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2023.10.05

北海道内外や海外産まで 多彩な銘柄のビールを楽しむ~札幌ビール巡り㊦

小川郁子編集長
小川郁子編集長

 苫小牧生まれ、札幌育ち。ビール、ワイン、日本酒、お酒全般、控えめにいって好きです。食べ物の好き嫌いもほとんどありませんが、ウナギやハモ、アナゴなどニョロっとしたものは苦手です。1996年に北海道新聞入社後は、道内各地や東京で1次産業や政治、行政などを担当しました。2023年5月からTripEat北海道編集長。

「CRAFT PUB BRAIAN BREW」のフィッシュ&クラフトポテサラとヨーテイブルーイングのビール

 近年、クラフトビールの醸造所が急増し、札幌でも気軽に飲める飲食店が増えています。北海道は東京、神奈川に次いでクラフトビールの醸造所が多く、その銘柄も数えきれないほどですが、全国、海外にも個性的なクラフトビールがたくさんあります。製造地にかかわらず、さまざまな銘柄やスタイル、味や香りを楽しめるお店を訪ねます。

訪れるたびに違う1杯 道産クラフトの品ぞろえに自信 
ヒニニツカ

ビルの谷間に明るく浮かび上がる「ヒニニツカ」

 札幌駅北口近く、オフィス街のビルの谷間にぽつんと浮かび上がる明かり。道産のクラフトビールにこだわる「ヒニニツカ」です。10あるタップのすべてが、道産のクラフトビール。味わいや香り、色など個性豊かなビールを、ビールを引き立てるフードと一緒に提供しています。

美深白樺ブルワリーの「明日晴来『あすぱら』」(奥左)と忽布古丹醸造の「Blueberry Saison」

 道内のクラフトビールのブルワリー23カ所のビールを仕入れています。この日は、ブラックフォックスビール(倶知安町)の「DJ.Steam(California Common)」、Lake Toya Beer(洞爺湖町)の「TOYA Weizen」、のぼりべつ地ビール鬼伝説の「スイートストロベリー」などがありました。店長の松本孝史さんは「同じブルワリーでも、違う種類のビールや季節限定のビールなどあるので、多分来るたび、違うビールが飲めます。道内のブルワリーをこれだけそろえている店は、札幌でもそうないのでは」と自信をみせます。

 S(250ミリリットル)が850円、M(350ミリリットル)が1100円、L(480ミリリットル)が1600円で、好きなビール3種類を各140ミリリットルずつ試し飲みできる「飲み比べSET」もあります。

(左から)小樽ビールの「ヴァイス」、士別サムライブルワリーの「漆」、ノースアイランドビールの「ESB」

 まず、飲み比べSETでビールの違いを味わってみます。小樽ビールの「ヴァイス」は、オーソドックスなビールらしい味わいで、炭酸のシュワシュワ感が細かくはじけるように感じます。士別サムライブルワリーの「漆(Milk Stout)は黒ビールで、丸みのある柔らかい甘みがあります。NORTH ISLAND BEER(江別市)の「ESB(Extra Special Bitter)」は、小麦の香りが強く、口に含むとバナナのような味と香りが鼻に抜けます。見た目も味わいもそれぞれ違って、それぞれのグラスに交互に手が伸びます。

 飲み比べのほかに、Sで単品を頼んでみます。美深白樺ブルワリーの「明日晴来『あすぱら』(Fake Lager)」は、苦みは少なめですが、ラガーのようなずっしり感があります。忽布古丹(ホップコタン)醸造(上富良野町)の「Blueberry Saison」はブルーベリーのフルーツビールで、さわやかな酸味があります。実は、フルーツビールはあまり得意ではなかったのですが、これはおいしい! ブルーベリーの味と香りはしますが、甘みはさらりとしていて、しっかりビールです。

