余市町内のワイナリーやヴィンヤードを巡りながら、余市、仁木両町のワインを味わうイベント「ラフェト・デ・ヴィニュロン・ア・ヨイチ(農園開放祭)2024」が9月1日(日)、ワイナリーが集積する余市町登地区で開かれ、TripEat北海道編集部のメンバー有志で参加しました。ワイナリー・ヴィンヤードと、フードやジュースを提供するブース、キッチンカーなどが出店し、過去最高の1500人がワインと食を楽しみました。
目次
「ドメーヌユイ」のブドウ畑で味わう絶品ワイン
ワイナリーなどでつくる実行委員会と余市観光協会が主催。登地区の14カ所に、ワイナリー・ヴィンヤードが44、フードやジュースなどを販売するブース、キッチンカーが32、出店しました。3000円のチケットを購入すると、グラスやバッジ、グラスホルダーをもらうことができ、1杯(30ミリリットル)200~400円程度のワインを各ブースで購入する仕組みです。
受け付けを済ませ、「ドメーヌユイ」に向かいます。昨年は、人気の「ドメーヌ・タカヒコ」でスタート直後に大行列になっていたので、混雑を避ける作戦です。この日だけ特別に、ユイのブドウ畑の中を歩くことができます。きれいな畑を眺めながら到着すると、ジャズバンドが演奏していました。生演奏をバックにワインを飲めるなんて、ぜいたくです。
ここにはドメーヌユイのほか、「Domaine Bless」(仁木町)と「登醸造」、「モンガク谷ワイナリー」が出ています。最初の1杯は、泡かさっぱりした白がいいな、と思っていましたが、飲んだことがないワイナリーをチョイス。登醸造の赤「セツナウタ2022」にします。
編集部メンバーもそれぞれワインを購入し、ブドウ畑に近いところに移動して、乾杯!。この日の余市は晴れ、最高気温は27.5度。ただ、空にはうろこ雲が広がり、時折風も吹く気持ちのいい天気です。青空の下、ブドウ畑を見ながらの乾杯は最高です。セツナウタはツヴァイゲルト100%。徐梗し、破砕した果実を漬け込んだ「醸し」と搾汁した果汁を50対50でつくるのを基本としていますが、22年は醸し48%、搾汁52%だそうです。酸化防止の亜硫酸は不使用です。ちょっと薄めの赤色で、柔らかい飲み心地、するっと飲み干してしまいました。
「ランセッカ」でヤギを見ながらお得な1杯
登地区内を巡る循環バスは5分間隔で運行しており、地区内3カ所あるバス停から、14カ所の出店ポイントを歩いて回ります。バスに乗り込み、「楢の木台エリア」の「ランセッカ」を目指します。ちなみに、ランセッカの「ラン」は楽しさを表現する「ランラン」から、「セッカ」は雪の結晶や雪が降るのを花にたとえた「雪華」を合わせたそうです。
ランセッカでは、赤「コヤチ パストゥグラン」など8種類のワインを提供していました。白の「蛙鳴千草(あめいせんそう)」を選びます。ゲヴュルツトラミネールとケルナー、セミヨンを使っているそうです。香りが豊か、一口目には優しい甘みがふわっときて、さわやかな酸味もあります。うーん、おいしい。
畑の片隅には、ヤギが2頭。一生懸命草を食べています。なるほど、彼らがいれば、除草剤を少なくできそうです。
ランセッカでは、ものすごいサービス品がありました。2023年の微発泡「早花咲月(さはなさづき) ORANGE」をセルフで注ぎたいだけ注いで、200円。泡を付けるためのびん内2次発酵がうまくいかず、酵母が働く前に乳酸菌が活動してしまってできた多糖類が影響し、とろみが付く「糸引き」が発生しており、「とろみもあって、泡もある」状態です。でも、そのとろみが独特の口当たりで、まろやかさとさわやかな酸味、弱めのシュワシュワ感で、暑い時期にはぴったり。遠慮なく、たっぷり注いで次に向かいます。
和食に合う「ドメーヌ・モン」のワインで乾杯
約350メートル歩き、次は「ドメーヌ・モン」。ブドウ畑には、黄色地に青色が染め抜かれたラフェトの横断幕がはためいています。ここには、余市駅前の「かくと徳島屋」が出店しており、女将の当宮益子さんと手伝いに来ていた娘の千聖さんにごあいさつ。ワインのお供が6種類入ったオードブルと、モンのフラッグシップ「ドングリ」に絶妙に合うという「雲丹豆腐」を購入します。
徳島屋は今年、創業100周年を迎えました。1924年(大正13年)に現在の大将の当宮弘晃さんの曽祖父が徳島県から余市に入って開いた「かくと徳島屋旅館」が始まり。弘晃さんは京都の老舗料亭「本家たん熊」で腕を磨き、本格的な味を提供しています。現在は食を中心に、地元産の素材を使い、地元のワインとも合う料理が評判になっています。
