仁木町唯一のクラフトビールのブルワリー「にきや」は、リンゴやサクランボ、ブドウなどの果樹畑が広がる高台にあります。長年、仁木町で続いていた「観光農園 原田園」を2021年に引き継ぎ、果実やミニトマトを育てながら、クラフトビールの醸造も始めました。現在はフラッグシップ3種類を缶で販売していますが、フルーツ王国の仁木らしく、果物を使ったビールの製造やタップでの出荷も計画しています。
定番は3種、フルーツビールにも挑戦
フラッグシップはペールエールとブラック(ポーター)、ホワイト(ヴァイツェン)の3種類。ペールエールはホップやモルトの豊かな香りが特徴で、きれいな印象です。ブラックはモルトのふくよかさや甘みが感じられ、こくの深さが感じられます。ヴァイツェンは苦みが少なくフルーティーな味わいです。
昨年夏には、自家製のりんごジュースを使ったアップルエールも醸造しました。醸造長の会田宇一郎さん(49)は「せっかく果樹園があるので、今後はいろいろなフルーツビールにも挑戦したい。果物の味がいいので、おいしいビールになると思います」と話します。
自家製ホップを冷凍、年間通じて使用
醸造室には300リットルのタンクが3つと400リットルのタンクが1つ。年間12キロリットルほどを製造しています。取材の日には、ブラックを仕込んで3日目。タンクから延びるホースを伝ってブクブクと空気が吐き出されており、酵母が生きていることが実感できます。
ホップも自家製を使うのが、にきやのこだわり。畑で栽培するほか、来た人が見えるように、駐車場の横にも誘引用の支柱を立てて育てています。とはいえ、ホップの収穫時期は8月の1週間ほどと短い間しかありません。そこで、にきやでは小分けにして冷凍し、ペレット状のホップと併用しながら年間通して自家製ホップを使っています。
実は会田さんは、今年1月に醸造長に着任したばかりです。それまでは、小樽ビールで創業以来、ビールの醸造に携わってきました。会田さんのビール醸造の師匠は、小樽ビールの醸造責任者でドイツ人のヨハネス・ブラウンさん。ブラウンさんはビール職人のドイツの国家資格「ブラウマイスタ-」より上位で、ビールの醸造やビール工場の設計、マーケティングなどを担うドイツの国家資格「ブラウエンジニア」を持っており、会田さんはブラウンさんから醸造技術やビールについての知識など、さまざまなものを教わったそう。
小樽ビール銭函醸造所の勤務経験もあり、1日8000リットルものビールを製造したこともありましたが、「小規模なブルワリーで、さまざまな挑戦をしてみたい」とにきやに入りました。今は、発酵が進むと麦汁の上部に酵母が浮き上がる性質の酵母を使った「上面発酵(エールタイプ)」のビールを醸造していますが、今後は発酵とともにタンクの底に酵母が沈む「下面発光(ラガータイプ)」のビールも手がけたいと考えています。「タンクが小さく、発酵の様子も手に取るようにわかりやすくて手作り感が楽しい」と話します。
BBQ提供や販路開拓にも意欲
にきやは果樹園に隣接しており、6月下旬のサクランボ狩りを皮切りに、さまざまな果物狩りも実施しています。約7ヘクタールの果樹園では、リンゴやブドウ、プルーンも栽培しており、併設した売店で販売もしています。ハウスでは、ミニトマトやトウモロコシも育てており、これも購入できます。
今夏には、醸造室の入る建物をリニューアルし、バーベキューの提供も始める計画です。もちろん、にきやのビールをタップで提供します。会田さんは「今は缶での販売がメーンですが、やはりグラスで飲んでほしい。香りや口当たりはグラスで変わるし、見た目から感じるおいしさもあります」と楽しみにしています。
また、現在にきやのビールを購入できるのは、インターネットや土産物店数店と限られており、会田さんは「札幌の飲食店などにもタップで提供できるようにしたい。仁木には、フルーツとワインだけでなく、ビールもあるということを知ってほしい」と販路開拓にも意欲をみせています。札幌など道内の飲食店で、にきやのビールを飲める日も近いかもしれません。
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北海道では近年、クラフトビールのブルワリーが急増し、各地で毎年、新しいクラフトビールが誕生しています。単なるブームではなく、ワインでいえば「テロワール(風土)」を生かしたその土地ならではのビールが地域の人々に迎え入れられています。各地のクラフトビールの醸造所を訪ね、つくり手の情熱や思い、ビールのおいしさを伝えます。