フィッシュ&チップス(左)とシェフお手製のコンビーフ

 フードも頼んでみます。1番のお勧めという「フィッシュ&チップス」はスモールが700円、ミディアムが1000円。魚は道産の生のタラを3枚おろしの状態で仕入れ、骨を取ったり、皮をひいたり、店の厨房で毎日、下処理しています。それを塩こうじに一晩漬け込み、注文が入るたびに揚げます。衣にはワインビネガーとベーキングパウダーを少し入れているそうです。食べてみると、衣がカリッと軽く、何よりタラの身がおいしい。冷凍のタラにありがちな水っぽさは一切なく、しっかりした弾力があります。添えられたタルタルソースは酸味が強めで、さっぱりと食べられます。ソースには隠し味にワインビネガーやヨーグルトが入っているそうです。イギリスに留学経験のあるオーナーがこだわり抜いたというだけあります。

 数量限定ですが、2階のイタリアン「NiNi」のシェフお手製のコンビーフもお願いしました。ぱっと見は、テリーヌのよう。でも、食べると牛肉の繊維が細かくほぐれ、まさにコンビーフ。市販のもののような強い塩気や脂っ気はまったくなく、スパイスの香りがあり、ビールが進みます。温泉卵と絡めるとまろやかさが増し、ワインにも合いそうですが、ビールにぴったり。

 ほかにフードはチーズやサラミ、ナッツなど10種類ほど。おまかせ盛り合わせは、生ハムと揚げニョッキ、ピクルスが提供されるそうです。店長の松本さんは「ワインや日本酒だと、このつまみとは合わないなというものはあるけれど、ビールは何にでも合う。料理に寄り添ってくれる飲み物なので、つまみはそれほど凝っていません」と謙そんしますが、いやいや、いずれもとてもおいしいです。

長いカウンターはスタンディング用。テーブル席もあります

 店内には2人掛けのテーブルが4卓と、L字型の長いカウンターのみ。カウンターはスタンディングです。お客さんは男女半々で、オフィス街だけあって、仕事帰りに軽く1杯という人が多いそうです。実際、取材中にも同じ職場とみられる若い女性4人のグループが入り口の樽型のテーブルを囲んで、スタンディングで1杯ずつ飲んで素早く解散、ビジネスバッグを持ったスーツ姿の男性がカウンターで20分ほど、スーツケースを転がした旅行中らしい女性が飲み比べSET…と、格好良い飲み方をしている人たちがたくさんいました。

 松本さんは「缶やびんでクラフトビールを飲んで苦手意識を持っている人も、ぜひここで生のクラフトビールを飲んでみてほしい。きちんと管理された生のクラフトビールはおいしいですよ」と話します。

 ちなみに、店名の「ヒニニツカ」はオーナーの息子さんが幼いころ、パソコンのキーボードをいたずらして打ち込まれた言葉だそう。音の響きをオーナーが気に入って、名付けたとか。

住所/札幌市北区北7条西2丁目20 NCO札幌駅北口別棟1階
電話/011・700・0012
営業時間/午前11時半~午後2時、午後5時~午後10時(土曜日曜は午後2時から)
定休日/なし

多彩に9種類を提供 店自慢の「もつ料理」で進む1杯 
#サカノバクラフト

木目を基調にした明るい「#サカノバクラフト」の店内

 フィッシュ&チップス、ソーセージ、から揚げ…。ビールに合うおつまみはさくさんありますが、もつ料理とペアリングできるのが、「#サカノバクラフト」です。帯広ビールが委託醸造するオリジナルビール3種など、常時9種類のクラフトビールをそろえ、もつ煮込みや肉刺し、創作料理などのフードメニューも充実しており、1人でふらっとから宴会まで、いろいろな楽しみ方ができそうです。

(左から)「金色のネルソンソーヴィン」、「夜咄ブラック」、「トワイライト・アンバー・ジャーニー」

 この日は、オリジナルビールとして、インディアペールラガーの「金色(こんじき)のネルソンソーヴィン」、エスプレッソシュバルツの「夜咄(よばなし)ブラック」、ヨーロピアンアンバーラガー「トワイライト・アンバー・ジャーニー」がありました。帯広市の帯広ビールに醸造を委託しています。

