畑作農家が夢見たワイナリー
肥沃(ひよく)な畑作地帯が広がる十勝・芽室町の畑作農家たちが2020年、めむろワイナリーを開設した。場所は町有地「新嵐山スカイパーク」の一画。ワイナリーを核に人々が集い、交流し、地域を活性化させることを目標に、町の公民連携事業として始まったワイン造りだ。
生産者4戸が役員として参加するが、芽室でのブドウ栽培は、従来の作物と比べると「反収(10アール当たり収量)は低く、農家としては大赤字」。それでもワイン造りに懸ける理由について、ワイナリー社長で畑作農家の尾藤光一さん(58)は「いつか自分たちでワインを造りたい、との身に染みるような思いがあった。地域の酒を地域の振興、町づくりにつなげていきたかった」と語る。
小規模ワイナリーだからこそできる挑戦
池田町ブドウ・ブドウ酒研究所(十勝ワイン)で約30年醸造に携わった広瀬秀司さん(71)が相談役となり、同じく同研究所の職員だった尾原基記さん(43)が「醸造職人」として切り盛りする。
きっかけは尾原さんがまだ同研究所にいたころ。2018年と19年、尾藤さんたちが委託したブドウの醸造担当になった。上司から伝えられたのは「任せる」の一言だった。「以前から造りたいと思っていたワインができて楽しかった。自分の物づくりは、こっちかな」と思った。
昨秋、「小規模ワイナリーだからこそできる挑戦」を目指し、町職員から、めむろワイナリーへと転職した。
畑ごとの個性豊かなワイン造りを目指して
醸造所には、生産者ごとに仕込まれた小型のタンクがずらりと並ぶ。「畑ごと」に造られる個性豊かなワインたち。尾原さんは「ブドウが届いた時点で100%。後はいかにマイナスを減らしていくか、醸造は減点法です」との姿勢で醸造に向き合う。
生産者が自ら飲みたいというワインに近づけていけば、不思議とワインもその生産者に似てくるんですよ、と尾原さん。「造り方は色々あって、可能性も色々ある。それが難しくもあり、楽しくもある。芽室に骨を埋める覚悟。農家さんとディスカッションしながら、もっと質を上げて、もっともっと個性的で面白いワインを造っていきたい
〈編集長の北海道ワイナリー巡り〉⑤宝水ワイナリー(岩見沢) テロワールが溶け込んだ手工芸ワイン
芽室町にワイン文化を
かつて、多くの人でにぎわっていたという新嵐山スカイパークエリア。そんな町民にとって思い入れの強い場所で始まったワイン造りに、マネジャーの恵田喜歩さん(45)は「美味しいブドウで、美味しいワインを造って、ワイン文化を芽室に残していきたい。地元の食卓に、いつもワインが並んでいるような、そんな街に、いつかなればいいですね」と芽室の将来を思い描く。
◇ ◇ ◇
<めむろワイナリー>
芽室町中美生2線44の3(新嵐山スカイパーク運動広場内)
直売店があるほか、醸造所内をガラス越しに見ることができる見学コースもある。オンラインショップでも販売中。
北海道にあるワイナリーは53を数え、今やワインの一大産地となっています。地形や気候、積雪量の違いなど、生産者たちは地域ごとのテロワール(風土)を生かし、時には自然と戦いながらブドウの樹を育て、ワイン造りをしています。
人とブドウの生命力が勝ち取った「命の恵み」でもあるワイン-。そんなワインを生み出す北海道のワイナリーを編集長の山﨑が巡ります。