鉄道沿線のまちの魅力を、温かなタッチのイラストと飾らない文章で表現している、「ズウさん」こと、道中作文画家の渡辺俊博さん(札幌市在住)。JR北海道の車内誌で長年連載コラムを担当してきたズウさんが描いたイラストとコラムによる「旅の風景」とともに、道北のJ R 沿線にあるマチの魅力を紹介していきます。今回のテーマは「富良野線」です。
あったまって 雪の街<旭川の巻>
~某月某日 ラーメンをたべた~
なんともシバレます、旭川の街は。まずは体をあたためようと、JR旭川駅から歩いて「五・七小路ふらりーと」にある旭川 ラーメンの老舗蜂屋に行く。この小路がいい雰囲気で、細長い路地の両側に小さな飲み屋が軒を並べる。夕方、ここにあるどこかの焼鳥屋に寄ることにして蜂屋ののれんをくぐる。
店内に漂う魚ダシ独特のにおい。塩味と醤油味 (ラード多め)を注文、ズルッズルッ・・・くせのある豚骨と魚ダシのスープは濃厚でクセになる味。 表面に浮く焦がしラードが 冷めるのを防ぐ(ああ、カロリーオーバー)。
あたたまった体で外国樹種見本林に行く。一八九八年につくられた実験林で、ストローブマツやヨーロッパトウヒなど針葉樹約五十種が植えられている。有名な「氷点」(三浦綾子)の舞台でもある。小説のラストで主人公の陽子が彷徨うがごとく、ぼくは冬の見本林を歩いてみたかった。
雪をこいで松林の中を一歩一歩行く。空に突き刺さるように伸びる背の高い幹、枝をゆする風の音。松毬や枝葉が落ちている。陽子もここを歩いたんだと、感傷的な気分でいると頭上でヒヨドリがピイーツ。 林をぬけ堤防を下りると美瑛川にでるが、滑って落ちたらオッカナイ(怖い)ので途中から引き返す。この川もまた小説では重要な舞台である。
見本林の入口にある三浦綾子記念文学館に寄る。シックな建物で「氷点」をはじめ、作家・三浦綾子さんの作品、文学すべてにふれることができる。
文学館をでると雪がちらついてきた。そこでひとつ、雪が降ると口ずさむ歌といえば? 「雪が降る」「なごり雪」「ペチカ」「小樽の女よ」「雪国」「雪の渡り鳥」が思い浮かぶ。 ♪雪やこんこあられや…もいいが、ここでは昭和二十七、八年頃に流行っていた「雪の降る街を」ということで話を進める。
じつはこの歌、旭川の歌だという。作詞をした内村直也氏の承諾もあり、内村氏直筆の「雪の降る街を」歌碑が見本林から近い大雪クリスタルホール前庭に建つ。また、作曲は「夏の思い出」 「小さい秋みつけた」などの曲で知られる中田喜直氏。スキーで何度も旭川を訪れていたという中田氏にちなみ、毎年「旭川雪の降る街を音楽祭」が開催される。今年も二月九日から「中田喜直記念コンクール」など数回の音楽イベントがある。雪の降る街にふさわしい音楽 祭になるのだろう。
ナナカマドの赤い実がゆれる街並。旭川駅に戻り、駅前のだるまや(現在は旭川市2条13丁目に移転)で買った焼きたてのバナナ焼とたい焼をたべながら、平和通買物公園から旭橋にむかう。商店街をぬけると寒さがつのる。 もう一杯ラーメンをたべようと、途中ラーメン店みづのに寄り、月見生姜ラーメンをふうふう。チャーシュウがうまい。キレのいいおろし生姜入り豚骨スープをズビーッと飲み干す。(ああ、これまたカロリーオーバー)。冷えた胃袋がホイーッとあたたまる。
旭橋は店のすぐ近く。石狩川がゆっくりと流れる。川風は冷たいが、生姜効果で体はぽっぽとする。北海道三大名橋(釧路・幣舞橋、札幌・豊平橋)の一つといわれる旭橋は、アーチの美しさからいうとまず道内一でしょう。重厚なアーチ橋の形を眺めて、たい焼を取りだし(橋の曲線とたい焼の背中の曲線が似ているん だよなあ…)パクリッ。
「ズウさんのつるつる旅日記 旭川の巻」
(J R 北海道車内誌 2007年1月号より)
春風は カレーのにおい<富良野~美瑛の巻>
~某月某日 カレーうどんをたべた~
オジサンは風呂に入るたびに、(この肥った腹、なんとかならないかなあ)と腹の肉をつまむ。さらに、(これが凹めば、もっとモテルんだけどなあ…)とつぶやく。するとヘソが、「腹のせい? モテない原因は別にあるんじゃあ…」という。 オジサンは、(そうかなあ)と腹を凹ませるが、ヘソがいうからにゃ間違いなし?
