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2023.02.28

〈編集長の北海道ワイナリー巡り〉⑯さっぽろ藤野ワイナリー(札幌市) 姉妹で紡ぐ優しいワイン

山﨑真理子
山﨑真理子

 北大水産学部時代に1年間、練習船に乗って遠洋航海に出ていた船乗り。北海道新聞社に入社後は、社会部の警察担当を振り出しに、網走、帯広、釧路など道内各地で勤務。東京勤務時代は政権交代時の民主党の番記者として、鳩山政権誕生を取材した。2022年4月にTripEat北海道を立ち上げ、初代編集長に就任。千歳支局長を経て、24年3月から旭川報道部長。

雪に包まれたさっぽろ藤野ワイナリーの外観
さっぽろ藤野ワイナリー

身体に良いワインを姉妹で造る

藤野の丘陵地帯にあるヴィンヤード
藤野の丘陵地帯にあるヴィンヤード
伊与部淑恵さん(左)と佐藤トモ子さん
伊与部淑恵さん(左)と佐藤トモ子さん

 札幌市南区藤野、国道235号から2キロほど入った丘陵地帯にある「さっぽろ藤野ワイナリー」は、道内14番目のワイナリーとして2009年に誕生した。

 社長の伊与部淑恵(よしえ)さん(76)が、妹の佐藤トモ子さん(71)と共に営むワイナリーが目指すワインをひとことで表すなら「優しいワイン」だ。
 「できるだけ農薬を使わずにブドウを栽培して、身体に良いワインを造ってみたい」。

 最初のワインが完成する前に亡くなった、大のワイン好きの弟の遺志を継ぐ。

ワイナリー内にある直売所
ワイナリー内にある直売所

造り手の人柄がワインを醸す

 野生酵母、無ろ過、酸化防止剤を極力使わない。ブドウも一房ずつ丁寧に選果し、除梗も手作業している。
 伊与部社長は「最も大事なことは、造り手の気持ち」と話す。

緑がまぶしいヴィンヤード

 ワインには造り手の人柄、性格が出る。心にゆとりがあると優しいワインになる。だから醸造家には常に冷静沈着に、無理なく、ワインに接して欲しい。そして、飲み手にも決していらいらした時に飲むのではなく、「飲むことで、心和ませ、より豊かで楽しい時間にしてほしい」と願う。

棚に積まれたさっぽろ藤野ワイナリーのワイン樽

「優しいワイン」に惹かれて

ケースに収められたワインボトル
こちらのワインボトルのエチケットは、醸造家の浦本忠幸さんの奥様がデザインしている

 醸造家の浦本忠幸さん(33)は、「優しいワイン」の味に一目ぼれした1人。北大理学部の学生時代に札幌市内で開かれたワインのイベント会場で藤野ワイナリーのワインを試飲し、「ワイン造りを学びたい」と門をたたいた。
 伊予部社長は「大変な仕事なので、何度も止めるよう説得した」というが、浦本さんの決心は固く、フランスなどでワイン造りを学び、藤野ワイナリーへ戻って来た。

ワイナリーに隣接するカフェ&レストラン「ヴィーニュ」の外観
ワイナリーに隣接するカフェ&レストラン「ヴィーニュ」

 自社畑のほか、余市や岩見沢などの契約農家からブドウを仕入れ、年間約2万5000本を生産する。シャルドネやピノノワールなど12種類のブドウ品種で、30種類以上のワインを生み出し、道内外から根強い人気を得ている。

最古のワイン製法「クヴェヴリ」でのワイン造り

 2016年からは、ワイン発祥の国とされる東欧ジョージア(グルジア)の伝統製法「クヴェヴリ」でのワイン造りにも挑戦。クヴェヴリは、ブドウを皮や小枝が付いたまま陶器のかめに入れ、土に埋めて発酵させる約8千年前からあるとされる醸造方法で、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている。

 藤野ワイナリーでは、道産粘土で焼いた高さ1メートル、直径最大70センチの甕(かめ)4個を使って「原点回帰の味」を仕込む。

100年続くワイナリーを

「やる気のある人にワイナリーを継いでもらいたい」と語る伊与部淑恵社長
「やる気のある人にワイナリーを継いでもらいたい」と語る伊与部淑恵社長

 この14年間について、伊予部社長は「無我夢中で過ぎた」と振り返り、「何度か辞めようかと思ったこともあります。ワイナリーって、結構大変な割には実入りが少ないんですよね」と笑う。

 ワインの一大産地に成長した北海道では近年、高額なワインも珍しくなくなったが、「醸造家が『値段はできる限り上げないで、みなさんに飲んでもらった方がいいんじゃないですか?』って言うのよ」と懐にも優しいワインを目指す。

 将来の夢は、やる気のある人に継いでもらい、このままワイナリーを維持していくこと。「ワインは100年事業。小さなワイナリーでいい。今まで通りこつこつと、一本一本を大事に、お客さまの希望がかなえられるようにやっていくのが願いです」

伊与部淑恵社長らワイナリーのスタッフ
伊与部淑恵社長(前列左から2人目)らワイナリーのスタッフ

◇    ◇    ◇

<さっぽろ藤野ワイナリー> 札幌市南区藤野670の1。SHOP(11時~17時、火曜定休)のほか、カフェ&レストラン「ヴィーニュ」(11時~17時、水曜定休、4~10月は毎日営業)、「エルクの森パークゴルフクラブ」も併設する。パークゴルフ場には、季節の花や池、ブドウ畑があるエルクの森の遊歩道「ガーデン・ルーラルリトリート」(無料)も楽しめる。

 北海道にあるワイナリーは50を超え、今やワインの一大産地となっています。地形や気候、積雪量の違いなど、生産者たちは地域ごとのテロワール(風土)を生かし、時には自然と戦いながらブドウの樹を育て、ワイン造りをしています。
 人とブドウの生命力が勝ち取った「命の恵み」でもあるワイン-。そんなワインを生み出す北海道のワイナリーを編集長の山﨑が巡ります。

(※記事中の情報は記事公開当時のものです)

〈編集長の北海道ワイナリー巡り〉⑮ボス.アグリ.ワイナリー(北見市) 探求心豊かな元酪農家が生み出す多彩なワイン
山﨑真理子
山﨑真理子

 北大水産学部時代に1年間、練習船に乗って遠洋航海に出ていた船乗り。北海道新聞社に入社後は、社会部の警察担当を振り出しに、網走、帯広、釧路など道内各地で勤務。東京勤務時代は政権交代時の民主党の番記者として、鳩山政権誕生を取材した。2022年4月にTripEat北海道を立ち上げ、初代編集長に就任。千歳支局長を経て、24年3月から旭川報道部長。

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