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2023.10.04

北海道内ブルワリーの直営店でクラフトビールを味わう~札幌市内ビール巡り㊥

小川郁子編集長
小川郁子編集長

 苫小牧生まれ、札幌育ち。ビール、ワイン、日本酒、お酒全般、控えめにいって好きです。食べ物の好き嫌いもほとんどありませんが、ウナギやハモ、アナゴなどニョロっとしたものは苦手です。1996年に北海道新聞入社後は、道内各地や東京で1次産業や政治、行政などを担当しました。2023年5月からTripEat北海道編集長。

「Tap Room BEER KOTAN」のフラッグシップ3種のビールと、ブルワリーのある上富良野町特産の豚肉料理
「Tap Room BEER KOTAN」のフラッグシップ3種のビールと、ブルワリーのある上富良野町特産の豚肉料理

 近年、クラフトビールの醸造所が急増し、札幌でも気軽に飲める飲食店が増えています。30年ほど前に「第一次地ビールブーム」ともいえる流行期があり、道内各地でも地ビールが誕生しましたが、徐々に下火に。ここ10年ほど、アメリカのクラフトビール流行を受け、首都圏ではブルワリーが急増していますが、東京、神奈川に次いでブルワリーが多いのが北海道で、今も増え続けています。札幌中心部でも、道内のブルワリー直営の飲食店があり、気軽に飲むことができます。クラフトビールを飲める飲食店を巡る企画の2回目は、道内のブルワリーの直営店を特集します。

飲み比べで色合いや風味が異なる個性的な1杯を 
NEIGHBOUR Roast&Brew

「NEIGHBOUR Roast&Brew」の入り口。ホテル1階の一角にあります

 ANAクラウンプラザホテル1階に今年4月にオープンした「NEIGHBOUR(ネイバー) Roast&Brew」。網走ビール(網走市)に醸造を委託したオリジナルビールや網走ビール、道内外のクラフトビールを常時9種類そろえています。札幌の中心部にあり、観光客だけでなく、仕事帰りの1杯やランチビールを楽しむにもぴったりです。

オリジナルを含め、常時9種類のクラフトビールを置き、それらを注ぐタップが並ぶ
オリジナルを含め、常時9種類のクラフトビールを置いています

 オリジナルビールは、網走ビールのブルワーが定期的に来て、店の裏にある250リットルのタンクに仕込みます。オリジナルビールはこの日、定番の「NBイングリッシュペールエール」と「ブルーヘイジーIPA」、限定2種類の計4種類がありました。網走ビールのほかは、ノースアイランド(江別市)の「コリアンダーブラック」と富士桜高原麦酒(山梨県)の「ピルス」、JouZo BEER BASE(福島県)の「梨のおもてなし」を置いていました。

 店は、網走ビールやカラオケチェーンを傘下に持つタカハシ(網走市)が運営しています。タカハシ常務取締役の関井督さんは「地元の人から国内、海外の人まで幅広く楽しんでもらえるような品ぞろえを考えています」と話します。

飲み比べセットとチーズとハモンセラーノの盛り合わせ
飲み比べセットとチーズとハモンセラーノの盛り合わせ

 レギュラーは300ミリリットルで600円から950円、パイントは500ミリリットルで900円から1500円と、比較的お手頃。好みの3種類が150ミリリットルずつの「飲み比べセット」は1300円です。飲み比べで、オリジナルビールの定番2種類と限定の「イチゴミルクシェイクIPA」を選んでみます。

 フードは数は多くはないものの、「ソーセージ4種のグリル」(1480円)や「ビールで仕込んだガーリックシュリンプ」(1100円)、「十勝めむろ産枝豆 行者菜ペペロンチーノ風」(500円)などビールに合うものを集めています。その中から、「北海道黒松内産チーズとハモンセラーノの盛り合わせ」(1180円)をお願いしました。

(左から)イチゴミルクシェイクIPA、ブルーヘイジIPA、NBイングリッシュペールエール
(左から)イチゴミルクシェイクIPA、ブルーヘイジIPA、NBイングリッシュペールエール

