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十勝に56年ぶりに誕生
帯広市にある相澤ワイナリーは、十勝管内で実に56年ぶりの新ワイナリーとして2019年に誕生した。池田町の十勝ワインが1963年に誕生してから60年近く。道産ワインの草分けとして歴史を刻む十勝だが、果樹栽培が盛んな道央圏などと比べ、後に続くワイナリーがなかった。
山林とヤマブドウを守る
営むのは、相澤一郎さん(40)、理奈さん( 39)夫妻。「山林とヤマブドウが大好き」という相澤さんの父親が不動産業の傍ら1998年から始めたヤマブドウ栽培を、「いつかワインを造りたい」との思いと共に引き継いだ。
地元企業に勤める会社員だった相澤さん。「虫が嫌いで、土いじりにも全く興味はなかった」が2015年から週末、スーツを脱いで太陽を浴びながら父親の畑仕事を手伝うようになると、「面白かった」。翌年、ワイナリーを始めるために仕事を辞めたが、「ためらいは全くなかった」と振り返る。
農薬も化学肥料も使わず、自然のままに
とは言え、全くの素人。岩見沢市のワイナリーで研修させてもらうなど「とにかく必死で勉強した」
帯広市、幕別町、大樹町にある計5.5ヘクタールの自社畑は、いずれも山林を切り開いた。圃場の周辺には木を残し、できる限り自然に近い状態の中で、農薬も化学肥料も使わず、益虫の力を借りながら、ブドウの樹を育てている。
品種は、今はジュース用にしているヤマブドウの他は、十勝ワイン(池田町ブドウ・ブドウ酒研究所)が、ヤマブドウとワイン用ブドウを交配して開発した耐寒性品種の「山幸」と「清舞」。寒くて欧州系品種はできないが、「寒さ故に病気や害虫が少ないことが付加価値になる」と思っている。野生酵母を使い、酸化防止剤も必要最低限しか入れないナチュラル(自然派)ワインのため、「香りがものすごく華やか」なのが特長だ。
「完璧な選果」で、ブドウを房ごとタンクで発酵
ブドウを破砕せずに房ごと二酸化炭素と一緒にタンクに入れて発酵させるマセラシオン・カルボニック法を取り入れ、さらに、そのまま酸素に触れさせないよう最大40日間置く。このため、フルーティーな味わいと、芳醇な香りに仕上がるという。 40日もの長期間置けるのは、収穫時に徹底して損傷した実や、病気や害虫による被害を受けた実をえり分ける「完璧な選果」が可能にするという。「1日頑張っても1人40キロしか収穫できない手間がかかる作業」だ。
〈編集長の北海道ワイナリー巡り〉②山﨑ワイナリー(三笠市)農村の四季をワインボトルに詰める
ワインのまち目指し、「良いブドウと良いワインを造り続ける」
最近ようやく仕事も効率良くできるようになってきた。「自分が成功してモデルケースになれば、他にもワイナリーを始める人が出てくるかもしれない」と波及効果に期待を寄せる。
そうすれば、十勝全体が「ワインのまち」になって、地域が活性化していくはず。豊かな畑作地帯が広がる十勝だが、山林はまだまだある。何より、日本中がうらやむ「食」が十勝にはある。「ポテンシャルはある。そのためにできることは、良いブドウ、良いワインを造り続けることしかない」
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<相澤ワイナリー(あいざわ農園)>帯広市以平町西9線21の1。オンラインショップで販売している。HPは、https://aizawanouen.com/
北海道にあるワイナリーは53を数え、今やワインの一大産地となっています。地形や気候、積雪量の違いなど、生産者たちは地域ごとのテロワール(風土)を生かし、時には自然と戦いながらブドウの樹を育て、ワイン造りをしています。
人とブドウの生命力が勝ち取った「命の恵み」でもあるワイン-。 そんなワインを生み出す北海道のワイナリーを編集長の山﨑が巡ります。
(※記事中の情報は記事公開当時のものです)