 そのほか、その時々の仕入れによって、全国のブルワリーの6タップをつないでいます。この日は、東京や石川、和歌山などのブルワリーのビールがありました。店を運営するビーオーオー取締役の谷口大さんは「IPA、ホワイトビール、フルーツビールなどいろいろな味わいや種類のビールを幅広くそろえるようにしています」と話します。すべて200ミリリットルで、価格はオリジナルビールが715円、この日置いていたそれ以外のビールは550~880円と比較的、お手頃です。

 好きなビール3種を各150ミリリットルずつの飲み比べセット(2200円)があったので、オリジナルの3種でお願いしてみました。「金色~」は「ネルソンソーヴィン」という種類のホップを使用。このホップはワイン用ブドウのソーヴィニヨン・ブランで作ったワインに似た香りだったことからこう名付けられたというだけあって、白ワインのようなさわやかでジューシーな香り。どんな料理にでも合いそう。夜咄ブラックは真っ黒な色に反して軽い口当たりで、ぐいぐいいけそうです。麦芽をローストした深みのある香りです。トワイライト・アンバー・ジャーニーはヨーロピアンホップの「ザーツ」をメーンに使い、ハーブのようなスパイシーさが感じられます。

自家製ラー油もつ煮(左)とホルモン煮込み

 フードは、看板メニューの「ホルモン煮込み」(748円)と「自家製ラー油もつ煮」(同)を頼みます。煮込みは、丁寧に下処理したホルモンを八丁みそで煮込んでいます。上にたっぷり盛られた白髪ネギが、八丁みその甘みを引き締め、柔らかく煮込まれたホルモンは、部位によってとろっと、クニクニと、いろいろな食感があって楽しい。もつ煮は、豚ガツを柔らかく煮込み、自家製ラー油とコチュジャンで辛みをきかせ、刻んだ大葉とネギが散らされています。辛いのが苦手な人はギブアップ寸前、辛いもの好きならビールが進む一品です。

奥にはテーブル席もあります

 同店は、クラフトビールを提供する洋風パブとして2014年から営業してきましたが、今年5月に大幅リニューアル。内装とともに、メニューや雰囲気も一新しました。「もつ料理の店」をうたい、煮込みのほか、牛ハツ刺し(748円)や豚タン刺し(同)、鶏レバーの低温調理(638円)、センマイとガツの薬味和え(858円)など、肉刺し類もそろえます。

 そのほか、創作料理も充実。「温のあて」の欄に「俺のポテサラ」(748円)がありました。「温かいポテトサラダ?」と疑問に思い、尋ねてみると、谷口さんが「温かいマッシュポテトに刻んだいぶりがっことナッツを混ぜ込み、上にとろーりの卵をのせたものです」と説明してくれました。「牛すじ出汁巻き玉子」(803円)は出汁巻き玉子を入れた器に、牛すじの煮込みをかけたもの。クラフトビールといえば思い浮かぶフィッシュ&チップスはシマホッケとサケの2種類(各858円)あり、衣にあおさを入れ磯辺揚げのように仕上げ、衣にはイーストを入れてふわっと膨らませるそうです。「おもしろそう」「食べてみたい」と思うようなフードが並び、居酒屋づかいもできそうです。

グラスにも描かれているカエルの置物が店のあちこちに
カウンターにもカエルが

 サワーやワイン、カクテル、ハイボールなどクラフトビール以外のドリンクもあります。飲み放題のコースもあり、クラフトビール3杯付きは2800円。カウンターで一人飲みも良さそうですし、フードも充実しているので飲み放題を付けて仲良しグループや職場の宴会にも使えそうです。

住所/札幌市中央区南3条西1丁目3-3 マルビル1階
電話/011・596・0774
営業時間/午後4時~午前0時
定休日/なし
限定ビールやクラフトビールを札幌の〝聖地〟創成イーストで楽しむ~札幌市内ビール巡り㊤ 

