自動車部品製造大手のダイナックス(千歳)がワイン事業に新規参入する。5月中旬から胆振管内安平町で本格的なブドウ栽培を始め、2025年のワイナリー開設を目指す。道内の工業系製造業者がワイン生産に乗り出すのは初めて。同町のチーズ工房との連携で交流人口を増やし、18年の胆振東部地震で被災したマチの活性化に貢献するのが目標で、地域の優秀な人材の確保にもつなげたい考えだ。
同社はトヨタ自動車をはじめ、世界の自動車各社にクラッチ板などを供給する大手部品メーカーで年商約500億円。電気自動車(EV)の開発競争が世界規模で激化する中、同社の事業にも変革の波が及ぶ可能性があり、道内の主産業で将来性が見込める農業関連の新事業を模索していた。
道内は近年の温暖化で、本場の仏ブルゴーニュ原産のワイン用ブドウ「ピノ・ノワール」や「シャルドネ」の適地になっているとされ、将来性も高いと判断。昨年、安平町内の農地0.25ヘクタールを借り、両品種を含む8品種を試験栽培した。ブドウ栽培に不可欠な気温と日照時間を確保でき、木を雪中に埋めて越冬させるのに十分な積雪量もあるという。
今年は2ヘクタールに拡張し、両品種やケルナー、ツバイゲルトレーベなど道産ワインを代表する品種を中心に、15品種3千本を植える。ブドウの生産が軌道に乗るには3年以上かかるため、最短で25年に酒造免許を取得し、ワイナリーを稼働させる計画だ。
道内には3月末時点で、10年前の約3倍となる53軒のワイナリーがあるが、胆振管内東部は空白地になっている。安平町は同社の本社がある千歳市や、最大の製造拠点がある苫小牧市から近く、約1300人の従業員の協力が得られやすいことから立地を決めた。
ワイナリーの稼働後は、自社で生産したワインと、安平町内のチーズ工房の製品とのペアリングを進め、国内外に積極的に発信していく構想を描く。同社のブドウ畑は、道東自動車道追分町インターチェンジ近くのキャンプ場に隣接しており、観光客や交流人口の増加にも貢献したい考えだ。
伊藤和弘社長は「ワインには世界から人を呼び寄せる力があり、安平町が潤うよう全力を尽くしたい。地域との絆を深めることが、優秀な人材の確保にもつながれば」と話している。 (拝原稔)
(北海道新聞2022年5月6日掲載)