寒くなると恋しくなるサツマイモ。中でも空知管内栗山、由仁の両町の若手農業者でつくる「そらち南さつまいもクラブ」が2017年から栽培し、ブランド化に取り組む「由栗(ゆっくり)いも」は、ねっとり滑らかな舌触りと濃い甘みが特長。担い手を訪ね、おいしい食べ方を聞いた。
サツマイモは収穫までに約2400度の積算温度(日平均気温の合計)が必要で、冷涼な道内で育てる場合、本州より約1カ月ほど長い栽培期間が要る。由栗いもの品種は「紅あずま」で、本州ではほくほくとした食感で知られているが、道内で育てると水分が多くなり、粘質が増す。理由は解明されていない。
「由栗」の名前は、両町名の漢字から取ったほか、土の中で「ゆっくり」育つという意味も込めた。5月中旬に苗を植え、10月中下旬に収穫している。
そらち南さつまいもクラブの一員で、栗山町に住む管理栄養士の井澤綾華さん(31)が自宅でよく作るのは、フランスの郷土料理であるグラタン「ドフィノワ」を手軽にアレンジしたもの=末尾にレシピ=。
皮付きのまま、一口大にスライスした由栗いもを電子レンジで温めて軟らかくしたら、塩と生クリーム、ピザ用チーズをのせ、トースターで焼くだけ。「サツマイモは乳製品と相性が良い。簡単にできるけれど豪華に見えるし、子どもにも好評です」
時間に余裕があれば、電子レンジではなくオーブンで焼いた芋を使うと、よりおいしく楽しめる。
焼き芋の作り方も教わった。まず、オーブンの天板にクッキングシートを敷き、洗ったサツマイモをそのまま並べる。180度で30分間焼き、芯まで熱を通したら、140~160度で1~2時間じっくり焼く。竹串が通るだけではなく、鍋つかみなどで触ってみて、「ふにゃふにゃ」と軟らかくなったらできあがり。
由栗いもは焼くと水分が飛び、皮がパリッと、味も濃厚になり、「本来のねっとり感が最大限に生きる」という。井澤さん宅では規格外の由栗いもを一度に大量にオーブンで焼き、そのまま食べるのはもちろん、サラダや、コロッケ、天ぷらなどにする。「クリームチーズと加熱したリンゴ、塩と一緒にあえるのもおいしい」。食べきれない分は皮のまま冷凍する。
このほか、手軽なおつまみも。一口大に切った由栗いもとオリーブオイルをボウルであえ、トースターの500~700ワットで10~15分こんがり焼いた後、10分間トースター内に放置し、余熱で火を通す。お好みで、蜂蜜、マヨネーズ、塩コショウを混ぜたディップを付けて食べる。
調理せずに保管する際の温度は14度程度が理想。乾燥しないよう、新聞紙にくるみ段ボール箱に入れるとよい。 (有田麻子)
◇
由栗いもは通信販売専用サイトで、5キロ2592円で販売している。
*保存処理技術で増す甘み
由栗いもの甘さの理由の一つに、収穫後の「キュアリング」という保存処理の技術がある。倉庫内で3~4日間、温度30~40度、湿度90%の環境に置き、表面の傷をかさぶたのようにコルク化する。雑菌の侵入を防ぐのみならず、糖度が上がる効果があるという。
今年は20~40代の生産者26人が計8ヘクタールで12万~13万本の苗を植え、収穫量は昨年比約50トン増の約150トンになる見込み。井澤綾華さんの夫、孝宏さん(35)は「気温が高かったためか、今年は大きめで形の良いものが多い」と話す。
農林水産省の2020年の作物統計によると、サツマイモの作付面積は鹿児島県の1万900ヘクタール、茨城県の7千ヘクタールで全国の約半分を占めた。道内は全国のわずか0・07%の25ヘクタールだった。
暖かい地域で生産されてきたサツマイモだが、温暖化の影響で変化の兆しがある。ホクレンによると、23年の作付面積は67ヘクタールと、3年前の2・7倍に拡大した。
道立総合研究機構上川農試の研究主査、野田智昭さん(54)は「九州や関東などの主産地では、病気の発生や生産者の高齢化によりサツマイモの生産が縮小傾向にある。代替地として北海道が注目されており、今後も伸びる余地がある」と指摘する。 (有田麻子)
♢ ♢ ♢
■由栗いものドフィノワ
◇材料(2~3人分) サツマイモ(由栗いも)約300グラム、生クリーム80cc、ピザ用チーズ80グラム、塩ふたつまみ
◇作り方
〈1〉サツマイモは厚さ5ミリの輪切りか、大きければ半月切りにする。耐熱皿に入れ、電子レンジの500ワットで5分程度、軟らかくなるまで温める。
〈2〉〈1〉に塩をふり、生クリーム、ピザ用チーズをかけ、トースターで5~6分、チーズが溶けて焼き色が付くまで焼いたら完成。(井澤綾華さん提供)
(北海道新聞2023年11月16日掲載)
〈旬!を味わう〉秋サケ*ピリ辛キムチ汁で体ぽかぽか*脂控えめ バターと好相性