農薬も肥料も使わない自然栽培を提唱し、映画「奇跡のリンゴ」のモデルとなった青森県のリンゴ農家木村秋則さんを迎えたシンポジウム「木村秋則 食と農業の未来を語る」(Hokkaido木村秋則自然栽培農学校主催)が10月30日、札幌市中央区の道新ホールで開かれました。その模様をお知らせします。
木村さんは、それまで「絶対に不可能」と言われていた無農薬、無肥料によるリンゴ栽培を実現させた人です。1978年から挑戦を始めますが、失敗の連続でした。無収入になるなど苦しい時代を過ごし、11年目に見事成功させます。2013年には、その実話が映画化されました。
木村秋則さん講演
講演で、木村さんは、ドイツに招かれてジャガイモの自然栽培を教えた時の様子を話してくれました。最初は「そんなやり方では育たない」と批判もされましたが、その後、少しずつ広まり、今では3割ほどに普及しているそうです。肥料をまき、農薬を散布して、と忙しいジャガイモ農家の方たちから「私たちにホリデーをプレゼントしてくれた」と喜ばれているそうです。
木村さんは自然栽培は「まだ技術的に完成されたものではない」と指摘します。だからこそ「いっぺんにやったらダメ。少しずつやって確立していけばいい」と言います。ドイツでも最初は本当に小さな面積で始めたそうです。
沖縄から北海道まで、大勢の人がみんなで取り組んで、1つ1つ新しい発見を共有していく。そうすることで「山あり、谷ありの苦難を一歩前へと進んでいける」と。
「肥料、農薬、除草剤を全部批判するものではない。ただ、身体と心をつくる大事な食べ物を少しずつ変えて行く、今生きている人、次ぎの世代の人に引き継ぐために、何をしなければならないかを考えていかないとならない」と訴えていました。
ちなみに、韓国では医師会が中心となって学校給食で有機農産物を導入。中国でも同様の取り組みが始まろうとしている、とも教えてくれました。
再生型農業とは
第2部の講演では、食と農業、環境などを中心に取材するフリーランスのジャーナリスト猪瀬聖さんが「再生型農業」に関する世界の動きを報告してくれました。
農薬も化学肥料も使わない有機農業が普及している欧米で今、農薬を使わずに、農作物の収穫量を増やしつつも環境への負荷を減らす「再生型農業」が注目を集めているそうです。再生するのは「土壌」です。疲弊した土壌を再生するために、原則有機栽培し、かつ、クローバーなどの植物を植えるカバークロップ(被覆作物)を積極的に利用することで、土壌の浸食を減らし、保水力を高めていくそうです。
日本政府が昨年5月、「みどりの食料システム」戦略を公表し、有機農業の普及に本格的に取り組むことを宣言したことを引き合いに出し、「食の安全について、日本は欧米と比べて2周遅れだと感じている」と話していました。
パネルディスカッション 未来の日本
第3部のパネルディスカッションも少しご紹介します。
農薬も肥料も使わない自然栽培が世界的に広がっている現状に、Hokkaido木村秋則自然栽培農学校副校長で、村松法律事務所(札幌)の弁護士、村松弘康さんは、「感無量です。時代、世界が追いついてきたと今、思っている」と木村さんとの活動を振り返りました。
また、有機栽培や再生型農業が欧米で普及する背景について、猪瀬さんは「特に米国はコロナによる死者数が100万人超と圧倒的に多く、健康に対する関心が高まったことがある。実際に有機食品がめちゃめちゃ売れている」と解説してくれました。
ナビゲーターで、作家エージェント&編集者の渡辺智也さんは「世界60億人の人口を自然栽培で果たして賄えるのか?」と質問しました。
対して、木村さんは「自然栽培にいっぺんに切り替えると、植物もギブアップしてしまう。少しずつの変化なら、自然も社会も承諾してくれるんじゃないでしょうか? 段階を経ていけば十分に賄えます」と回答。その上で、自然栽培について「理解し、商品を買ってくれるお客さんがいないと継続できないので、理解者が増えてくれるといいな、と希望します」と呼びかけました。
村松さんは「農薬と化学肥料で地力が衰え、砂漠化している現状では60億人を賄えなくなってしまった。限界なんです。行動に出ないと、堂々巡りになってしまいます」と話していました。
みなさんはどう思われますか?