「ヨーテイ」中心に クラフト初心者も1杯を気軽に 
CRAFT PUB BRAIAN BREW

狸COMICHIの狸小路側の入り口入ってすぐ、右側にある「CRAFT PUB BRAIAN BREW」

 屋台が軒を連ねるように、和洋中さまざまな飲食店が入居する狸小路2丁目の「狸COMICHI」。狸小路に面した入り口すぐにあるのが、ニセコ町のヨーテイブルーイングを中心に、常時道内の6種類のクラフトビールをそろえる「CRAFT PUB BRAIAN BREW」です。狸COMICHIには、クラフトビールに詳しくない若者も多く来店するため、店長の高橋一生さんは「クラフトビールの入門編として、気軽に利用して」と話します。

(左から)「カタリスト」、「リッジライン」、「エクスペディション」

 昨年9月に醸造を開始したヨーテイブルーイング。ブライアンブルーのオーナーとヨーテイを運営する夫妻の父親が知人同士だったことから、醸造当初からヨーテイのフラッグシップビール3種類を扱っています。高橋さんは「ヨーテイは、バランスのとれたビールが多く、クラフトビール初心者を含め、幅広い人に楽しんでもらえる」と説明します。

 「カタリスト」はベーシックなペールエールで、香りと苦みのバランスが良く、軽い飲み口。「リッジライン」は柑橘系のさわやかな香りが豊かなIPAです。ヘイジーIPAの「エクスペディション」はホップを3種類使っており、複雑な香りとしっかりした苦みを感じられます。M(310ミリリットル)790円、L(380ミリリットル)980円、パイント(480ミリリットル)1200円です。

 このほか、ヨーテイに委託醸造したブライアンブルーオリジナルのビールとして、ローストしたモルトを使い、モルトの甘みが感じられるしっかりした味わいのレッドエール「1st.batch」(M890円、L1080円、パイント1240円)もあります。

 ゲストビールとしては、札幌の「ストリートライトブルーイング」と「トランスブルーイング」、江別の「ノースアイランドビール」の定番や限定を入れ替えて置いており、どの種類が飲めるかはその時々で変わります。10リットルのタップをなくなるごとに入れ替えており、「昼の営業で出ていたビールが、夜にはなかった」ということもあるそうです。

魚のフライ(右)とポテトサラダをセットにした「フィッシュ&クラフトポテサラ」

 フードの人気はなんと言ってもフィッシュ&チップス(M830円、S660円)とフィッシュ&クラフトポテサラ(900円)。マダラのフリットは共通ですが、「チップス」にはごろんとしたポテトフライ、「ポテサラ」にはポテトサラダが添えられます。いずれも3種類のジャガイモを使い、この日は紫色のシャドークイーンとメークイン、北あかり。季節などによって、インカのめざめやノーザンルビーなども使うそうです。

 ヨーテイ3種の飲み比べセット(各150ミリリットル)とフィッシュ&クラフトポテサラをオーダーします。10センチを超える大ぶりなフリットが2切。タルタルソースとカレー風味のソースが添えられています。衣はカリカリ、タラの身はふっくら弾力があって、クリーミーなタルタルとぴったり。カレー風味のソースはぴりっとスパイシーで、飽きません。

クラフトポテサラは自分で好みの加減につぶして混ぜて完成させます

 ポテサラは「クラフト」というだけあって、お客さんが自分でクラフト(手作り)する趣向。ジャガイモとマヨネーズ、ゆで卵をついてくるすりこぎで好みの加減につぶして混ぜ合わせます。ジャガイモは手でほぐして揚げてあるので、端の部分はカリッと、中はほっこり、ねっとり。高橋さんは「その食感を味わうためにも、ざっくりつぶすのがおすすめ」。一口ごとに口に入るジャガイモの種類やパーツが違い、フライドベーコンの塩気とサクサクの食感がいいアクセントになって楽しく食べ進めます。

 ほかに、フードは自家製ピクルス(400円)やレバーパテ(580円)もよく出るそうです。また、ランチの特製カレーライス(800円)も隠れた人気。系列に焼き肉店があるため、肉がたっぷり入り、苦みの強いIPAによく合うそうです。

イギリスのビアパブを思わせるカウンター

 店は狸COMICHI開業とともに、昨年9月にオープン。運営会社は、焼き肉店のほか、桑園や市中心部で計3店のアイリッシュパブを営んでいましたが、狸COMICHIでは、ヨーテイとのつながりができたことで、「クラフトパブ」と銘打ち、クラフトビールに焦点を当てました。