 ビールが運ばれてくると、思わず「カラフル」と声が出ます。ペールエールは見慣れた黄金色ですが、ブルーヘイジーは真っ青、イチゴミルクシェイクは名前の通り、イチゴミルクの色です。網走ビールの「流氷ドラフト」も青いビールですが、それよりも濃く、鮮やか。青色はオホーツクの澄み渡った青空、オホーツクの海、流氷をイメージしており、健康食品などに使われている藻を原料とした「スピルリナ」で着けているそうです。

 ペールエールはきれとこく、苦みのバランスがほどよい王道ビール。恐る恐る、ブルーヘイジーに口をつけてみると、さわやかな柑橘の香りとビールらしい大麦の味が感じられ、後味にホップの軽やかさが残ります。網走産大麦麦芽を使うなど、原料にもこだわっています。イチゴミルクは標茶町産の脱脂粉乳とイチゴを使っています。甘酸っぱいフルーティーな味わいで、ミルキーなまろやかさもあり、まさに「イチゴミルク」です。イチゴミルクシェイクは2醸造目で、1回目が好評だったため、お客さんの意見を反映させてバージョンアップしたそうです。最初は見た目で、「インスタ映え」狙いや「味は二の次なのでは」と疑ったことを反省。ビールとして、しっかり味わいたいおいしさです。チーズやハモンセラーノにも合います。

 店のタンク内では今、斜里町産のニンジンを使ったペールエールを仕込んでいるそう。店のオープンは4月ですが、オリジナルビールを仕込み、提供したのは6月からで、関井さんは「まだ試行錯誤ですが、道産の素材を使ったほかにはないビールにも挑戦してみたい」と意気込みます。

カウンターもテーブルもあり、広々とした店内
カウンターもテーブルもあり、広々とした店内

 クラフトビールとコーヒーが店の看板メニューで、コーヒーもオリジナルブレンドのほか、全国のコーヒー専門店の豆を仕入れています。オリジナルブレンドはハンドドリップのほか、コールドブリュー、エスプレッソ、ラテなどで楽しめます。オリジナルブレンドのハンドドリップ、ホットは650円ですが、長野県の「COFFEE ROASTRY NAKAJI」のコスタリカはホットが2200円、アイスが2400円と高価なものも。テーブルといすは木、壁の一部はレンガを使い、落ち着いた雰囲気の店内で、コーヒーの香りと味を楽しむのもよさそうです。関井さんは「今後、コーヒーを使ったビールも検討したいです」といいます。

 店名の「NEIGHBOUR」は、「ご近所付き合い」という意味があるそうです。お隣さんや地元の商店の人たちと雑談をするように、気軽に集まる場に-との願いが込められています。指を「L」字にした手を2つ描いた店のマークは、「2人の手を組み合わせてできる、1人ではできないポーズ」。関井さんは「いろいろな人が集まって、コミュニケーションをとってほしい」と話します。

住所/札幌地中央区北3条西1丁目2-9 ANAクラウンプラザホテル1階
電話/011・212・1688
営業時間/平日 午前9時~午後10時、金曜 午前9時~午後11時、土曜 午前10時~午後11時、日曜 午前10時~午後10時
定休日/なし

上富良野発 地元産のホップでこだわりの1杯 
Tap Room BEER KOTAN

「Tap Room BEER KOTAN」の入り口
「Tap Room BEER KOTAN」の入り口

 ビールの味と香りのかぎを握る重要な原料、ホップ。そのホップにこだわり、地元産ホップのビールづくりに取り組む上富良野町の忽布古丹醸造直営のビアバーが「Tap Room BEER KOTAN」です。天井の高い広々した店内には、ホップ栽培の写真パネルが飾られ、自社醸造のビールを常時12種類、提供しています。

グラスに注がれた(左から)ウポポ、ハシカプ、ノンノ
(左から)ウポポ、ハシカプ、ノンノ

 定番のピルスナー「upopo(ウポポ)」とペールエール「nonno(ノンノ)」、フルーツエール「haskap(ハシカプ)」のほか、「一心不乱」「寿老人(じゅろうじん)麦酒」など限定が9種類並んでいました。M(310ミリリットル)が700~850円、L(420ミリリットル)が850~千円、大ジョッキ(630ミリリットル)が1250~1400円と、お手頃価格。月曜から木曜のみですが、好みの3種類を各200ミリリットルずつの飲み比べセット(1650円~)もあります。