ドメーヌ・モンの名前は、代表の山中敦生さんの名字の山のフランス語「モン(Mont)」、エチケットに使っている家紋の「モン」、研修をしたドメーヌ・タカヒコの門を出た、ということからとったそうです。ワインはもちろん、ドングリ2022を選びます。
それぞれ好きな銘柄を選んで、乾杯です。オードブルには、優しい味付けの夏野菜のラタトゥイユや、刻み青じそをたっぷりのせた鶏ささみフライ、トウモロコシソースを添えたカボチャ、赤じそを味付けした自家製のゆかりのかかったご飯などが詰められています。ラタトゥイユやフライが赤ワインに合うのは一目瞭然なのですが、意外なのが、刺身の漬けや雲丹豆腐、タラコソースを塗ったバゲットなど、魚介にもぴったりなこと。普通のワインなら生臭さを感じそうなのに、ワインのうまみや繊細さが魚介のうまみに重なって、生臭いどころかベストマッチです。
想定していたことですが、ワインが進みます。ここにはヴィンヤード「安芸農園」も出店しています。いずれもドメーヌ・モンが醸造した、同農園のピノノワールを使った赤「ピノノワールAK2022」はだしのようなうまみが感じられ、同農園のケルナーを使った白「モンブランAK2022」は香りがとても華やか。立て続けにグラスが空きました。
ドメーヌ・モンの約140メートル先に出ていた「Cave d’Eclat(カーヴデクラ)」では、4種類のワインを提供していました。代表の出蔵哲夫さんはソムリエ出身で、生産者に転身。名字をそのままとったのかと思ったのですが、フランス語の輝きやきらめきという意味の「Ecla」から、輝きあふれる農産物をカーヴから送り出すという願いを込めたそうです。
出蔵さんが「本数が少なすぎて、エチケットをつくるまでもなかった」というほど希少な赤「プレフェス2021」を選びました。ピノノワールとシャルドネ、ゲヴュルツトラミネールでつくられています。モンに戻る途中、歩きながら飲んでいたら、着く前にグラスが空いてしまいました。
「North Creek Farm」の新たな挑戦!今秋、自社醸造スタート
バス停のある「ヒロツヴィンヤード」に戻ります。ここにもワイナリーやフードブースが出店しています。「North Creek Farm」がありました。仁木町に移住してブドウを栽培している鈴木正光さん、綾子さん夫妻が「ドメーヌ・ブレス(昨年までは、ル・レーヴ・ワイナリー)」(仁木町)に委託醸造しています。正光さんは「実は、先週金曜日(8月30日)に、酒造免許が下りたんです。これから収穫するブドウで、初めて自分たちでワインを造ります」とうれしそうに教えてくれました。
歩いて来てのどが乾いていたので、白「Ecru Field blend 2023」をいただきます。ピノ・グリやゲヴュルツトラミネール、ケルナーにピノ・ノワール、ソービニヨンブラン、メルロー、リースニングを入れた混醸です。昨年飲んだ時には、さわやかな酸があるフレッシュな印象でしたが、今年はまろやかでこくがあり、フルーツ感のある複雑な味わい。来年がとても楽しみです。
「ニッカ余市ヴィンヤード」はニッカウヰスキーの子会社で、2018年から「NYV(エヌ・ワイ・ブイ)」の銘柄でワインをリリースしています。社長付の山本信明さんは30年ほど前から余市町梅川町でブドウを栽培していましたが、02年ころにいったん中断。17年から栽培を再開したそうです。2種類の銘柄を出しており、いずれも白のスティルとスパークリング。スティルはケルナー100%、フルーティーでフレッシュな酸が特徴で、スパークリングはピノ・ノワール100%でやわらかな酸と厚みのある味わいです。
バスでニトリ観光果樹園に戻り、ドメーヌ・タカヒコを目指します。観光果樹園の駐車場には、ピザやハンバーガー、クレープなどのキッチンカーがたくさん並んでいました。
丘を下っていくと、「Misono Vineyard(ミソノヴィンヤード)」が出店していました。お昼過ぎで日差しが強く、スパークリングが飲みたい気分です。白泡の「Niagara2023」をお願いしました。ナイアガラの香りも高く、さわやかな味わいです。
「エチケットのカバの絵、かわいいですよね」とスタッフに話しかけると、「実はカバではありません」と意外な答えが返ってきました。なんと、「幸せな謎の青い動物」なんだとか。確かに、背中や頭の上にワインを乗っけて、幸せそうではありますが、やっぱりカバに見えてしまいます。
「ドメーヌ・タカヒコ」で味わう4種類の厳選ワイン
