北海道の春のおすすめ観光スポットをエリアごとに「物語風」記事でご案内します。今回の旅は、洞爺・登別・ニセコなど道央エリアを取り上げます。
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札幌は北海道のビジネス・観光拠点であるとともに、世界的芸術家の作品がそこかしこに点在するアートの街でもあります。そして隣町の小樽へ足を延ばせば、ノスタルジックな街並みにひとときタイムスリップ。時を超えて生き続ける美の数々を通して、都市の記憶がよみがえります。
道都に刻まれた芸術家たちの足跡をたどる
2008年に103歳で亡くなった日本画家・片岡球子。その画風を育んだのは札幌の春の情景だという。美術好きの血を受け継いだ娘とふたり小旅行に出かけた。
久しぶりに訪れた札幌は、桜、梅、すみれ、水仙-と、花という花がいっぺんに咲き乱れ、色という色が鮮やかにはじけていた。片岡球子の色彩豊かな画風の秘密は、この北海道らしさにあり。花々の歓迎を受けながら、彫刻家イサム・ノグチが設計したモエレ沼公園へ。イサム・ノグチ・デザインの遊具で遊ぶ子どもたちの姿に娘の幼いころを思い出したり、モエレ山からの眺望にはしゃいだり。偉大な彫刻家の創造力をめぐる旅は、ひととき現実を忘れさせてくれる。
札幌にはユニークなアートスポットがたくさんある。札幌芸術の森や本郷新記念札幌彫刻美術館で野外鑑賞もよし、札幌駅直結のファッションビル・ステラプレイスでショッピングとアートをいっしょに楽しむもよし。まずは都心にある札幌文化芸術交流センターSCARTSで情報収集してみよう。地元アーティストの展覧会や思わぬ穴場のギャラリーに出合えるかもしれない。
天気のよい日には少し足を延ばして、美唄市出身の彫刻家・安田侃の作品群が並ぶアルテピアッツァ美唄へ。7万平方メートルもの敷地内を緑が覆い尽くし、彫刻たちは春の日差しを浴びながらどっしりと寝そべり、悠々と佇み、泰然と座す—そのおおらかな作風もまた、道産子彫刻家ならでは、なのだろう。
ミュージアムを巡り、古き良き小樽に出合う
幼いころ、旅は連れて行ってもらうものだった。それが今は、母とふたり連れ立って旅を楽しんでいる。大人になった自分が誇らしく、少々寂しく…ともあれ、海と山に抱かれた後志エリアへ。ここには五つの美術館が点在する「しりべしミュージアムロード」がある。西村計雄や木田金次郎といった北海道ゆかりの画家はもちろん、岩内町の荒井記念美術館ではピカソの版画にも会える。共和町で立ち寄ったチーズ工房「クレイル」の創業者が西村計雄のご子息とは驚き!
ときには列車に揺られる旅もオツなもの。余市町でニッカウヰスキーや余市葡萄酒醸造所で試飲を楽しんだ後は、小樽で途中下車。開拓時代から昭和初期まで北海道経済の中心を担った小樽には当時の建築物が数多く残されており、街全体が開拓博物館のようだ。小樽芸術村で荘厳なステンドグラスを堪能したり、ガラス工房で吹きガラスに挑戦したり、楽しみも尽きない。
小樽ならではの新鮮なすしを堪能し、のれんを分けて外へ出るとすっかり日が暮れていた。入り組んだ小路にネオンがまたたく花園銀座には、私が知らない昭和初期の匂いがする。オールドスタイルのカクテルを差し出してくれたのは、粋な老バーテンダー。そのカクテルにまつわる父と母との思い出話に耳を傾けながら、私も母といっしょに昭和の記憶を旅している。札幌行きの最終列車までは、まだ時間がある。
函館周辺のおすすめ観光スポットをめぐる 春の北海道ゆったり旅物語③