 定番3種のMサイズを飲み比べてみます。ウポポはきりっとした苦みとさわやかなホップの香りのしっかりとした味わい。ノンノはかんきつのようなさわやかな香りを感じ、華やかな印象です。ノンノはアイヌ語で「花」の意味だそう。ハシカプは名前の通りハスカップを使っており、酸味がきいたすっきりとした飲み口です。

 限定の中に、「エピッタ 2023Ver. AKIRA STYLE IPA」と「AKIRAに傷心(ハートブレイク)」と「AKIRA」を冠したものが2つあります。これは誰? と尋ねると、店長の森谷秀司さんが「上富良野のホップ農家『AKIRA』さんのホップだけで醸造したものに、敬意を表して名付けています」と教えてくれました。忽布古丹醸造では、醸造所から車で10分ほどのところの「AKIRA」さんの畑と契約し、ホップを栽培。「エピッタ」とはアイヌ語で「すべて、全部」という意味。モルトも中標津町産のものを使い、「すべて道産」です。

 秋はホップの収穫期で、この時期は、朝8時に収穫したフレッシュホップをその日のうちに仕込み釜に入れるそうです。それ以外の時期は、フレッシュではなく、乾燥させてペレット状に加工したものにはなりますが、通年で自社栽培のホップを使います。

上富良野町の江花珈琲焙煎処のコーヒー豆を使った「エパナ」
上富良野町の江花珈琲焙煎処のコーヒー豆を使った「エパナ」

 ホップ以外の原料も、上富良野産や道産にこだわります。「epana エパナ」は、上富良野町の江花珈琲焙煎処の「インドネシアマンデリンビンタンリマ」を使ったビールです。コーヒーエールというと普通は、黒ビールのような黒色や濃い茶色のビールを思い浮かべますが、エパナは琥珀色。一見、コーヒーエールに見えませんが、口にするとしっかりとコーヒー味です。

 限定ビールはこのほか、オレンジピールとコリアンダーを使う「ベルジャンウィット」を、代わりにユズと塩でつくった「柚子塩騒動」や、アルコール度数10,5%、苦みの基準IBUが大手ビール会社のビールの20前後に対し、108という暴力的な「野放図」など、どんな味わいだろうと興味がわきます。

ブルワリーのある上富良野町特産の「上富良野名物豚サガリ」と定番ビール3種
ブルワリーのある上富良野町特産の「上富良野名物豚サガリ」と定番ビール3種

 フードメニューの中から、お勧めの「☆」印の付いた「上富良野名物豚サガリ」をお願いしてみます。ブランド豚のかみふらのラベンダーポークを一口大にカット、ニンニクやショウガを入れたしょうゆ味です。ガツンとくるおつまみかと思いきや、意外と優しい味。柔らかく仕上げられ、ビールによく合います。

 フードはほかに、七味を入れたそば汁などの材料になる「かえし」に漬け込んだ「七味枝豆」(420円)や、焼いたしめさばをのせた「定番!焼き鯖ポテトサラダ」(580円)など、一工夫加えたビールに合うラインナップ。フィッシュ&チップスの魚はこの日、道産ブリ。ヒラメやギンポウなど時々の仕入れによって魚の種類を変えているそうです。

ピカピカのタップを眺められるカウンター席
ピカピカのタップを眺められるカウンター席

 忽布古丹醸造は2018年から上富良野町で醸造を開始し、20年12月に店がオープンしました。びんビールも製造していますが、現在はタップが主流。北海道から沖縄まで、全国各地のビアバーやレストランで提供されていますが、ここまでの種類がそろうのは、もちろんここだけ。1500リットルのタンク12基でビールをつくっていますが、基本的に定番以外は、同じレシピで醸造することはないそうです。今出ているコーヒーエール「エパナ」は第2弾ですが、1回目とはコーヒー豆の種類やテイストを変えてつくられています。森谷さんは「同じものに出会えない。来るたびに、違うビールを楽しめます」と話します。

大きな窓があり、開放的な雰囲気の店内
大きな窓があり、開放的な雰囲気の店内

 店内は大きな窓があり、開放的な雰囲気。タップ前のカウンター席のほか、窓に向かったカウンターもあり、壁側にはテーブル席が並びます。中央には立ち飲みできるハイテーブルもあり、いろいろな楽しみ方ができそうです。

