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2022.07.08

〈編集長の北海道ワイナリー巡り〉⑥めむろワイナリー(芽室町) 農業人の夢が生んだ「畑ごとのワイン造り」

山﨑真理子
山﨑真理子

 北大水産学部時代に1年間、練習船に乗って遠洋航海に出ていた船乗り。北海道新聞社に入社後は、社会部の警察担当を振り出しに、網走、帯広、釧路など道内各地で勤務。東京勤務時代は政権交代時の民主党の番記者として、鳩山政権誕生を取材した。2022年4月にTripEat北海道を立ち上げ、初代編集長に就任。千歳支局長を経て、24年3月から旭川報道部長。

「めむろワイナリー」が生まれた芽室町の肥沃な畑作地帯をバックに置かれた1杯のワイン
肥沃な畑作地帯が広がる芽室町に生まれた「めむろワイナリー」

畑作農家が夢見たワイナリー

ブドウ畑にたたずみ、ブドウを手にするめむろワイナリー社長の尾藤光一さん
人を集め、地域を活性化させるワイン造りを目指す尾藤光一さん

 肥沃(ひよく)な畑作地帯が広がる十勝・芽室町の畑作農家たちが2020年、めむろワイナリーを開設した。場所は町有地「新嵐山スカイパーク」の一画。ワイナリーを核に人々が集い、交流し、地域を活性化させることを目標に、町の公民連携事業として始まったワイン造りだ。

芽室町の町有地の新嵐山スカイパークの一画に開設された「めむろワイナリー」の外観
町有地の新嵐山スカイパークの一画に開設された「めむろワイナリー」

 生産者4戸が役員として参加するが、芽室でのブドウ栽培は、従来の作物と比べると「反収(10アール当たり収量)は低く、農家としては大赤字」。それでもワイン造りに懸ける理由について、ワイナリー社長で畑作農家の尾藤光一さん(58)は「いつか自分たちでワインを造りたい、との身に染みるような思いがあった。地域の酒を地域の振興、町づくりにつなげていきたかった」と語る。

小規模ワイナリーだからこそできる挑戦

醸造所内に設けられた見学通路のガラス越しに見える醸造所の設備
見学通路もあり、醸造所の中をガラス越しに見ることができる

 池田町ブドウ・ブドウ酒研究所(十勝ワイン)で約30年醸造に携わった広瀬秀司さん(71)が相談役となり、同じく同研究所の職員だった尾原基記さん(43)が「醸造職人」として切り盛りする。

ずらりと並ぶ、生産者ごとに仕込まれた小型のタンクを前に立つ尾原基記さん
生産者ごとに仕込まれた小型のタンクを前にする尾原基記さん

 きっかけは尾原さんがまだ同研究所にいたころ。2018年と19年、尾藤さんたちが委託したブドウの醸造担当になった。上司から伝えられたのは「任せる」の一言だった。「以前から造りたいと思っていたワインができて楽しかった。自分の物づくりは、こっちかな」と思った。
 昨秋、「小規模ワイナリーだからこそできる挑戦」を目指し、町職員から、めむろワイナリーへと転職した。

畑ごとの個性豊かなワイン造りを目指して

直売店にディスプレイされているワインボトル
直売店にディスプレイされているワインボトル

 醸造所には、生産者ごとに仕込まれた小型のタンクがずらりと並ぶ。「畑ごと」に造られる個性豊かなワインたち。尾原さんは「ブドウが届いた時点で100%。後はいかにマイナスを減らしていくか、醸造は減点法です」との姿勢で醸造に向き合う。

 生産者が自ら飲みたいというワインに近づけていけば、不思議とワインもその生産者に似てくるんですよ、と尾原さん。「造り方は色々あって、可能性も色々ある。それが難しくもあり、楽しくもある。芽室に骨を埋める覚悟。農家さんとディスカッションしながら、もっと質を上げて、もっともっと個性的で面白いワインを造っていきたい

札幌で7月に行われたイベントでワインを販売する尾藤光一さん(右)と恵田喜歩さん
札幌のイベントでワインを販売する尾藤光一さん(右)と恵田喜歩さん
〈編集長の北海道ワイナリー巡り〉⑤宝水ワイナリー(岩見沢) テロワールが溶け込んだ手工芸ワイン

芽室町にワイン文化を

めむろワイナリーの木樽

 かつて、多くの人でにぎわっていたという新嵐山スカイパークエリア。そんな町民にとって思い入れの強い場所で始まったワイン造りに、マネジャーの恵田喜歩さん(45)は「美味しいブドウで、美味しいワインを造って、ワイン文化を芽室に残していきたい。地元の食卓に、いつもワインが並んでいるような、そんな街に、いつかなればいいですね」と芽室の将来を思い描く。

◇    ◇    ◇

<めむろワイナリー>
芽室町中美生2線44の3(新嵐山スカイパーク運動広場内)
直売店があるほか、醸造所内をガラス越しに見ることができる見学コースもある。オンラインショップでも販売中。

 北海道にあるワイナリーは53を数え、今やワインの一大産地となっています。地形や気候、積雪量の違いなど、生産者たちは地域ごとのテロワール(風土)を生かし、時には自然と戦いながらブドウの樹を育て、ワイン造りをしています。
 人とブドウの生命力が勝ち取った「命の恵み」でもあるワイン-。そんなワインを生み出す北海道のワイナリーを編集長の山﨑が巡ります。

山﨑真理子
山﨑真理子

 北大水産学部時代に1年間、練習船に乗って遠洋航海に出ていた船乗り。北海道新聞社に入社後は、社会部の警察担当を振り出しに、網走、帯広、釧路など道内各地で勤務。東京勤務時代は政権交代時の民主党の番記者として、鳩山政権誕生を取材した。2022年4月にTripEat北海道を立ち上げ、初代編集長に就任。千歳支局長を経て、24年3月から旭川報道部長。

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