身体の中心がヘソならば、北海道のヘソは富良野。ぼくは腹をなでながらヘソの町から美瑛までの旅をした。
富良野は、テレビドラマ「北の国から」やラベンダー畑が全国的に有名。爽やかな春の空気をホイーッと吸い、富良野駅から富良野小学校へ行き校庭にある「へそ石」で北海道の中心を確認。駅近くのおやき屋あま太郎に寄って名物ハムタイを二個買い、ふらのワインの工場にむかった。
工場見学の後ワイン三種類を試飲。丘の上から雪の残る十勝岳連峰の雄大な景色を眺め、ハムタイ(ハムとマヨネーズ入りの珍しい鯛やき)をパクリッ。熱熱でうまい。 ワインに合うかどうかどうですか、一応魚ということで白ワインがいいかと?)。
つぎに中富良野の「ファーム富田」を訪ねた。ここは夏になると、 辺り一面ラベンダーを中心とした色とりどりの花花が咲き、大勢の観光客が訪れる。 その賑わいは花を見るより人を見るようでして。
ラベンダーの開花はまだ早く、見ごろは 七月上旬から。ところが嬉しいことに、園内のグリーンハウスでは 花の季節以外でもラベンダーを楽しめる。真冬はもちろん、一年中ハウス内は鮮やかな紫の花と香りに包まれる。品種は濃紫早咲。女性グループが花に鼻を近づけてクンクン。なぜかラベンダーはオジサンよりは女性が似合う。
ラベンダーを鑑賞して、丘のまち美瑛にむかう。芽吹いた木木と残雪の山のコント ラストがまぶしい。
美瑛駅はおしゃれな石造り。丘陵風景が美しい美瑛は、最近、“美瑛カレー うどん”を売りだし中だ。それにはこだわりがあり、麺には美瑛産小麦粉香麦を使い、つけ麺風カレーうどんにして、肉や野菜の食材もできるだけ美瑛産を使うのだそうだ。
ぼくは、カレーつけ麺はたべたことがない。どんなものかと思いながら、駅の真裏にある「丘の宿こえる」を訪ね、 初めて美瑛カレーうどんをたべた。
薄い小麦色したうどんはモチッとしていてコシもある。豚肉入りのカレーをたくさんつけてズズッとすする。とろみのあるルーは、うどんにうまくからんで美味しい。カレーの辛さもちょうどいい。
宿のご主人が「美瑛産和豚もちぶた肉なので、やわらかいでしょう」という。大きな肉は口の中でとろけるくらいうまいと喜んでいたら、自慢の豚角煮も味見させてく れた。これがまたうまい。
旅先でのおいしいものは「地産地消」が いい。そこでぼくは、うどんをすすりながら「地産地食」ということばを考えた。その土地の物をその土地でモリモリたべる幸せ。でもこのカレーを、ちょっとだけごはんにかけてみたい気がしてきた。(ごはん下さい)と言おうかなあ。
「ズウさんのつるつる旅日記 富良野~美瑛の巻」
(J R 北海道車内誌 2005年5月号より)
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渡辺俊博(わたなべ・としひろ)…1948年夕張市生まれ。「ズウさん」の愛称で知られ、JR北海道の車内誌に長年、イラスト付き旅日記「ズウさんのより道まわり道」を連載。北海道内各地の風景とその土地の食べ物を中心に、ぬくもりを感じる独特のタッチの絵で表現。垂れ目と口ひげの顔はおなじみ。
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J R富良野線…丘陵に広がる美しい田園風景 まちの魅力とイベントを紹介
旭川市から富良野市までの2市3町を結ぶ、54.8㎞の路線。丘陵に広がるのは、田園風景やラベンダー、そして黄色のヒマワリ。富良野・美瑛エリアには、ワイナリーやチーズ工房があったり、観光へ訪れるのに最適。JRで訪れれば、車の運転を気にすることなく、ゆったりと旅を楽しめます。富良野線の沿線自治体がお勧めする、秋のイベントや観光スポットなどをご紹介します。
◆富良野市◆