住所/札幌市中央区南2条西3丁目13-2 パレードビル3階
電話/011・221・2505
営業時間/平日 午後5時~午後11時、土曜・日曜・祝日 正午~午後11時
定休日/なし
限定ビールやクラフトビールを札幌の〝聖地〟創成イーストで楽しむ~札幌市内ビール巡り㊤ 

創業20年超 1杯に込めた「クラフト」の心意気 
Beer Bar NORTH ISLAND

大きな窓から札幌の街の明かりを臨める店内
大きな窓から札幌の街の明かりを臨める店内

 ここ数年、新たなブルワリーが続々とできるなか、創業20年を超えるのが江別市のブルワリー「NORTH ISLAND」です。札幌市中心部のビル最上階に直営の「Beer Bar NORTH ISLAND」があり、定番5種類など常時、7~8種類の自社のクラフトビールをそろえています。

定番のIPA(左)とピルスナー
定番のIPA(左)とピルスナー

 定番は、コリアンダーのさわやかな香りのする「コリアンダーブラック」や豊かな香りと深い味わいの「ブラウンエール」、苦みを抑えた爽やかでフルーティーな「ヴァイツェン」など5種類。スモール(275ミリリットル)700円、ラージ(430ミリリットル)850円で提供しています。

 このほか、この時期だけのモルトの甘やかな香りの英国のクラシックなスタイルの「ESB」や、クリスマスの時期に出すシナモンエールなど、2カ月に1度、年に6種類の季節限定ビールもつくっています。ほかにもこの日、8月に4年ぶりに開催されたクラフトビールのイベント「サッポロクラフトビアフォレスト」用に醸造した「FOREST SHOWER」やホップオイルを使って醸造したIPA「Portion」などがありました。また、道内外のクラフトビールのブルワリーから仕入れるゲストビールがあることもあるそうです。

 定番の中から2種類、いただいてみます。ピルスナーは香りが華やかな王道ビールで飲み飽きしません。IPAは強いホップの香りとしっかりとした苦みを感じます。どちらも安定のおいしさです。

本日のカルパッチョ(左)と自家製アジフライ。添えられたタルタルソースは柴漬け入り
本日のカルパッチョ(左)と自家製アジフライ。添えられたタルタルソースは柴漬け入り

 フードは、塩昆布と粉チーズを使った「無限ブロッコリー」や「自家製スモークサーモン」「厚切りジンギスカン山わさびしょうゆ」「ガーリックライス」など、軽いものからしっかりおなかにたまるものまで、ビールに合うものをそろえています。系列の日本料理店から料理長が移ってきたことから、日替わりの看板メニューには、自家製のからすみを使った「カラスミチーズ」やナスのあげびたしなど、和食も用意されていました。

 メニューの中から、本日のカルパッチョと自家製アジフライをオーダーしてみます。カルパッチョはサーモンとマツカワガレイ。酸味がさわやかですが、しっかりした味付けでビールが進みます。アジフライは肉厚で、からりと揚がっており、たっぷりとかけられているタルタルソースがピンク色。刻んだ柴漬けが入っており、見た目の鮮やかさだけでなく、ほどよい酸味と食感が味のアクセントにもなっています。

テーブル席も多く、くつろげます
テーブル席も多く、くつろげます

 ノースアイランドビールは2002年に代表取締役CEO坂口典正さんらが「手づくり麦酒」として、札幌市東区で創業、03年4月から醸造を始めました。当初は、50リットルの小さなタンクで、お客さん自らが麦芽などを仕込み、ビールの手作り体験ができることを売りにしていました。クラフトビールが定着しているカナダに同様の事業が展開されており、結婚式の引き出物や記念日用などとしての需要を見込み、「新しいビジネスモデルになる」と考えたそうです。手作り体験以外のビールは、工場2階に併設したビアホールで提供していました。

 その後、09年に江別市に工場と本社を移転。醸造施設も千リットル以上可能なものになりました。同時に、札幌中心部の創成川東側の「創成川イースト」地区に、自社ビールを飲めるビアバーをオープンさせました。ただ、その店はカウンターとテーブル数卓の小さな店だったため、18年に現在地に移転。スチール(鉄)と木を組み合わせ、シックでありながら温かみのある内装で、大きな窓があり、開放的な雰囲気です。