この日だけ特別に、タカヒコのブドウ畑の中を歩くことができます。草を踏みながら歩いて行くと、ドメーヌ・タカヒコのブースに到着です。年代物の農機の上にずらりと並んだ「ナナツモリ」のボトルが出迎えてくれます。
提供していたワインは4種類。フラッグシップの「ナナツモリ ピノノワール2022」と赤「ヨイチノボリ パストゥグラン2022」、余市町内限定の白「ヨイチノボリ ナカイブラン2023」と赤「ヨイチノボリ オーリー2022」です。
まずは、白から。ナカイブランは中井農園のケルナーを使い、ラフェトの時だけ、販売されます。グラスを顔に近づけると、フルーツのような華やかな香りとまろやかな優しい香りが立ち上ります。口に含むと繊細な味わいです。
次も余市町内限定の赤オーリーは、生産本数400本。樽熟成で生じたおりを集めて再度おりとともに熟成し、上澄みのみをびん詰めしているそうで、上澄みとはいえ、やや濁っています。飲んでみると、おいしい!うまみや香りが凝縮されており、「だし感」たっぷりです。おいしさに感激していましたが、オーリーの名前はフランス語で「おり」を意味する「Lie(リー)」からきていて、「O-Lie(オリ)」は、だじゃれだとか。
やっぱりフラッグシップも飲んでおかなくては、ということで、ナナツモリもいただきます。ピノノワール100%で、代表の曽我貴彦さんが言う「だし感」たっぷりのうまみがあります。曽我さんはいつも、「寺社仏閣の裏山の森の中や梅、マツタケ、トリュフ、かつお節、クローブ、白檀などさまざまな香りが混ざり合っています」と説明します。2022年のヴィンテージで、曽我さんが「最低3年は置いて飲んで」と言うように、酸を感じ、まだ若い印象です。
もちろん、4種類制覇します。パストゥグランはピノノワールに力強い骨格と豊かな果実味のあるツヴァイをブレンド。「複雑で立体的な森の香り」と言われており、心地よい苦みと強いうまみがあり、飲み終わった後も余韻が残るワインです。
提供されていた4種類を飲んだ後、名残惜しくて、オーリーをもう1杯いただいて、次を目指します。歩いていると、ドメーヌ・タカヒコグッズを販売しているブースがありました。エチケットに使われているマークをあしらった日本手ぬぐいやバッジ、トートバッグなどが売られています。実は、ラフェト会場でこのトートバッグを持っている人を見かけたほか、曽我さんの頭に巻かれていた手ぬぐいの柄がこのマークで、気になっていました。この日から販売開始で、現在は余市駅前の雑貨店「LOOP STYLE」で取り扱っているそうです。同店のオンラインストアでも購入できます。
「ドメーヌ・アツシスズキ」でキュヴェを味わう
南に向かって歩いて行くと、「ドメーヌ・アツシスズキ」に到着です。白「薄橙(うすだいだい)2022」をいただきます。ミュラー・トゥルガウやケルナー、バッカスを使用。色は淡く、さらりとした口当たりで、酸味はありますがとがっていないのですが、味はしっかりめ。見た目とちょっとギャップがあります。
もう1杯、赤「Tomo Rouge Cuvee 18」を。ヴィンテージは2022年です。ツヴァイゲルト100%で、樽熟成の最中に味わいのいいワインを選別したものです。比較的どっしりした味わいですが、もっと年数を置いて飲みたい気もします。
この時、午後1時半すぎ。ラフェトは9時半スタートで、4時間ほどが経っています。その間に、抜栓して空いたアツシスズキのボトルが並べてありました。50本ほどでしょうか。人のことは言えませんが、みなさん、いい飲みっぷりです。
「MARUMEGANE」の「不安多」の秘密
ここには「MARUMEGANE(マルメガネ)」(仁木町)も出店しています。ケルナーと、一緒にいた編集部スタッフにはデラウエアを注いでもらいました。飲みながら、代表の大野崇さんに、気になっていたことを聞いてみました。ナイアガラとツヴァイゲルトレーベ、少量の山ブドウでつくったという2023年の白の微発泡のエチケットは、いつものように大野さんがモデルになった馬のイラストでしたが、ちょっと困った顔をした馬の下に「不安多」と書いてありました。
これまで、ドメーヌ・イチに委託醸造しており、2023年から自ら醸造を始めたマルメガネ。「だから、初リリースとなる2023年ヴィンテージは『不安が多い』ってことですか」。大野さんが答えてくれました。「いやいや、違うんです。味がファンタに似ていたので、不安多(フアンタ)なんですよ」。なるほど!フルーティーでさわやかな、飲みやすい味わいでしたが、まさかファンタとは。大野さんは「実はそれなりに自信を持ってリリースしているから、『不安』ではありません」と、私の勘違いを笑ってくれました。そうですよね、これだけおいしければ、「不安が多い」ことはないと思います。
