美しい景色に魅了されて
NIKI Hills Winery(ニキ・ヒルズ・ワイナリー)。名前の通り、仁木町旭台の丘の上に建つワイナリーは、広告代理店のオーナーが自社の研修施設用の土地を探している時に、余市湾を見下ろせる美しい景色に魅了され、「ここでワイナリーをやる」と決めたという。
準限界集落だった地域の山林を切り開いて2015年に開設した。現在ワイナリーは 33ヘクタールに及び、離農者たちの畑は8ヘクタールの美しいブドウ畑に生まれ変わっている。
2人の女性醸造家が織りなす香り高いワイン
素晴らしいロケーションの中、「エレガントで香り高いワイン」を創り出すのは、太田麻美子さん(38)とウィズリントン真理子さん(30)の2人の醸造家。
太田さんは東京出身で、畑の開墾などワイナリー立ち上げ時から携わってきた。一方、ニュージーランド出身でフランス、米国、イタリアでワイン醸造の経験があるウィズリントンさんは19年から参加。ワイン産地の山梨や長野なども見てまわったが、「どんなブドウがつくれるか、北海道が一番面白いと思った」と仁木町を選んだ。
太田さんは、降り積もる雪に「本当にブドウ栽培に適しているんだろうか?」と何度も不安になったという。冬に入る前には、ブドウの樹が雪の重みで折れないように寝かせ、春になるとまた起こして、木の杭などにワイヤで固定する。仁木町に来て、道外では必要なかった作業も増えたが、「冷涼な気候から生み出される酸味が欲しくても、引き出せない地域もある。雪がほしくても降らない地域がある。ならば、この環境をプラスに捉えて、ここでしか造れないものを」と思うようになった。
栽培するのは、ケルナーやバッカスなど欧州系品種。仁木町の自社畑と余市町の契約農家のブドウで年間3万本を生産し、ゆくゆくは5万本への増産を目指す。
2人で話し合い、議論しながらのワイン造り。ウィズリントンさんは、時に2人の意見が合わないことを「選択肢が増える。とても楽しい」と笑顔を見せる。そんな2人が生み出すワインについて「最初はフレッシュな果物のような香りを感じる。重すぎなく飲みやすいけれど、奥行きがあって複雑」と表現する。
五感を通じて感動を
ワイナリーが掲げるコンセプトは「五感を通じて感動をお届けしたい。」。総支配人は、世界で初めて南極大陸を犬ぞりで横断した世界的冒険家・舟津圭三氏が務め、広大な敷地には、醸造施設のほか、レストランと宿泊施設、四季折々の花が咲くナチュラルガーデンや広大な森林を抱える。
仁木町のテロワールを知ってもらうため、マウンテンバイクによるツーリングや、ネイチャートレッキングツアー、ワイナリーツアーなど、多彩な日帰り体験ツアーも用意する。
〈編集長のワイナリー巡り〉⑧北海道ワイン(小樽) 生産農家を思い 国産生ブドウを貫く
想像力かき立てるワイン
「ぜひ来て色々体験して、ワインと料理のマリアージュを心ゆくまで味わっていただきたい。想像力をかき立てるワインなので、きっと飲む人たちの会話が弾んで、盛り上がるはずです」
理想のワインを目指して、太田さんとウィズリントンさんの2人の醸造家が二人三脚で歩んでいく。
◇ ◇ ◇
<NIKI Hills Winery> 仁木町旭台148の1。ホテルとレストランを併設し、ショップでは有料試飲などが楽しめる。ワイナリーツアーのほか、トレッキングなど多彩な日帰り体験ツアーを用意。コロナ禍を配慮し、会員制(登録無料)、事前予約制をとる。詳しくはHP(https://www.nikihills.net/)
北海道にあるワイナリーは53を数え、今やワインの一大産地となっています。地形や気候、積雪量の違いなど、生産者たちは地域ごとのテロワール(風土)を生かし、時には自然と戦いながらブドウの樹を育て、ワイン造りをしています。
人とブドウの生命力が勝ち取った「命の恵み」でもあるワイン-。そんなワインを生み出す北海道のワイナリーを編集長の山﨑が巡ります。
(※記事中の情報は記事公開当時のものです)