カウンターに座ると、タップが見えます
カウンターに座ると、タップが見えます

 お客さんの手作り体験という、「クラフト(手作り)」の名前通りの形で出発したノースアイランドビールは今や、全国各地の百貨店などの北海道物産展に出店したり、クラフトビールを出す各地の飲食店から引き合いがきたりと、大成長。工場も大規模化しました。でも、「クラフト」の心意気と、「ノースアイランド」の名の通り、北海道のブランド力への自信は忘れていません。

 地元・江別の農家に依頼して生産してもらったホップは、収穫の際、スタッフ総出で畑に行き、一粒一粒、手作業で収穫して、その日のうちにビールを仕込みます。ホップや小麦のハルユタカなどの原料、フードの材料にも道産を取り入れています。坂口さんは「自分の飲みたいものを造って、多くの人に飲んでもらいたい」と話します。

住所/札幌市中央区南2条西4丁目10-1 ラージカントリービル10階
電話/011・251・8820
営業時間/午後5時半~午後11時半、日曜・祝日は午後3時~午後10時(日曜・祝日の前日は午後11時半まで)
定休日/なし

「次の1杯」につながる味を求め 今なお挑戦は続く 
TRANS BREWING BEER STAND

狸小路横丁の一角に店を構える「TRANS BREWING BEER STAND」
狸小路横丁の一角に店を構える「TRANS BREWING BEER STAND」

 札幌・狸小路5丁目の「狸小路横丁」の一角に店を構える「TRANS BREWING BEER STAND」。札幌市豊平区平岸の醸造所で造った自社のビールを提供しています。カウンターのみのスタンディングで、飲み会前の「0次会」や待ち合わせ、仕事や買い物の帰りにきゅっと1杯など、気軽に楽しめます。

グラスに注がれた(左から)「Twist and Shout」「ライチの恋心」「TRANS LEMON ALE」
(左から)「Twist and Shout」「ライチの恋心」「TRANS LEMON ALE」

 店は、2021年4月から醸造を始めたトランスブリューイングの直営店として、22年12月にオープン。6つのタップはすべて自社のビールです。この日は、定番4種類の中から「平岸ラガー」など3種類と、「麦道(ばくどう)の九十黒伏」など限定3種類がありました。価格はレギュラー(250ミリリットル)が770円、ラージ(450ミリリットル)が1320円、4種類を各150ミリリットルのセットが1760円です。

 定番の「Twist and Shout」と「TRANS LEMON ALE」、限定の「ライチの恋心」をレギュラーでお願いしました。ツイスト~はホップの香りがたち、口に含むとまずガツンと強い苦みを感じますが、モルトの甘さもあります。レモンエールは、シチリア産のレモン果汁を使ったフルーツエール。一口飲むと、「あれ、これはビールだよね」と確かめたいほど、レモンが香ります。さすが、キャッチコピーに「レモンサワーよりレモンを感じます」とうたっているだけあります。この2つはいずれも「ジャパン・グレートビア・アワーズ2023」で銅賞を受賞しています。真っ白な見た目のライチは、口に含んだ瞬間、酸っぱさがツーンときます。サワービールの中でも、相当な酸っぱさ。よく味わうと、グラスの縁に塩を付けたスノースタイルのカクテルのような塩味を感じます。塩とライチの果汁、赤シソなどを入れて乳酸発酵させているそうで、赤シソの香りもほんのりあります。

3杯のビールグラスとフードの「ミニフィッシュ&チップス」
「ミニフィッシュ&チップス」のポテトはマッシュポテトを押し出して揚げる「ラスポテト」

 フードは6種類。220~550円と手頃な価格です。店長の高橋優人さんは「あくまでビールが主役。スタンディングでもあり、1人でも食べられる量にもしています」と説明します。トランスブリューイング社長の岡本拓也さんが最もこだわったのは、ポテト。「お祭りの屋台で売っているような、『ラスポテト』を出したかった」と言います。粉末状にしたジャガイモを水で溶いて絞り出すのが定番ですが、店ではマッシュポテトを細長く押し出して揚げています。