 もともとビールが好きだったという高橋さんは「ワインはボトルを開けなくてはならないけど、クラフトビールはグラス1杯から少しずつ試して楽しめる。気軽に手に取ってみてほしい」と言います。お勧めは?とお客さんに聞かれると、高橋さんは「今日はどんな気分?」と聞くそうです。季節やその時のコンディション、気分によって、いろいろな味を楽しんでほしいからといいます。近年、道内外で急増しているクラフトビール。高橋さんは「いろんな味が増えていくのは、楽しみでしかない」と期待を膨らませています。

住所/札幌市中央区南2条西2丁目5 狸COMICHI 1階
電話/080・4431・8022
営業時間/月曜~金曜正午~午後3時、午後5時~午後11時 土曜正午~午後11時 日曜正午~午後9時
定休日/年末年始

「生産者の顔が見える」1杯を 銘柄多彩に 季節も意識 
カラハナ

狸小路7丁目に面した「カラハナ」。左隣は「リカーズからはな」

 札幌のクラフトビール好きの人にお気に入りの店を尋ねると、相当の確率で名前が挙がるのが、狸小路に店を構える「カラハナ」。国内外のクラフトビールの中から、ラガーやエールといったビールのスタイルやアルコール度数、味わいのタイプなど、特徴の違うものを8種類そろえ、最初から最後までビールで楽しめます。

「パーリーズ ESB」(左)とニューゴールド

 タップにつながれていたのは、新潟や鳥取、米・カリフォルニアなどのクラフトビール8つ。うち1つは必ずサイダー(シードル)を用意しています。イギリスのパブには必ずサイダーがあり、チェイサー代わりに飲む人もいるそう。この日は、米・ミシガンの「JK’s Scrumpy」(ハーフ1100円、パイント1500円)がありました。観光客の多い7~8月は上富良野町の忽布古丹醸造や鶴居村のブラッセリーノット、登別市ののぼりべつ地ビールなど道内のものも置いているそうですが、この日はサッポロビールの「エーデルピルス」(ハーフ600円、パイント900円)がありました。

 目移りするなか、イギリスの「ニューゴールド」(グラス1300円)と米・バージニアの「パーリーズ ESB」(ハーフ1100円、パイント1500円)を頼んでみます。ニューゴールドは白みがかった薄い色で、ワイングラスで提供されました。グラスの縁から花のようなホップのいい香りが立ち上ります。さわやかな口当たりで、酸味があります。店の司令塔(店主)の佐々木大輔さんが「発酵由来の酸味です」と教えてくれました。パーリーズはどっしりとした飲み口で、麦のような香ばしさと少し甘みも感じます。

カラハナのミートパイの中には、スパイスを効かせた豚肩ロースの煮込みがたっぷり

 フードは10種類ほど。その中から店名を冠した「カラハナのミートパイ」(850円)を頼んでみます。きつね色に焼かれ、ふっくら膨らんだパイにナイフを入れると、サクッと音がします。中には小麦のビールとトマトソースで煮込み、ほろほろにほぐれた豚肩ロースがたっぷり。クミンなどのスパイスを効かせてあり、パイ皮のバターの香りとあいまって、ビールが進みます。具の入っていない端のパイ部分もサクサクとしていておいしい。

 「豚肉のビール煮込み」(1100円)も看板メニュー。佐々木さんは「サーバーの管の部分などにどうしてもビールがたまってしまうけれど、それで肉を煮ると、ロスもなくなり、肉も柔らかく、おいしくなって一石二鳥」と言います。煮込み料理に使う場合は、ホップが強めのものではなく、麦の味が強いものや黒ビールが合うそうです。10~11月にはカキのビール蒸しの提供も予定しています。

