
元酪農家の挑戦

北見市端野町のボス.アグリ.ワイナリー(BOSS.AGRI.WINERY)は、隣接するインフィールドワイナリーに次ぎ、オホーツク管内2番目のワイナリーとして2020年に醸造免許を取得した。ただ、ワイン造りに関してはこちらが先輩だ。

酪農家だった深田英明さん(70)が60歳で牧場をたたみ、ブドウ栽培を始めたのは2013年。孫に食べさせたくて生食用ブドウ品種の「キャンベルアーリー」や「ナイアガラ」を植えると、とれ過ぎた。「せっかくだからワインでも造ってみよう」と考えたのがきっかけだ。
「山幸」のポテンシャル

最初は生食用ブドウが中心だったが、勉強のために訪れた池田町で見た美しいブドウ畑の景観に一目ぼれした。「こんな畑をつくってみたい」と池田町が独自開発した赤ワイン用の「山幸」と「清舞」の栽培も開始。16年に収穫したブドウから委託醸造を始め、ワインを販売している。

1.8ヘクタールの畑には、他にも「ピノ・ノワール」や「シャルドネ」などヨーロッパ品種も栽培するが、冬の冷え込みが厳しい北見市端野町の気候では育ちは良くはなく、寒冷地に強い山幸と清舞が主力になっている。
中でも山幸は「造り方によって味が変わる。ポテンシャルが非常に高い」と話す。
探求心が生み出す多彩なワイン

雑味を出さないよう、房から茎を取り除く手作業での「除梗(じょこう)」にこだわる。実を陰干ししてから仕込むため、通常の3倍の原料が必要な濃厚な味わいの甘口ワイン「ラストハーベスト」や、収穫を遅らせたブドウで造るアイスワイン「しばれわいん」にも取り組む。
並行して、ブドウの房を破砕や除梗せずに丸ごとプレスする全房圧搾を取り入れたり、「香りをできるだけ残したい」とノンフィルターワインにも挑戦している。
こうした深田さんの飽くなき探求心が生み出したワインの種類は、既に15種類以上に及ぶ。
多くの人に飲んでもらうために

「俺は最低限生活できればいい。それよりなるべく多くの人に飲んでもらいたい」と、ワイン(フルボトル)の価格は2500~3200円と「自分で買える値段」に設定する。ボトルの目印の桜の花は、「ワイナリーをやりたいと思った時が桜の季節だったから」と描いた。「売る努力はあまりしていない」と言うが、有名スーパーからの引き合いも多く、発売すればすぐに完売する人気ぶりだ。


限定商品も販売するワイナリーのワインショップには、景観を楽しみにして訪れる人も多い。深田さんは「まだまだ若葉マークを背負っている身なので、大それた事は言えないけれど、いろいろ教えてもらいながらワインを造って、地元に少しでもワイン文化を広められればいいね」と話す。
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<ボス.アグリ.ワイナリー> 北見市端野町緋牛内793の3。ワインショップを併設する。営業時間は午前8時から午後6時(年中無休)。


北海道にあるワイナリーは50を超え、今やワインの一大産地となっています。地形や気候、積雪量の違いなど、生産者たちは地域ごとのテロワール(風土)を生かし、時には自然と戦いながらブドウの樹を育て、ワイン造りをしています。
人とブドウの生命力が勝ち取った「命の恵み」でもあるワイン-。そんなワインを生み出す北海道のワイナリーを編集長の山﨑が巡ります。
(※記事中の情報は記事公開当時のものです)
〈編集長の北海道ワイナリー巡り〉⑭Infeeld winery(北見市) 和牛農家が営むオホーツク初のワイナリー