 それでは、そのポテトも味わえるビールの定番、「ミニフィッシュ&チップス」(440円)をお願いします。こだわりのポテトの上には、ミニとはいえしっかりしたサイズの白身魚のフライがのっています。ラスポテトは外側はカリっと、中はもちもちとした食感。このジャンクな感じがビールにぴったり。マッシュポテトを押し出しているので、中には15センチを超える長いものも。そのままでもいい塩気なのですが、付いているケチャップやタルタルソースで「味変」もできます。

 フードはほかに、ピーマンやナス、タマネギなど季節の野菜やベーコンやソーセージなど5~6本が入る「ビア衣の串揚げ盛り合わせ」(550円)と「バッファローチキンウィング」(440円)、ラスポテトのL(440円)とS(220円)、「ミックスナッツorピスタチオ」(330円)です。月曜から木曜限定ですが、レギュラーサイズのビール2杯とおすすめのフード2~3品が付く「にせんべろセット」は2千円とお得です。

スタンディングながら、混んでいなければベンチも使える店内
店内はスタンディングですが、混んでいなければベンチも使えます

 ビール好きが高じて、ブルワリーを開設した岡本さん。運送業や車の整備業などを自営していましたが、今年1月、「せっかくなら好きな仕事を存分にしたい」と事業譲渡し、ビール醸造に専念しています。今は300リットルのタンク6基をフル稼働させて醸造しています。札幌の中心部や平岸などの飲食店30店以上、道外も南は鹿児島まで出荷しています。

カウンターの向こうに並んだ、ロゴ入りのピカピカのグラス
カウンターの向こうには、ロゴ入りのピカピカのグラスが並びます

 岡本さんは「飲みやすい、バランスの良いビールのラインナップを目指しています。おいしければ、次の1杯につながるから」と話します。定番の「平岸ラガー」を始め、確かに苦みや麦芽の甘みがありながら、すっと飲めるタイプのビールが並びます。ただ、醸造所近くの北海学園大の学生のアイデアをもとに、札幌の中心部で採蜜したハチミツを使ったビールや、かつてリンゴの生産が盛んだった平岸にちなみ、リンゴ果汁を使ったビールなど、これまで40種類以上の新作・限定ビールを手がけ、挑戦を続けています。醸造所名の「TRANS」には、「超えて、横切って」という意味があるそう。岡本さんは「常識という垣根を超えて、自由な発想とアイデアでビールをつくりたい」と話しています。

住所/札幌市中央区南2条西5丁目6-1 狸小路横丁
電話/なし
営業時間/月曜~土曜 午後3時~午後10時、日曜 正午~午後8時
定休日/年中無休(狸小路横丁休館日は休み)
北海道内外や海外産まで 多彩な銘柄のビールを楽しむ~札幌ビール巡り㊦

「ススキノの水」で醸造 四季それぞれを感じる1杯 
すすきのブリューイング

ススキノ地区の真ん中にあるすすきのブリューイングの店舗外観
ススキノ地区の真ん中にあるすすきのブリューイング

 ススキノ地区の真ん中で、ススキノの水を使って醸造したクラフトビール「すすきのえーる」を飲むことができるのが、「すすきのブリューイング」です。昨年夏に醸造免許を受け、4種類のオリジナルビールを提供しています。春夏秋冬をイメージした4種類のビールはどれも素直な味わいで、だれもが飲みやすく、親しみを感じられます。

グラスに注がれた(左から)「ヴァイツェン」「セッションIPA」「セゾン」「ホワイトエール」
(左から)冬の「ヴァイツェン」、秋の「セッションIPA」、夏の「セゾン」、春の「ホワイトエール」

 オリジナルビールは春をイメージした「ホワイトエール」と夏の「セゾン」、秋の「セッションIPA」、冬の「ヴァイツェン」。飲みやすくするため、アルコール度数は4.6~5.5%とクラフトビールとしては低めなのが特徴です。S(275ミリリットル)が550円、M(400ミリリットル)が800円です。4種類を各155ミリリットルずつの飲み比べ(1500円)もあります。

 すべて味わってみたいので、飲み比べをお願いします。ホワイトエールは道産小麦を使い、さわやかな風味とオレンジピールの香りが特徴です。セゾンはホップ「ソラチエース」を使用し、軽めの飲み口ながら、スパイシーさや苦みも感じられます。セッションIPAはホップの香りがしますが、一般的なIPAよりも飲みやすく、バランスのいい仕上がりです。ヴァイツェンは口に含むとバナナのような香りがあり、苦みは抑えめで飲みやすくなっています。フラッグシップは春のホワイトエールですが、それぞれの季節をイメージしてつくっただけに、夏にはセゾンが、秋にはIPAが、冬にはヴァイツェンがよく出るそうです。