「ふらのワインぶどう祭り(Furano Wine Grape Festival)」(イベント)
ワインやぶどうジュースとともに人気店のグルメやスイーツを楽しむことができる収穫祭。ぶどう畑の中でワインとグルメを楽しめるお祭りです。
日時:2023年9月3日(日)10:00〜15:00
場所:清水山ふらのワイン工場下駐車場(富良野市西学田二区)
主催:ふらのワインぶどう祭り実行委員会
アクセス:JR富良野駅横噴水前から会場まで無料シャトルバスが当日運航。予約不要。当日のシャトルバスの時刻表はこちら。
問い合わせ先:0167・39・2312(富良野市商工観光課)
「ふらのチーズ祭り」(イベント)
ふらのチーズ工房で開催される秋のグルメイベント。市内飲食店によるふらのチーズや牛乳、バターを使った限定メニューが並びます。毎年家族連れで賑わうお祭りです。
日時:2023年9月10日(日)
場所:富良野チーズ工房(富良野市中五区)
主催:富良野チーズ工房
アクセス:JR富良野駅からタクシーで約9分
問い合わせ先:0167・23・1156
◆中富良野町◆
「NAKAFURANO BREWERY」(スポット)
2023年7月オープン。中富良野町の農家さんが丁寧に育てたホップや十勝岳連峰の伏流水による、美味しい湧き水など地元素材を原料にビールを醸造。定番ビールには、中富良野町の花である「ラベンダー」やメロンを使ったビールも。
場所:中富良野町北町9-2 コンテナハウス
営業時間:17:00~22:00
定休日:毎週月曜、火曜
アクセス:JR中富良野駅から、タクシーで3分
問い合わせ先:050・8888・5592
◆上富良野町◆
「深山峠アートパーク トリックアート美術館」(スポット)
視覚的な錯覚を利用して、平面に描かれたモノや人物が、立体的に浮かび上がる作品が展示されています。
場所:上富良野町西8線北33号深山峠
営業時間:4月から11月までの10:00~17:00(7~8月は 18:00まで)、冬期は12月から翌年3月までの10:00~16:00 ※最終入館は閉館の30分前まで
定休日:営業期間内不定休、冬期間は、平日(月~金)と年末年始(12/31~1/2)
入場料:大人1,300円、中高生1,000円、小学5年生以上700円、※小学4年生以下無料
※団体(10名様以上)及び障がい者割引あり
アクセス:JR上富良野駅からタクシーで約10分
問い合わせ先:0167・45・6667
◆美瑛町◆
「美遊バス」
美瑛町内の人気観光スポット、白金エリアの”白ひげの滝”や”白金青い池”などをバスで移動しながら巡ることができる周遊バス。9月30日までは青い池・花畑 コースで、毎日運行。申し込みはQRコードか美瑛町観光協会HPで。
集合場所:四季の情報館(JR美瑛駅より徒歩1分)
主催:美瑛町観光協会
参加料金:大人4,000円、子供(小学生)2,000円 ※5歳以下無料
問い合わせ先:0166・92・4378
◆旭川市◆
「北の恵み 食べマルシェ2023」(イベント)
旭川市をはじめ、北北海道地域や旭川市の交流都市などから地域自慢の「食」が一堂に会するグルメイベント。JR旭川駅や日本初の恒久的歩行者天国である「平和通買物公園」「七条緑道」を会場に、まちが大きな「ごちそう市場」になる3日間です。
日時:2023年9月16日(土)、17日(日) 、18日(月・祝)10:00~18:00(最終日は17:00まで)
場所:旭川市中心市街地(旭川駅前広場、平和通買物公園、七条緑道)
主催:北の恵み 食べマルシェ実行委員会
問い合わせ先:0166・73・9850(旭川市経済部経済交流課)
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