自然との共生が生む「余市エコビレッジ」のおいしいワイン
「木村農園」には、「余市エコビレッジ」が出ていました。自然と人が共存できる暮らしを目指し、体験学習や研修プログラムを実施しているNPO法人北海道エコビレッジ推進プロジェクトの農園で育てたブドウで、登醸造に委託醸造しています。ワインは微発泡のロゼで、すっきり辛口。飲みやすい素直なワインです。
「じき」もありました。じきはオーガニックにこだわってブドウや農産物を生産しており、2019年から10Rワイナリー(岩見沢市)でワインを醸造しています。23年までは自分たちで育てたブドウに、一部は余市エコビレッジから購入した葡萄を使ってきましたが、24年からは自家栽培のブドウだけで醸造できる見通しとのこと。白「環(めぐる)2022」はシャルドネとソービニヨンブラン、ピノブランが使われ、トロピカルフルーツやハチミツなどの香りがあって優しい味わいです。
「アリマックス」は今年5月に赤「SNOW ROVER 2022」を初リリース。10Rワイナリーに委託醸造し、「ピノノワール」は1200本、ツヴァイゲルトレーベを主体にした「ルージュ」は800本のみです。銘柄名の「ローバー」は火星を探索している「マックス・ローバー」からきていて、雪が降るワイン産地の余市のワインの可能性をさまざまな角度から探っていこうと名付けたそうです。エチケットの曲線は、雪に付いたわだちをイメージしています。ピノノワールは、すっきりした酸と果実味があり、初リリースとはいえしっかりした安定感があります。
木村農園には、余市町のシカ肉販売店「EBIJIN」も出店していました。シカ肉のローストをワインのお供にします。固いところや筋はない赤身で、ジューシー。くせや匂いはありませんが、シカ肉の滋味深さが味わえます。
冷凍サクランボと味わう「才川農園」のワイン
才川農園では、同農園のブドウを使ったワインを販売していました。「LOWBROW CRAFT」の「ASHIMOTO WO MIRU」シリーズの赤「Lady sniff」を選んでみます。このシリーズは、エチケットに個性あふれる足下のイラストを使っており、ケルナー100%は子どもの足、ピノグリ100%はデニムをはいた男性の足、そして才川農園のピノノワール100%はハイヒール、ミニスカートの女性の足が描かれています。「sniff」は英語のスラングで、「軽蔑や不満で鼻を鳴らす」という意味。ワインの味は、ネーミングに反して穏やかで、飲みやすい仕上がりです。
冷凍サクランボも購入し、ワインと一緒にいただきます。小粒の水門はさわやかな酸っぱさ、大粒の南洋は甘くてジューシー、黒っぽい紅さやかはねっとりとしています。冷たさと、サクランボのさわやかさで生き返った心地です。ここで、午後3時すぎ。そろそろ戻らなくてはなりません。そういえば、昨年も最後に才川農園で冷凍サクランボを食べて締めたのでした。
この日、札幌市内の自宅を出てから帰宅するまでに歩いたのは、1万8000歩余り。5時間半ほどで飲んだのは、合わせてボトル1本ちょっとですが、水をたくさん飲んで、たくさん歩いたからか、家に帰るころにはスッキリでした。
ラフェトはフランス語で「お祝い」を表す言葉。ワイナリーやヴィンヤードの関係者がブドウ収穫前のこの時期、「ワインとブドウがつくられている産地に来てもらい、つくり手と飲み手が一緒に楽しもう」と手弁当で運営してくれています。
初開催は2015年。20、21年は新型コロナの影響で中止しましたが、22年は400人限定で再開。昨年は1200人、今年は1500人と規模が拡大されています。大人気のイベントで、6月25日にインターネットでチケットを発売したところ、3分ほどで売り切れ。道外から来る人も多く、航空券や宿泊付きのツアーもあっという間に売り切れます。人口約1万8000人の余市町に、その10分の1ほどの人が訪れるイベントになっており、人気はとどまるところを知りません。
ワイナリーやヴィンヤードの関係者、ボランティアの町の人たちも総出で運営してくれて、開かれているラフェト。テントの設営、バスの誘導、道案内、ごみの片付けなど、みんな笑顔でてきぱきと対応してくれて、頭が下がります。高速バスやJR、観光バスなどの余市までのアクセス、ワイナリーを巡る参加者の交通安全対策、運営するスタッフの負担など、課題はありますが、参加者も運営してくれる人たちへの感謝やワインを愛する気持ちを大切に、一緒に支えていきたいと思いました。