肉や魚、乳製品などの動物性食品を摂らない、完全菜食主義の「ヴィーガン」。実践する人は欧米を中心に多く、インバウンド(訪日客)の増加に合わせ、札幌市内のヴィーガンレストランやカフェにも多くの客が訪れています。専門店を取材すると、ヴィーガンの一語ではひとくくりにできない多彩なメニューがありました。菜食は質素で物足りなさそうと感じる方も、試す価値ありです。
目次
ピザやザンギも⁉ すべて「プラントベース」
Veggy Way
肉や魚介類、乳製品などの動物性食品はもちろん、ニンニクやネギといった「五葷(ごくん)」と呼ばれる強い匂いの野菜も使わないオリエンタルヴィーガンの店「Veggy Way(ベジウェイ)」。それでいて、パンチとボリュームのある創作料理が自慢です。
ラーメンやザンギなどヴィーガンのイメージとかけ離れたメニューもすべて、植物由来の原材料で作る「プラントベース」。オーナーシェフでパティシエの安藤夏代さん(58)が「ヘルシージャンク」と称するように、罪悪感なしで存分に楽しめます。五葷の不使用は中国の食医学に基づいており、健康や栄養価についても考え抜かれています。
「米粉のヴィーガンピザ」(2200円、サラダ・クラフトコーラ付き)の特徴は、カシューナッツで作るチーズクリームに濃厚なこくがあること。自然の甘みをぐんと引き出したトマトソースや、ふわふわの食感の米粉生地とよく合います。スパイスの香りやショウガの辛みが程よく効いたクラフトコーラは、甘さがありながらもすっきりとした後味です。
「ザンタレボウル」(1580円)も人気。半日かけて下味をしっかりと染み込ませた大豆ミートをカラッと揚げ、肉と間違えるほどのうま味があります。もっちりとした発芽発酵玄米は滋味深く、甘酢だれをかけて味変したザンギとの相性は抜群。サラダには無農薬栽培や有機栽培の野菜を中心に使います。
安藤さんは菜食歴20年以上。自身の体調が良くなった実体験もあり、「食の制限がある人だけでなく、誰にでも満足してもらえる菜食をもっと気軽に味わってほしい」と2017年に店を構えました。「見た目も重視し、心豊かによりおいしく栄養吸収できるよう工夫しています」と話します。プラントベースの良さを全国へ発信しようと、オンラインスクールも開いています。
住所…札幌市中央区大通西27丁目2-3、円山桂和West27 1階 |
電話番号…011・624・7632 |
営業時間…午前11時30分~午後6時(L.O. 食事:午後5時、スイーツやドリンク:午後5時半) |
定休日…無休 |
Instagram @veggy_way |
野菜のおいしさと美しさをフレンチで
L’Espérance
野菜のおいしさと美しさを堪能できるヴィーガンのフレンチレストランが「L’Espérance(レスペランス)」です。オーナーシェフ白山将さん(39)が「すべての野菜が主役。調和があれば、野菜だけで十分においしい」と話す通り、それぞれの野菜の良さを存分に引き出しながら、一体感のある一皿を作り上げます。
道産のオーガニック野菜を中心に使い、その日の入荷食材により、ランチ(3960円)は5-6皿、ディナー(7480円)は7―8皿でコースを構成。取材した日のランチコースの一部を紹介します。
まず、緑の野菜が真っ白な皿に映える一品。アスパラやスナップエンドウなどは最適な塩加減と歯触りになるようにゆで、キュウリは皮を丁寧に外してくせをなくします。タマネギの甘みを生かしたソースは、ほのかに酸味もまとい、どの野菜とも相性抜群。マッシュポテトもいいアクセントです。
次はラタトゥイユ。ナスやズッキーニ、パプリカなどをそれぞれ焼いたり、トマトを湯むきしてワインビネガーに漬けたりした後、最後に合わせてフワッと火を通します。野菜のフレッシュ感やジューシーさがたまりません。
デザートは、豆腐とレモンの爽やかなソースが載ったスペルト小麦のケーキ、豆乳使用のヘーゼルナッツガナッシュなど趣の違う4点を満喫できました。
6月から新たな試みとして、要望があれば、一部の料理に魚介類を使っています。「ヴィーガンとノンヴィーガン(ヴィーガンではない人)が心おきなく一緒に食事を楽しんでほしい」と白山さんが考えたからです。
自身は15年ほど前からヴィーガンである一方、接客を通し、ヴィーガン食を選択する人の中には複雑な思いや事情があることも感じ取ってきました。「どちらの食生活も認め合い、テーブルの上のひとときが誰にとっても平和でありますように」。白山さんの温かな気持ちにあふれる店です。
住所…札幌市中央区南1条西22丁目1ー7 裏参道テラス1階 |
電話番号…090・5988・5984 |
