家族経営ワイナリーの先駆け
丘陵地帯が広がる三笠市達布(たっぷ)。古くからの農村地区で3代続いた畑作・稲作農家の山﨑和幸さん(69)が2002年、個人農家として全国で初めて酒造免許を取得し、「山﨑ワイナリー」を創業した。50を超えるほどに増えた道内ワイナリーの原動力にもなっている家族経営ワイナリーの先駆けとして、100%自社畑でブドウを育てている。
1989年、ニュージーランドへ農業研修に行ったのが始まり。新しい農業の姿を模索していた山﨑さんは、栽培から、加工、販売まで手がけるワイナリーに「自立した農業」の可能性を見いだした。
自立した農業を目指して
最初の年に仕込んだ、当時、寒冷な北海道では不向きとされていた高級赤ワイン用品種のピノ・ノワールのワインが評判となった。一躍全国に名が知れ渡ると同時に、道産ピノ・ノワールの将来性に懸けた志の高い造り手を道内に呼び込んだ。
現在、三笠ジオパークに認定されているブドウ畑12ヘクタールでピノ・ノワール、バッカス、リースリングなど欧州系9種類のブドウを育てる。これらから造るワインは、いずれも高い評価を得ている。
農村を次世代に引き継ぐために
ワイン造りについて、次男で栽培担当の太地さん(36)は、防風林を例に答えてくれた。
防風林を植えた人は、その恩恵に預かれない。次の世代が良い状態になれば、と植えたもの。次はもっとよくなる-。そうやって今に送ってもらった農村を次の代に渡すために、ワインを造っている、と。
だからこそワインは「達布の四季が思い浮かぶように造っている」と説明する。
ワインボトルに達布の四季を詰める
ワインが注がれたグラスの香りをかぎ、少しだけ口に含む-、そんな一連の動作の中で四季を感じてもらう。最初に感じるほんのりとした土っぽさ、緑の匂い、夏のような熟した果実の香り、冬のきりっとした味わい。
生産量の8割を自社販売するのも、ワインを買うために、この土地に来て、景色を見てもらうことに価値があるからだ。何なら泊まって行ってもらいたい。「そして本当に気に入ってくれたら、三笠に住んじゃう人が出てくるかもしれないでしょ?」と笑う。
良いワインを造るためには、良い地域になっていることが最も近道だという。ワイナリー併設の週末だけオープンする「SHOP」には、ワインが常時並び、地元の人たちがひっきりなしに訪れる。「ワインを買って、知り合いにあげてくれている。三笠の人たちが営業してくれているんです。だから粛々と、良いワイン造りだけをしていればいい環境になってきている」と感謝する。
〈編集長の北海道ワイナリー巡り〉①最北のワイナリー森臥(名寄市)かがり火を焚きながらブドウを守る
達布山から未来を語る
ワイナリーのすぐ近くには、地区のシンボル・達布山(143メートル)がある。頂上の展望台から石狩平野を一望できることから、北海道開拓期には測量の基準点とされた。明治中ごろまで、山県有朋や板垣退助、井上馨など政府の要人が道内視察の際に登り、北海道開拓の展望を語った場所だ。
目指すは、ワインに付随した域内産業を構築し、自活できる地域にすること。自分の残りの人生でできるか分からないけれど「達布から空知の未来をワイングラスを通してみてみたい」と思っている。
<山﨑ワイナリー>
三笠市達布791の22。ワイナリーに併設する「SHOP」は、土日祝日のみの営業で、支払いは現金のみ。HPは、http://www.yamazaki-winery.co.jp/index.html
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北海道にあるワイナリーは53を数え、今やワインの一大産地となっています。地形や気候、積雪量の違いなど、生産者たちは地域ごとのテロワール(風土)を生かし、時には自然と戦いながらブドウの樹を育て、ワイン造りをしています。
人とブドウの生命力が勝ち取った「命の恵み」でもあるワイン-。そんなワインを生み出す北海道のワイナリーを編集長の山﨑が巡ります。
(※記事中の情報は記事公開当時のものです)