身体に良いワインを姉妹で造る
札幌市南区藤野、国道235号から2キロほど入った丘陵地帯にある「さっぽろ藤野ワイナリー」は、道内14番目のワイナリーとして2009年に誕生した。
社長の伊与部淑恵(よしえ)さん(76)が、妹の佐藤トモ子さん(71)と共に営むワイナリーが目指すワインをひとことで表すなら「優しいワイン」だ。
「できるだけ農薬を使わずにブドウを栽培して、身体に良いワインを造ってみたい」。
最初のワインが完成する前に亡くなった、大のワイン好きの弟の遺志を継ぐ。
造り手の人柄がワインを醸す
野生酵母、無ろ過、酸化防止剤を極力使わない。ブドウも一房ずつ丁寧に選果し、除梗も手作業している。
伊与部社長は「最も大事なことは、造り手の気持ち」と話す。
ワインには造り手の人柄、性格が出る。心にゆとりがあると優しいワインになる。だから醸造家には常に冷静沈着に、無理なく、ワインに接して欲しい。そして、飲み手にも決していらいらした時に飲むのではなく、「飲むことで、心和ませ、より豊かで楽しい時間にしてほしい」と願う。
「優しいワイン」に惹かれて
醸造家の浦本忠幸さん(33)は、「優しいワイン」の味に一目ぼれした1人。北大理学部の学生時代に札幌市内で開かれたワインのイベント会場で藤野ワイナリーのワインを試飲し、「ワイン造りを学びたい」と門をたたいた。
伊予部社長は「大変な仕事なので、何度も止めるよう説得した」というが、浦本さんの決心は固く、フランスなどでワイン造りを学び、藤野ワイナリーへ戻って来た。
自社畑のほか、余市や岩見沢などの契約農家からブドウを仕入れ、年間約2万5000本を生産する。シャルドネやピノノワールなど12種類のブドウ品種で、30種類以上のワインを生み出し、道内外から根強い人気を得ている。
最古のワイン製法「クヴェヴリ」でのワイン造り
2016年からは、ワイン発祥の国とされる東欧ジョージア(グルジア)の伝統製法「クヴェヴリ」でのワイン造りにも挑戦。クヴェヴリは、ブドウを皮や小枝が付いたまま陶器のかめに入れ、土に埋めて発酵させる約8千年前からあるとされる醸造方法で、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている。
藤野ワイナリーでは、道産粘土で焼いた高さ1メートル、直径最大70センチの甕(かめ)4個を使って「原点回帰の味」を仕込む。
100年続くワイナリーを
この14年間について、伊予部社長は「無我夢中で過ぎた」と振り返り、「何度か辞めようかと思ったこともあります。ワイナリーって、結構大変な割には実入りが少ないんですよね」と笑う。
ワインの一大産地に成長した北海道では近年、高額なワインも珍しくなくなったが、「醸造家が『値段はできる限り上げないで、みなさんに飲んでもらった方がいいんじゃないですか?』って言うのよ」と懐にも優しいワインを目指す。
将来の夢は、やる気のある人に継いでもらい、このままワイナリーを維持していくこと。「ワインは100年事業。小さなワイナリーでいい。今まで通りこつこつと、一本一本を大事に、お客さまの希望がかなえられるようにやっていくのが願いです」
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<さっぽろ藤野ワイナリー> 札幌市南区藤野670の1。SHOP(11時~17時、火曜定休)のほか、カフェ&レストラン「ヴィーニュ」(11時~17時、水曜定休、4~10月は毎日営業)、「エルクの森パークゴルフクラブ」も併設する。パークゴルフ場には、季節の花や池、ブドウ畑があるエルクの森の遊歩道「ガーデン・ルーラルリトリート」(無料)も楽しめる。
北海道にあるワイナリーは50を超え、今やワインの一大産地となっています。地形や気候、積雪量の違いなど、生産者たちは地域ごとのテロワール(風土)を生かし、時には自然と戦いながらブドウの樹を育て、ワイン造りをしています。
人とブドウの生命力が勝ち取った「命の恵み」でもあるワイン-。そんなワインを生み出す北海道のワイナリーを編集長の山﨑が巡ります。
(※記事中の情報は記事公開当時のものです)
〈編集長の北海道ワイナリー巡り〉⑮ボス.アグリ.ワイナリー(北見市) 探求心豊かな元酪農家が生み出す多彩なワイン