 このほか、道内のブルワリーの缶やびんのクラフトビールも置いており、その日の仕入れによって提供します。この日は、札幌市の「Streetlight Brewing」や美深町の美深白樺ブルワリーのものがありました。

 これまでは定番4種のみの醸造でしたが、近くホップを少なくし、モルトを多めにした初めての限定ビール「スコティッシュエール」を仕込み、11月ころから提供予定だそうです。

「自家製フィッシュ&チップス」(手前)とビアパブでは珍しい自家製のベーコンエピ
「自家製フィッシュ&チップス」(手前)とビアパブでは珍しい自家製のベーコンエピ

 フードはお勧めの「自家製フィッシュ&チップス」(680円)と、ビアパブでは珍しい「自家製パン」からベーコンエピ(280円)を選びました。フィッシュ&チップスは店でさばいたタラに、すすきのえーるを加えた衣を付け、カリッと揚げてあります。ポテトは一口大にカットしたタイプで、外側はサクッと、中はほくほくです。ピクルスの酸味のきいたタルタルソースが、タラにもポテトにもよく合います。ベーコンエピは、店を運営する「APRグループ」の系列パン店のブーランジェが手作り。パンの小麦の味と厚めにカットされたベーコンの塩気、ちょっと強めにかけられた黒コショウがビールによく合います。

 メニューはほかに、砂肝のコンフィ(480円)やカレーライスのルーだけを盛った「おつまみルー」(680円)、ピリ辛のトマトソースの「ペンネアラビアータ」(680円)など、ビールに合うものをラインナップ。パンは、ホットドッグ(450円)やカレーパン(200円)も用意しており、日替わりの「本日のパン」として、メロンパンやガーリックパン、バジルクリームをはさんだものなどもあるそうです。

テーブル席とカウンターのある店内
テーブル席とカウンターのある店内

 店内はカウンターとテーブル席計27席。店の奥のバックヤードでは、300リットルのタンク2基と150リットルのタンク2基でビールを醸造しています。店長の浅利圭祐さんは実は、ソムリエと日本酒の「SAKE DIPLOMA」の資格を持っています。浅利さんは「お酒全般が好きで、自分でお酒をつくってみたかった」と昨年10月、転職。ビールづくりに奮闘しています。実際にビールづくりに携わり、「仕込んでから醸造途中で1日1日、味が変わっていくのがおもしろい。その過程をみられるのが、造り手ならではの楽しみですね」と笑顔を見せます。

シンボルマークの花の真ん中にススキノの「す」の字が隠れている
シンボルマークの花の真ん中にススキノの「す」の字が隠れています

 「すすきのえーる」はそもそも、2020年夏に「ススキノ地区にエールを送り、元気づけよう」と、すすきのブリューイングの運営会社APRグループなど3社が共同で、「薄野地麦酒」に醸造を依頼したのがきっかけ。びんや缶で販売、提供していましたが、APRが自社で醸造することになりました。それだけに、ススキノ地区への愛情があり、グラスなどに描かれている店のシンボルマークの花は、よく見ると中にススキノの「す」の字が隠れています。お店に行ったら、よく見てみてくださいね。

住所/札幌市中央区南7条西3丁目7-9
電話/011・211・5020
営業時間/午後3時~午後10時
定休日/日曜
ビールのまち・札幌を味わおう~「サッポロ・ビア・ホッピング」〈10/6~12/3〉~TripEat公式LINEで「友だち限定サービス」や「スタンプラリー」
ビールのまちさっぽろの魅力再発見「ビールと歴史・文化を味わう観光馬車」 9/7から運行
小川郁子編集長
小川郁子編集長

 苫小牧生まれ、札幌育ち。ビール、ワイン、日本酒、お酒全般、控えめにいって好きです。食べ物の好き嫌いもほとんどありませんが、ウナギやハモ、アナゴなどニョロっとしたものは苦手です。1996年に北海道新聞入社後は、道内各地や東京で1次産業や政治、行政などを担当しました。2023年5月からTripEat北海道編集長。

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