 フードはほかに、葉キャベツのマリネ(500円)やグリーン野菜のソテー(900円)、そば粉とカボチャのニョッキ(1000円)など、野菜を使ったものもあります。佐々木さんは「店が休みの日に道の駅などに行って買ってきて、季節のものを使います」と話し、メニューはその時々で変えるそうです。レンコンのキッシュ(900円)のレンコンは、レンコンの産地の茨城県土浦まで行って買ってきたものだそう。

カウンターの奥にはテーブル席もあります

 佐々木さんは旅行で行ったイギリスでパブの魅力にみせられ、ビール好きに。ヨーロッパ各地を放浪し帰国後、札幌市内のカフェでベルギービールを飲んで、ますますビールが好きになったそう。店を出す際、当時札幌ではまだ数少なかったクラフトビールを選びました。

 店で出すビールは、海外、国内、道内などあちこちの産地をそろえ、ビールのスタイルやアルコール度数、夏ならスッキリしたもの、冬は少し濃いめのどっしりしたもの…など、幅広いものを置くようにしています。特徴の違うビールを置くことで、ビールの多様な魅力を知ってほしいという思いからです。

 また、直接会って対話した生産者の「顔の見えるビール」を大切にしているそう。佐々木さんは「長年の付き合いのある生産者のビールには、思い入れも深まります」と話します。

缶やびんのクラフトビールを販売している「リカーズからはな」
奥のカウンターでは購入したビールやテイクアウトの樽生ビールを飲むことができます

 今年4月には、空いていた店の隣に国内外の缶やびんのクラフトビールを販売する「リカーズからはな」もオープンさせました。購入した缶やびんのビールや、テイクアウト販売している樽生を、酒屋の「角(かく)打ち」のように、奥のカウンターでスタンディングで飲むこともできます。

 実は、国内外から仕入れるタップの保管場所に困っていたという佐々木さん。店の隣が空いたので、「冷蔵庫代わりに」と借り、余ったスペースを「せっかくだから」と角打ちにしてしまったのだそう。リカーズからはなは午後3時開店。観光や散歩の途中、カラハナの開店前などに立ち寄るのにちょうど良さそうです。

住所/札幌市中央区南2条西7丁目4 狸小路
電話/011・251・1087
営業時間/日曜~木曜午後6時~午前0時 金曜・土曜・祝日前午後6時~午前1時
定休日/不定休
北海道内ブルワリーの直営店でクラフトビールを味わう~札幌市内ビール巡り㊥

世界各地から60種 「自分の感覚で選んで」1杯を味わう 
モルトヘッズ(Maltheads)

ビルの地下にひっそりオープンしている「モルトヘッズ」

 札幌中心部の一見、飲食店が入っているようには見えない静かなビルの地下。「モルトヘッズ(Maltheads)」は、世界各地のさまざまなタイプのビールをそろえた「ビールの幅」を感じられるお店です。売れるたびに仕入れるため、店主の坂巻紀久雄さんは「メニュー表をつくることができない。今あるものがメニュー」と言います。

缶やびんの世界のクラフトビールが楽しめます

 ビールはびんと缶がメーン。入れ替わりはあるものの、60種類程度をそろえています。そのうち国産は2~3割です。アルコール度数が低く、軽快なものやホップが香るもの、苦みの強いもの、フルーツビール、酸味のあるビール、高アルコールのビール…。「品ぞろえは、味の違いや地域、種類を幅広くするようにしています。この幅の広さこそ、ビールの魅力」と坂巻さんは語ります。

 ドイツの「ビットブルガーピルス」は、麦芽100%のジャーマンピルス。日本人にはなじみ深い、ライトな味わいと言います。ベルギーの「リンデマンスカシス」は酸っぱいランピック原酒にカシスシロップを加えた甘いビールで、アルコール度数3%。江別市のノースアイランドビールの「ESB」は「エクストラスペシャルビター」の略。イギリス発祥のペールエールで、酵母とモルトの甘やかな香りが特徴です。アメリカの「ストーンIPA」はアメリカ風ホップの香りがきいているそうです。坂巻さんは「ライト、果物、モルト、ホップとそれぞれ、全然違った味わいや香りがあります」と解説。「お勧めはすべて。見た目や雰囲気など、自分の感覚で選んで」と「ジャケ買い」を推奨します。価格は950~1500円。