営業時間…ランチ(水・土曜のみ)午前11時~午後3時(L.O.午後2時)/ティータイム(火・木・金曜のみ)午後3時~5時/ディナー午後6時~同10時(L.O.午後8時) |
定休日…月曜と第1・第3・第5日曜 |
Instagram @lesperance.sapporo |
自社栽培の「潮麦」をベースにラーメンや焼き菓子
SALLOGA
紋別とスコットランドに自社農園を持ち、野菜や穀類の栽培から手掛けるヴィーガンカフェ「SALLOGA(サロガ)」。オーナーの春山亜季子さん(49)が「潮麦」と呼ぶ二条大麦が、この店の料理の根幹を担います。スコットランドで海風を浴びて育ち、ミネラル豊富で栄養価が高いそう。米や小麦に比べて腹持ちがよく、デトックス効果で腸内環境の改善につながるのも魅力です。
その潮麦を麺、スープ、具のすべてに生かしているのが、「ヴィーガンみそラーメン」(1600円)。スープは、潮麦から作った麹と大豆を3年間熟成させたみそをベースに、昆布とシイタケのだしを合わせています。こく深く、潮麦と道産小麦を配合した喉越しの良いちぢれ麺によく絡みます。ニンニクの香りも食欲をそそります。季節ごとに様変わりする具材の野菜も盛りだくさん。具材の一つ、潮麦のそぼろは潮麦を蒸して味付け。ひき肉と錯覚するような食感です。
食後には「熟成豆腐のベイクドチーズケーキ」(650円)をぜひ。低温で発酵させた木綿豆腐にカシューナッツ、レモン果汁などを加えた生地を焼き上げると、クリームチーズのような濃厚なうま味が生まれます。潮麦粉と米粉を生地に使った焼き菓子や、潮麦を手軽に食べられる雑穀ミックスなども販売しています。
20代から菜食を実践している春山さんは、東京でカフェやレストランを経営する中で、「いい食べ物が人生を良くする。自分の手で原材料から作りたい」と決意。35歳で北海道へ移住して自然栽培農業を続けながら、ヴィーガン料理店を構え、オーガニックやヴィーガンの良さを前面に打ち出してきました。
今年2月に店名やメニュー構成を変えてリニューアルオープン。「ヴィーガンの敷居を下げ、どんな人にも気軽においしく食べてもらえるように」と目指すからです。原材料の栽培から加工販売までの6次化として、潮麦のみそやしょうゆの製造、販売も進めています。
住所…札幌市中央区南2条西23丁目2−1 |
電話番号…011・676・8436 |
営業時間…午前11時~午後4時(L.O.午後3時)。午後5時~9時は予約営業 |
定休日…月~水曜(別のヴィーガン料理店が間借り営業) |
Instagram @salloga.sapporo |
工夫を凝らして食感やこくのある味わいを
俊カフェ
詩人の谷川俊太郎さんの詩集や絵本、エッセイなど800冊超の書籍が並ぶ「俊カフェ」。谷川さんの作品をこよなく愛するオーナー古川奈央さん(55)が、谷川さん本人から公認を得て開いた私設記念館です。谷川さんの世界に浸りながら味わえるのは、グルテンフリーでもあるヴィーガンスイーツ。ヴィーガン食を20年近く続けているスタッフの堀美穂さん(44)が、メニューを考案しています。
おすすめは「ココアパフェセット」(1500円)です。豆乳や米油などを使ったココアアイス、ホロッとした口溶けの米粉生地のスノーボール、カリッと香ばしいクルミのキャラメリゼなど、さまざまな食感をトッピング。寒天や片栗粉でプルンとした舌触りを出したココアプリンと、豆乳のカスタードクリームがきれいな2層の土台になっています。「塩味を少し加えて甘さを引き立たせたり、きび砂糖やメープルシロップを使ってこくを出したりと、工夫を凝らしています」と堀さん。
二つの味を楽しめる「豆乳ヴィーガンアイスセット」(1100円)は、抹茶やバニラのほか、香りがすがすがしいフレッシュミント、ラムレーズンなどが登場する日もあります。テイクアウト用の焼き菓子(400ー500円)も販売。ドリンク(各800円)にはクッキーが付きます。飲み終わった後、マグカップの底に谷川さんの詩が現れるのもユニークです。
俊カフェが2017年にオープンした当初、ヴィーガンメニューはありませんでした。ヴィーガンやグルテンフリーを取り入れた理由について、堀さんは「食の制限や好みに関係なく、みんなでおいしく食べて笑顔になれるのが理想」と話し、ラインアップを増やしています。「ヴィーガンカレーの日」を不定期で開催する計画もあります。
住所…札幌市中央区南3条西7丁目、KAKU IMAGINATION 2階 |
電話番号…011・211・0204 |
営業時間…午前11時~午後6時(L.O.午後5時半) |
定休日…火曜(祝日の場合は営業、翌水曜休み) |
Facebook https://www.facebook.com/shun.T.cafe |