この時期、ぜひ見ておきたいのが、日没後の小樽運河周辺です。小樽観光協会の永岡朋子さんが案内してくれました。小樽運河は11月から1月までの3カ月間、「青の運河」と題して、日没から午後10時半まで、ライトアップされています。浅草橋から中央橋までの間を、海をイメージした青色のLED電球約1万個で彩ります。運河の水面にも青い光が反射し、幻想的な雰囲気に包まれています。

ライトアップされているエリアにはれんが倉庫を利用したレストランや美術館、土産物店などが建ち並び、にぎやかですが、永岡さんは「中央橋の北側の北運河が今、注目スポットです。1923年につくられた当時の小樽運河の姿が残り、明治・大正期の歴史的な建物もあります」と話します。一時は解体される予定だったものの、保全運動が起こり市が譲り受けた旧北海製缶小樽工場第3倉庫もあり、ライトアップされています。

運河を散策した後は、土産物店が建ち並ぶ堺町通り商店街へ。北一硝子やオルゴール堂など小樽ならではの店に加え、「近年はお菓子屋さんが次々出店しています」(永岡さん)。ルタオ本店のほか、六花亭や柳月、北菓楼など、道内各地の大手菓子メーカーが出店し、堺町通りの店限定のスイーツを用意しているところもあるそうです。
おたる政寿司本店(小樽市)


夕食は、おたる政寿司本店へ。創業90年の老舗で、東京や名古屋、タイ・バンコクなどで6店を展開するなかで、本店はカウンターのほか、大小の宴会場や個室があり、計260人収容の大箱の寿司店です。


握り寿司や海鮮丼のほか、天ぷらや陶板焼きなどの一品料理が付いたコースもあります。この日のコースは、ニシンの重ね巻きなどの前菜、ずわいがにの爪と根菜の炊き合わせ、マグロや甘エビなどのお造り、黒毛和牛と野菜の陶板バター焼き、天ぷらなどに握り4貫とウニのミニミニ丼が付く盛りだくさんな内容でした。
料亭湯宿 銀鱗荘 グリル銀鱗荘(小樽市)

小樽のおすすめのランチスポットも1カ所、紹介します。「料亭湯宿 銀鱗荘」の「グリル銀鱗荘」です。銀鱗荘は1900年(明治33年)、余市のニシン漁の大網元、猪俣安之丞氏が故郷・越後から招聘した宮大工を使って築造した個人邸宅。38年(昭和13年)に石狩湾と小樽の街並みを眺望できる平磯岬の高台に移築され、隣接して増築した新館とともに、料亭・宿泊施設として利用されています。

本館とグリル銀鱗荘の入る建物は、国の登録有形文化財となっています。トドマツやタモ、センなどの高級木材がふんだんに使われ、本館の75畳(約120平方メートル)の大広間には、2軒半(約4.6メートル)の神棚がしつらえられています。著名な画家の作品や彫刻、象牙などの調度品も、あちこちに飾られています。銀鱗荘は将棋の王位戦や竜王戦の舞台となったことでも知られています。


グリル銀鱗荘で提供されるのは、北海道産食材を使ったフレンチコース。「白菜のポタージュ・ピュレ 真ダチ 柚子の香り」は、表面をパリッと、中はとろっと焼き上げた真ダチと、クリーミーな白菜のピュレが一体となり、優しい味わい。さわやかなユズの香りがアクセントになっています。「小樽産開きシャコ カリフラワーのクリーム」は雄、雌各1匹のシャコを使い、雄の身と、抱卵した雌の卵と、両方のおいしさを味わうことができます。赤カブやインゲン、ロマネスコ、赤タマネギなど12種類の野菜がサラダ仕立てに盛られ、添えられたバターの香りのソースとバジルのソースで一口ごとに新しいおいしさを楽しめます。


「苫前産活〆ヒラメ 海苔風味のソース 愛別舞茸 活蝦夷アワビのパセリ風味添え」は皮をパリッと、身をふっくらとグリルしたヒラメと磯の香りの高く弾力あるアワビに、バターの香り豊かな海苔のソースがたっぷりとかかっています。付け合わせは、うまみをぎゅっと凝縮させた舞茸のグリル。肉料理のメインは、ブランド牛肉「ガーネットビーフ『N34』の希少部位シャトーブリアン」。肉質は柔らかく、じゅわっと湧き出る脂の旨みを、コショウをきかせたさらっとしたガーリックソースが受け止めます。肉厚な上尾幌産シイタケ「極茸」と、甘みが強く、なめらかな食感の当麻町産カボチャ「黒王」が添えられています。
デザートは「余市産紅玉リンゴのスーピエール シナモン風味のアイスクリーム添え」。甘酸っぱいリンゴのコンポートと冷製スープ、大人な甘さのアイスクリームがよく合います。


銀鱗荘には無色透明の温泉「平磯温泉」も湧出しています。大浴場と露天風呂があり、宿泊客だけでなく、ランチコースと入浴がセットになったプランもあります。
2回目は、岩内町と余市町を訪れます