札幌に2台しかないという「ハンドポンプ」を操作する坂巻さん

 タップは1種類。のぼりべつ地ビール鬼伝説の「金鬼リアルエール」です。これを、札幌に2台しかないイギリス発祥の「ハンドポンプ」で注ぎます。一般的なビールサーバーは炭酸ガスが生ビールの樽の中のビールを押し出し、冷やされて注がれます。それに対し、ハンドポンプは井戸水のようにポンプでくみ上げて注ぎます。こうして注がれたものが「リアルエール」です。1パイント(473ミリリットル)1200円です。

ハンドポンプで注いだ「金鬼リアルエール」

 フードはサラミやナッツ、チーズなどのおつまみが中心。金鬼リアルエールと、「ゴーダチーズのセロリ塩かけ」をお願いしてみました。金鬼リアルエールは、泡がありません。炭酸ガスによって押し出された「ドラフトビール」に比べて、余計な炭酸が入っておらず、柔らかで芳醇な口当たりです。また、ドラフトビールは炭酸に押されて、氷で冷やされながらチューブの中を通って注がれるので、「キンキンに冷えたビール」と言われるほど冷え冷えですが、リアルエールは口に入った時に、少し冷たいかな、という程度。その代わり、ビールの味と香りがしっかりと感じられます。

 ビールの味に驚きながら、何気なくチーズをつまむと、さらに驚きのおいしさ。坂巻さんは「ベルギーの『セロリ塩』をチーズにかけただけ」と言いますが、セロリ独特の香りがチーズの味をぐっと引き立てています。塩気もいい具合でビールに合います。

店内はカウンター席のみ。メニューはないので、正面の冷蔵ケースを見て選びます

 20年以上もビールに携わる仕事を続けている坂巻さんは2013年にこの店をオープン。合格率4%ほどの「せまき門」の日本ビール検定1級を2年連続で取得しており、「ビアジャーナリスト」としてビールの普及活動をしたり、クラフトビールのイベント「SAPPORO GRAFT BEER FOREST」の実行委員として開催を主導したりと、札幌のビール文化の振興に取り組んでいます。

 そんな坂巻さんは、「札幌を日本のビールの首都に」と訴えています。国内のビール発祥の地の札幌は、北緯43度に位置し、ビールの原料のホップの生育適地。「ビールの都」と言われるドイツ・ミュンヘンや世界で最もビールの醸造所が集まり、「世界のビールの首都」と呼ばれるアメリカ・ポートランドと姉妹都市の関係にあります。坂巻さんは「札幌は、気候的にもビールがおいしく飲めるまち。誇りを持って、ビールの首都と宣言していい」と言います。

 モルトヘッズでは、ビールだけでなくウイスキーも提供します。もともと、シングルモルトウイスキーが好きで、同じモルトを使うビールの世界にも足を踏み入れたという坂巻さん。ホップの香り豊かなIPAを好きな人のことを、「ホップのことで頭がいっぱい」という意味の「ホップヘッズ」と言うのにちなみ、ウイスキーとビール、つまり「モルトのことで頭がいっぱい」の「モルトヘッズ」と名付けたそうです。

住所/札幌市中央区南3条西8丁目7 大洋ビルB1
電話/011・522・5152
営業時間/午後6時~午後11時
定休日/不定休
ビールのまち・札幌を味わおう~「サッポロ・ビア・ホッピング」〈10/6~12/3〉~TripEat公式LINEで「友だち限定サービス」や「スタンプラリー」
ビールのまちさっぽろの魅力再発見「ビールと歴史・文化を味わう観光馬車」 9/7から運行
小川郁子編集長
小川郁子編集長

 苫小牧生まれ、札幌育ち。ビール、ワイン、日本酒、お酒全般、控えめにいって好きです。食べ物の好き嫌いもほとんどありませんが、ウナギやハモ、アナゴなどニョロっとしたものは苦手です。1996年に北海道新聞入社後は、道内各地や東京で1次産業や政治、行政などを担当しました。2023年5月からTripEat北海道編集長。

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